今回取材に応じた男性もその一人でしたが、彼の行動には大きな代償が伴ったといいます。
普段は子煩悩な優しい父親
美容室を経営している毛利さん(仮名・35歳)は、自宅から職場まで毎日自家用車で通勤しています。「都内で10年間雇われ店長をしていましたが、地元の横浜に自分の店を持つことができ、1年前から経営者としての道を歩んでいます。
青山の人気店のような華やかさはありませんが、この地域は自然が豊かなところが気に入っています。休日は思い切って購入したワンボックスカーで、家族とピクニックに出かけることもあります」
自他共に認める子煩悩で温厚な性格の毛利さんですが、ハンドルを握るとその性格が変わることが、奥様にとっては心配の種だったようです。
仕事帰りの道で起きたトラブル
いつものように店を閉めて自家用車で県道を走行していた毛利さんは、自宅近くのコンビニに差し掛かった際、一台の軽自動車が前方に飛び出してきたといいます。「軽自動車が右確認をせずに突然大通りに飛び出してきました。その際、かなりのスピードで進入してきたため、私は制限速度で走行していたにもかかわらず、スリップ音が響きましたが、衝突は免れました。
その軽自動車は、まるで何事もなかったかのように走り去っていきました。気がつくと、私はクラクションを鳴らしながらその車を追いかけていました」
どうやら、毛利さんは前方の軽自動車を必要以上に追いかけ、車間を詰めたり蛇行したりしてあおっていたそうです。
冷静になって気づいた大きな後悔

「威嚇しながら執拗に追いかけているうちに、『俺、何をしているんだ?』と思うようになりました。その瞬間から徐々に冷静さを取り戻し、その軽自動車が路地に入った瞬間、なんとなく安堵したのを覚えています」
その後、あおり続けていた県道をUターンし、ぼんやりとした気持ちでゆっくりと帰路についたといいます。
「帰り道では、頭の中でさまざまなことを考えていました。たった割り込まれただけで、あれほど激しく怒ってしまった自分が少し怖く感じました」
しかし、自宅に帰ってから毛利さんはさらなる事実を知ることになります。
その日から続いた眠れぬ夜
毛利さんは、あおり運転についてネットの情報を調べていると、ある投稿者の記事を見つけて震え上がったといいます。「非常に気になっていたため、あおり運転の法律についての記事を徹底的に読みました。すると、『3年以下の懲役または50万円以下の罰金』と記載されており、ある被害者の投稿には『後方カメラの映像を警察に提出することで、容易に加害者を特定できる』という内容がありました。
私のあおり運転は、十分に撮影されていたでしょうし、あれほど目立つ行為は明らかにあおり運転そのものでした。今では、後方カメラを搭載した車が多く存在する中で、自分の愚かさに呆れています」
その日以降、毛利さんは通報されるのではないかという不安から食事が喉を通らなくなり、スマートフォンにかかってくる電話も警察からかもしれないと考えるようになり、仕事にも集中できない状態でした。
「妻にはこの経緯を話していないため、食欲がない私を見て病気を心配させていることを申し訳なく思っています。また、お店のお客さんからも『具合でも悪いの?』と聞かれる始末で、自分の行動を心から後悔しています」
<TEXT/八木正規>
【八木正規】
愛犬と暮らすアラサー派遣社員兼業ライターです。趣味は絵を描くことと、愛犬と行く温泉旅行。将来の夢はペットホテル経営