キャンプは夏がハイシーズンと思われがちだが、焚き火を楽しみつつ熱々の料理が旨くなる冬のキャンプを楽しむキャンパーは多い。
「秋から冬にかけては毛虫や蚊などの虫がいなくなります。
それだけでなく、焚き火の暖かさを感じながら食べる熱々の煮込み料理の旨さなど、夏では味わえない楽しさがあるんです。しっかりと防寒して、冬用の寝袋を用意して湯たんぽなどを使えば夜も快適に眠れます。中級者、上級者のキャンパーの中には、夏場を避けて秋から冬にかけてキャンプを楽しむ人は意外と多いんです」(アウトドアライター)

 だが、冬キャンならではのハプニングやトラブルも多く、中には大事故に繋がりかねないものも……。そこで今回は、冬キャンで起きたトラブルに遭遇した人たちに話を聞いた。

強風で火の粉が舞ってあわや火事に

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 キャンプ歴7年のAさんは今冬、“冬キャンデビュー”を果たした。しかし、そのデビュー戦は予想以上に厳しいものになったようだ。

「冬キャン経験者からいろいろレクチャーを受け、冬用のキャンプギアを揃え、山梨県のキャンプ場に行きました。そのキャンプ場は山の中腹にあり、甲府盆地の夜景と富士山を一望できるキャンプ場として有名なので、焚き火をしながら鍋料理を楽しんで熱燗を飲みながら夜は夜景、起きたら富士山を拝もうと目論んでいました。しかし、設営を終えて焚き火を楽しみ始めた夕方から徐々に風が強くなり始めたのです」

 その風は“強い”というレベルを通り越し、もはや台風レベルだったという。

「キャンプ場からは焚き火をやる際にはリフレクター(風よけ)を使うように言われたのですが、そのリフレクターが意味をなさないほどになってしまいまして……。タープの中を風が舞って、食器なども飛んでいってしまったのです」

 そして強風は食器だけでなく、焚き火の火の粉も舞い上がらせたのである。

「火の粉が盛大に巻き上がり、私だけでなく隣のサイトからも悲鳴と火の粉が舞い上がりました。飛んだ火の粉でダウンやテントに穴が空き、焦げた臭いが……。
砂も舞い上がったので、テーブルの上の食材や食器などは砂と炭まみれになってしまいました」

まるで雪山登山のような一夜に

 その後、Aさんは風で飛びそうなものは全て片付け、テントに籠もったのだが、風は夜半にかけてさらに強くなっていった。

「とにかくとんでもない風の強さで、あちこちから食器などが飛んで落ちる音が響きました。タープやテントに当たる風の音もすごかったのですが、本当に飛んで行くんじゃないかというくらいテントが揺れて、キャンプじゃなくて雪山登山でビバークでもしてるんじゃないかってくらい強烈でしたね。結局、風が収まる明け方近くまで眠れませんでした。冬キャンは天気予報で気温や雪だけでなく、風も気にしなきゃダメですね」

 ただ、散々な思いをした一夜だったが、翌朝は前日とは打って変わって風も収まり快晴。日本晴れの下、富士山を眺めながら朝食を楽しむことが出来たのだとか。

年越しキャンプで起きた「停電トラブル」

 また、キャンプ歴15年のベテランキャンパーBさんは、2年前に家族で行った年越しキャンプで起きたハプニングを話してくれた。

「ツールームタイプのテントをお座敷スタイルにして、断熱用に銀マットと新聞をしっかり敷き詰め、電源サイトなのでその上にさらにマットを敷いてホットカーペットを敷きました。これだけでもけっこう暖かいのですが、テントの中で鍋をしてさらにポカポカ。テント内では子供もいて火は危ないので、ガスコンロではなくIH調理器具で鍋を楽しみながら、紅白をラジオで聞いて家族でワイワイ。私と妻は熱燗を飲み、完全に出来上がった状態で年越しまであと1時間……というところで、いきなり電気が落ちたのです」

 ホットカーペットが消えたことで徐々に寒くなり、鍋からは湯気が消え、テント内はじわりと冷気が漂いはじめた。

管理人に電話した結果…

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写真はイメージ
 Bさん夫婦は慌てて外に出てみると、場内の電気は消えてテントから漏れる灯りでなんとか周りが見える程度。あちらこちらから「電気? あれ?」といった声が聞こえ、他の客たちも同じようにどうしたことかと外に出て、電源を確認していたという。

「どうやら宿泊客たちが使用した電力が増えすぎて、ブレーカーが落ちてしまったんです。他の客たちと話して管理棟に電話したところ、管理人は既におらず……。
緊急時の連絡先に電話したところ『これからキャンプ場に行きます』とのことでした」

 管理人が到着するまで20分ほど。その間、客たちは凍えながら過ごしたという。

「ダウンとか着込んでましたが、冬の山は本当に冷え込むんですよ。テントなんて布一枚で外と中を分けてるだけなんで、寒いったりゃありゃしない。薪ストーブを入れてるテントは大丈夫そうでしたが、『こたつ消えて地獄だよ~』なんて話してる人もいましたね」

管理人が到着してブレーカーを戻すも…

 だが、管理人が到着してブレーカーを戻すも、数分するとまた停電が起きてしまった。

「結局、使用する総電力がとんでもないことになっていたんですよ。その後も何度か停電したことで、年越し間際に緊急の場内放送で『電気の使用を控えてください』と。しかし、それでも停電は頻発し、1時過ぎまで断続的に停電が起きて年越しどころじゃなかったです」

キャンプ場は想像を超えた電気量

 翌朝、管理人と話すと「消費電力の想定を超えました。申し訳ありませんでした」と平謝りされたというが、管理人を責める気にはならなかったとか。

「確かにすごい電気使ってるんですよね。我が家はホットカーペットとIH調理器具だけだったんですが、隣のサイトの人はこたつ、電気毛布、セラミックヒーターを使っていると話してました。他にもドライヤーや炊飯器を持ち込んでる人もいましたからね」

翌年には電力制限ルールが導入

 その翌年、Bさんはまたも同じキャンプ場で年越しをしたのだが、その際は新たなルールができていたという。

「翌年も同じキャンプ場で年越しキャンプをしたのですが、予約時に『消費電力500Wまで』と書かれた紙を渡され、こたつや炊飯器は極力使わないように言われました。一昔前は年越しキャンプなんて、余程のキャンプ好きしかやんなかったものが、ここ数年はキャンプブームもあって年越しキャンプをする人は増えましたよね。
ブレーカーが落ちた年はほぼ満サイトで、みんな一斉にこたつやホットカーペット、IH調理器具を使ったら、そりゃ使用量を超えますよ」

 冬キャンプは魅力的だが、気温の低さや予想外のトラブルに対する準備が欠かせない。強風や停電といったトラブルに巻き込まれないためにも、事前の天気予報チェックや電力使用の管理を徹底することが重要だ。

 防寒対策やキャンプ場のルールを守れば、冬ならではの静けさと美しい景色を存分に楽しむことができる。トラブルに遭遇したキャンパーたちも、最終的には「また冬キャンに挑戦したい」と語っていた。

取材・文/谷本ススム

【谷本ススム】
グルメ、カルチャー、ギャンブルまで、面白いと思ったらとことん突っ走って取材するフットワークの軽さが売り。業界紙、週刊誌を経て、気がつけば今に至る40代ライター
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