みなさんは「なんとしてでも東京大学に合格しろ」と言われたら、どんな手段を取りますか?まずは進学塾に入ったり、家庭教師をつけたりして、勉強効率の向上とノウハウの吸収を狙うのではないでしょうか。
大学受験に限らず、大抵の資格試験は「合格する方法」が確立されています。
だからこそ、ノウハウを持った講師陣は重宝されます。世の親たちが血眼になって中学受験をさせるのは、少しでも良い環境に我が子を置きたいからでしょう。
ですが、その「良い環境」とは、学校のことではないかもしれません。東京には、一部の進学校に所属することで入塾資格を得られる特別な進学塾が存在するのです。今回は「進学校通いのエリートがこぞって通う壮絶な進学塾」の実態についてお伝えします。
東京大学受験指導専門塾「鉄緑会」
「鉄緑会」は東京大学・医学部対策の指導に特化した塾。一説によればその東大合格率は50%を超えるとされています。とはいえ、後述する塾のシステムを知れば、この数字はむしろ低いと感じられるでしょう。私は東大入学後に「鉄緑会」の存在を初めて知りましたが、首都圏の進学校に通う生徒で、「鉄緑会」の名を知らない人はいません。
鉄緑会の強みは「圧倒的な量と質」による東大合格に特化した指導体制と、精鋭のみを集めて鍛え上げる「指定校制度」にあります。
ホームページで挙げられた「指定校」は開成、桜蔭、筑駒、麻布、海城など毎年東大合格者を多数輩出する超進学校が含まれており、これら指定校の生徒は中学入学直後に限り無試験で入塾を許可されます。逆に指定校以外の生徒が入塾を希望する場合、入塾テストによる選抜があります。
できる子を徹底的に伸ばす方針なのでしょうか、鉄緑会の指導ペースは他の塾と一線を画します。なんと英語と数学について、中学校3年生までの間に、高校3年生までの6年分のカリキュラムをすべて終えてしまうのです。
高校からは復習も兼ねた演習問題に移りますが、この演習も東大入試が含まれるほどハイレベルなもの。英数を徹底的に伸ばす方針は高校2年生までの5年間続き、高2冬の時点で英数は東大合格レベルまで引き上げられます。
東大受験は英語と数学でハック可能

配点合計は440点にも及びますが、おおよそ250点~300点程度を確保すれば、大抵合格は可能。
問題はどこで250点を確保するかでしょう。実は、ここにこそ英数を伸ばす理由があると考えられます。
二次配点440点のうち、英語と数学の配点は文系で200点、理系で240点と約半分を占めます。ここで80%~90%の得点率が望めれば、この時点で150~200点を確保できる。
残った国語と理社で50~100点を確保できれば、合格が可能になるのです。そして、英数は比較的点数が安定しやすく他の受験生と差がつきやすい。
学校の授業中に塾の宿題を進める

そのため、鉄緑会の授業は一コマ3時間。しかも、延長授業は当たり前で4時間以上机に向かい続けることもザラ。さらに、宿題の量も非常に多く、鉄緑会に通う優秀な生徒でも「4~5時間はかかる」と言わしめる宿題が、毎週各教科について出されます。
英語数学だけの中学時代はともかく、数学Ⅲや理科が入ってくる高1、高2からは忙しさが飛躍的に上がります。1コマ3時間の授業を週に3コマ、4コマとりながら、さらに10~15時間はかかる宿題をこなさなくてはならない。もちろん学校の宿題や予習復習は別でやる必要があります。
ここで苦肉の策として編み出された「鉄緑あるある」な裏技が、内職です。つまり、学校の授業中にこっそり塾の宿題を進めるのです。
私は今、東大合格者にインタビューをしていますが、鉄緑会出身者のうち、内職をしなかったと答えたのはわずか2名。その他90%以上の学生は「内職をしていた」と答えました。
しかも、ある学生の証言によれば、「クラスメートの80%は鉄緑生だったが、そのほとんどが内職をしていた」とのこと。
世間離れしている苛烈な受験対策に疑問
東大進学者を多く輩出する進学校では、合格発表の際に進学塾が勧誘ビラをばら撒きます。鉄緑会からは「合格おめでとう。次は東大!」と書いたビラが配られるそうです。中学1年生4月時点ならば無試験で入塾できること、これが従来の東大進学黄金ルートであったことなどから、多くの学生が鉄緑会に入るといいますが、これを「東大進学黄金ルート」とする現状には疑問を抱かざるを得ません。
まるで、志望校に合格するためにと頑張った彼らの努力が、鉄緑会に入塾するためだったかのように見えます。塾で学業を頑張るのは素晴らしいですが、学校の勉強そっちのけで、塾にかかりきりにさせることに違和感を抱くのは私だけでしょうか。
近年では、鉄緑会への通塾率がそれほど高くない学校からの東大合格率が増えているそうです。とはいえ、2024年度東大理Ⅲ(医学部コース)合格者実績を見れば、100人中44人が鉄緑会出身と、その存在感は依然として健在。
「東大に合格しないほうがおかしい」と思わされるほど苛烈な受験対策が、世間離れしていると感じるのは私だけでしょうか。
―[貧困東大生・布施川天馬]―
【布施川天馬】
1997年生まれ。