創業50年以上の天然とんこつラーメン専門店「一蘭」は、今や海外からの観光客に大人気のラーメン店として知られている。観光地にある一蘭は、外国人観光客を中心に行列ができることが多く、日本人が気軽に入れない店舗もあるほどだ。

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これだけインバウンド需要が活況を呈している状況では、ともすると日本人のニーズが見過ごされがちだが、一蘭はどのようにして日本のファンを離さないために工夫しているのだろうか。

株式会社一蘭 広報部の新井愛実さんに、長年愛してくれる日本人ファンを大切にするための取り組みを伺った。

外国人観光客の行列が絶えない一蘭。“簡単に入れない店舗”が増えても「日本人ファンが離れない」ワケ
株式会社一蘭 広報部 新井 愛実さん

一蘭のちょっとした“エンタメ要素”がSNSで広まった


1960年に博多で誕生した一蘭は、創業から一貫して天然とんこつラーメンの味を追求しており、その変わらぬ姿勢が長年多くのファンを惹きつけている。

加えて、博多ラーメンならではの「替玉」は、お腹いっぱいラーメンを楽しみたい人にとって魅力的であり、さらにはスープの濃さや麺の硬さ、こってり度といったように、自分の好みに合わせたオーダーが可能なことも、一蘭が支持される理由と言えるだろう。

外国人観光客の行列が絶えない一蘭。“簡単に入れない店舗”が増えても「日本人ファンが離れない」ワケ
天然とんこつラーメン(創業以来)
そんななか、外国人観光客の人気に火がついたのはいつぐらいなのだろうか。

新井さんは「もともと海外のお客様には多くご来店いただいていたなかで、2014年頃からインバウンド需要が一気に高まった」と話す。

「SNSの普及も相まって、海外からの注目が集まり始めたのがこの頃です。一蘭の店舗の特徴である『味集中カウンター』はもとより、オーダー用紙・券売機の多言語対応や、替玉プレートを置くと『チャルメラが鳴る』といったシステムなど、一蘭の味だけでなく、食べる環境にもこだわった取り組みが『エンタメ要素』としてSNSで広まり『行ってみたい』と思う海外の方が増えた印象があります」(新井さん、以下同)

観光地とローカルで異なる来店客の特徴

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多言語表記のオーダー用紙
当時から一蘭の公式SNSアカウントを開設していたわけではなく、あくまで口コミで拡散され、気づけば列をなすほどの賑わいを見せるようになったそうだ。

一蘭は全国に81店舗(2025年4月時点)構えているが、出店エリアによって来店する客層が異なるという。

「外国人観光客のお客様が多く訪れるエリアとしては、浅草や新宿、渋谷、大阪、京都などが代表的ですね。

また九州では、弊社の本社がある総本店も含め、海外からのお客様が半分以上を占める日もあるほど、多くの方にご来店いただいている状況です。一方でロードサイドにある店舗では、地元にお住まいの方々を中心に日常的に利用いただいています」

「外国人観光客だからと迎合しない」一蘭が貫く“平等な一杯”の精神

外国人観光客の行列が絶えない一蘭。“簡単に入れない店舗”が増えても「日本人ファンが離れない」ワケ
一蘭の代名詞のひとつとなった味集中カウンター
今では、外国人観光客にとって定番のラーメン店になった一蘭。

外国人観光客が多く訪れる先述のエリアにある店舗では、毎日のように“行列”を見かけるようになった。ここで焦点になるのが、「日本人のファンが離れてしまわないか」という問題だ。

前提として、「国内外を問わず、すべてのお客様に対して、味集中カウンターで『最高の一杯を楽しんでいただきたい』という想いを大切にしている」と新井さんは語る。


「店舗に来店いただいた皆さまに対して、同じようにラーメンを楽しんでいただきたいという姿勢で取り組んでいるため、“海外のお客様が行列を作っている”という特別な意識はあまりないんですよ。あくまで一人ひとりのお客様として向き合っています」

「お子様ラーメン無料」で、日本人ファミリー層の支持を獲得

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一蘭公式アプリ
そうしたなかでも、一蘭公式アプリの「お子様ラーメン無料提供」は、日本人のファミリー層が多く利用するサービスとなっているそうだ。

「一蘭の公式アプリでは、小学6年生以下のお子様を対象に、大人1名につき最大5名まで『お子様ラーメン』を無料で提供しています。

当初は一部の店舗だけでしたが、今では全店舗でこのサービスを実施していて、ご家族連れのお客様を中心に好評いただいています。

また、アプリを通じて来店ポイントを貯めることもでき、貯まったポイントは替玉やご飯などと交換ができるほか、麺バー(アプリ会員)の方のお誕生月には替玉引換券をプレゼントしています。

こうしたサービスは、公式アプリが国内のみのサービスとなっていることからも、日本国内のお客様に向けた取り組みとして実施していますね」

外国人観光客の行列が絶えない一蘭。“簡単に入れない店舗”が増えても「日本人ファンが離れない」ワケ
ロードサイド店舗である相模原店
千葉や神奈川、群馬などの郊外にあるロードサイドの店舗では、外国人観光客がそれほど来店しない一方で、土日は子連れのファミリー層が行列を作り、「お子様ラーメン」のオーダーが多いとか。やはり、並んでいる客層については、一定の地域差が見られるということなのだろう。

一蘭の味を“家”でも楽しめる「お土産商品」の開発にも注力

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「お土産商品」の開発にも注力
そのほか、小売店や公式ECサイトで一蘭のお土産商品を販売しており、「店舗がない地域でも一蘭の味を楽しめるように工夫している」とのことだ。

「おみやげ商品の種類も少しずつ増やしています。店舗ではストレートの細麺をご提供しておりますが、おみやげ商品限定で、特製のちぢれ麺を販売しております。お店の麺とはひと味違う食感を、ご自宅でお楽しみいただけます。

また、一蘭の代名詞ともいえる“赤い秘伝のたれ”のノウハウをもとに開発した『一蘭 旨辛コク増し』は、炒め物や煮込み料理、揚げ物などさまざまな料理に使える万能な調味料ということもあって、お客様からの人気も高い商品です」

一部の店舗では限定メニューも。変わらぬ“とんこつラーメン”へのこだわり

最近では、木村拓哉さんのYouTubeチャンネルで、一蘭のラーメンを“完食”する動画が話題となった。このように、著名人やインフルエンサーが一蘭を取り上げる機会も多く、そのことも一蘭の口コミを広めるきっかけになっているようだ。


さらに一蘭ではメニューを多様化せずに、「天然とんこつラーメン」一本に絞り込んでいるが、一部の店舗では限定メニューを提供している。

外国人観光客の行列が絶えない一蘭。“簡単に入れない店舗”が増えても「日本人ファンが離れない」ワケ
なんば御堂筋店のみ提供されている「100%とんこつ不使用ラーメン」
外国人観光客の行列が絶えない一蘭。“簡単に入れない店舗”が増えても「日本人ファンが離れない」ワケ
天神西通り店のみ提供されている「釜だれとんこつラーメン」
「大阪のなんば御堂筋店では『100%とんこつ不使用ラーメン』を、福岡のキャナルシティ店では『和風とんこつラーメン』、天神西通り店では『釜だれとんこつラーメン』を提供しています。

いずれも店舗限定メニューとなっており、“ここでしか味わえない特別な一杯”としてご好評をいただいています。これからも世界一とんこつラーメンを研究する会社として、さらに磨きをかけていきたいですね」

連日、行列の絶えない一蘭は、働く環境の改善にも力を入れている。2018年から24時間体制で店舗をサポートする専門チームを設立。店長が不在でもスタッフが安心して働ける体制を整えてきた。

スタッフ採用ではAI面接を導入するなど、業界の課題である労働環境の厳しさや人手不足に対し、色々なアプローチで継続的に活躍できる環境づくりを進めている。

そうした企業努力が、一蘭の成長を支えていくのではないだろうか。

<取材・文・撮影(インタビュー)/古田島大介>

【古田島大介】
1986年生まれ。立教大卒。ビジネス、旅行、イベント、カルチャーなど興味関心の湧く分野を中心に執筆活動を行う。社会のA面B面、メジャーからアンダーまで足を運び、現場で知ることを大切にしている
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