ツンとくる“強烈な香水の匂い”
富田虎太郎さん(仮名・20代)は、いつものように会社に向かうため、通勤電車に乗り込んだ。「朝の通勤電車って、立っているというより“もはや物体として詰め込まれている”感覚ですよね」
車内へとなだれ込んだ瞬間、富田さんの右隣から“強烈な香水の匂い”が襲ってきたという。
「ツンとくる感じで、思わず顔をそむけたくなりましたが、身動きなんて取れるはずもありません」
目線だけで確認したが、“悪意はなさそう”だった。
「だからこそモヤモヤしました。こっちは必死に耐えているんだから、もう少し周囲のことを意識したらどうなんだと思いましたね」
しばらくすると、相手の肘が脇腹にぐいぐいと強く当たっていたという。
“揉めたら面倒くさい”からなにも言えなかった
「我慢の限界……。その人は、自分のスペースを確保したいのか、もはや周りのことなど考えていないようでした。でも、“揉めたら面倒くさい”じゃないですか。だから、文句も言えなかったんです」そして、富田さんは相手とふと目が合った。しかし、無表情のまま視線を反らされ、“なにもなかったかのような”態度に腹が立ったという。
「周りの人たちも、もちろんなにも言いません」
駅に着き、ようやく車外に出たときの空気が、異様においしく感じたそうだ。ただし、体に染みついた匂いと、肘の感触はしばらく消えなかったと富田さんは不満をあらわにする。
「結局、なにも言えなかった自分に一番ムカついているのかもしれません」
帰宅ラッシュ時に席が空いていて“ラッキー”と思ったら…

「雨だし座席は空いていないと思ったら、ちょうど空いていたんです。“ラッキー”と思って座った途端、絶望しました」
座席が凄まじく濡れていたのだ。それは、おしりが濡れて“冷たい”と感じるほどだったそうだ。
「座っていた人の傘や服が濡れていたために起こった悲劇だと思いました。家に帰るだけだったことが、不幸中の幸いでしたね」
座席の近くに座っていた人は、濡れていることをわかっていたはずだが……。
「なんで教えてくれなかったんでしょうか。悲しいし悔しいし、いろんな感情が入り乱れている状態で、頭が真っ白になりました」
雨の日は濡れていないか確認するように
田中さんは、最寄り駅に着くまで諦め、座ることにした。「どうせ濡れていますし、他の人が次に座ったら悲劇が続いてしまいます。タオルを敷いて多少は水分を吸ってくれたので、座席も徐々に乾いていました」
最寄り駅に着いた田中さんは、ほぼ走る勢いで歩いて帰ったという。田中さんが着ていた服は、仕事着だったため、濡れた服をタオルで挟みドライヤーで乾かしたそうだ。
翌日も仕事で着るため、洗濯しても間に合わなかったからだ。
「この日の経験から、雨の日に電車の座席に座るときは、必ず手で濡れていないかを確認するようになりました。
電車では個人のマナーが大いに問われる。だが、不快に感じても声をあげにくい空気があるのは事実だ。自分の何気ない行動が周囲の迷惑になっていないか、あらためて意識する必要があるだろう。
<取材・文/chimi86>
【chimi86】
2016年よりライター活動を開始。出版社にて書籍コーディネーターなども経験。趣味は読書、ミュージカル、舞台鑑賞、スポーツ観戦、カフェ。