日本は至るところに公衆トイレがあり、外出先で行きたくなっても困ることはほとんどない。だが、これは街中などの話で、田舎だとトイレを探すのも一苦労だ。

 実際、駅でも秘境駅のような利用客の少ないところはトイレがない場合も珍しくない。そもそも駅舎自体がないことも多く、仮にトイレがあったとしても使用禁止になっている場合もあるからだ。

 もちろん、駅の近くに公衆トイレやコンビニがあれば問題ないが、秘境駅だとそこも期待できない。実際、駅から1.6㎞離れた公共施設を最寄りのトイレとして紹介している糠南駅(北海道・宗谷本線)のようなケースもある。そのため、秘境駅巡りが趣味の筆者は、なるべく駅到着前に列車内のトイレを利用するように心がけている。

“トイレのない無人駅”で耐え切れず立ちションした男性の末路。...の画像はこちら >>

トイレのない真冬の秘境駅で猛烈な尿意が……

 そういう鉄道ファンは多いと思うが生理現象である以上、どうしても我慢できないこともある。某ローカル線で乗り合わせた佐藤道隆さん(仮名・24歳)もそんな経験を持つ。大学卒業を目前に控えた2年前の冬、とある雪国の秘境駅で猛烈な尿意に襲われてしまう。

「下車する前に車内のトイレで用を足そうと思ったら使用中でタイミングを逃しちゃって……。駅にトイレがあればいいなと淡い期待を抱いてましたが、予想通りトイレはなし。ただ、この時はまだ我慢できないほどじゃなかったし、1時間後に来る次の列車に乗ってからすればいいやと思ってたんです」

 しかし、一年でもっとも寒い1月上旬だったこともあり、尿意は大きくなるばかり。本来の目的である駅の撮影にも集中できず、限界が近づいていることを悟る。

「一応、Googleマップで近くに公衆トイレ、もしくはトイレを貸してくれそうなコンビニや飲食店がないか検索してみましたが、徒歩圏内にはどれもヒットせず。


 民家は何軒かありましたけど、いきなり『トイレを貸していただけないでしょうか?』と訪ねる勇気もない。だから、もういいや立ちションしちゃえって。それで駅前の隅っこのほうに急ぎ足で向かいました」

保線作業員に用を足している姿を見られてしまった

 ちなみに秘境駅ゆえに駅前には何もなく、駅に居たのは佐藤さんだけ。それでも生まれも育ちも東京という彼は、これまで立ち小便をした経験はゼロだったが、決壊寸前の状況で羞恥心を感じている暇はなかった。

「寒かったから朝からホットの缶コーヒーとペットボトルのお茶を飲んでいたため、大量に出てしばらく止まらなかったです(苦笑)。ところが、ホッとしたのも束の間、背後に車が近づく音が聞こえたんです」

 振り向くとワゴン車など数台の車が停まっており、降りてきたのは防寒具を着込んだ男たち。実は、彼らは駅や線路などの除雪を行う保線作業員だったのだ。しかも、そのうちの責任者らしき男性と思い切り目が遭ってしまったという。

「すでに用を足し終えましたが言い逃れできるような状況ではなく、雪が黄色く変色していた“決定的な証拠”も目の前にありましたから。もうこれは腹を括るしかないと思って自分からその男性に声を掛け、正直に謝りました」

 怒られることを覚悟したが、「いいよいいよ、この駅にトイレはなかったからね」と笑って話すと、ほかの作業員たちとすぐに除雪作業の準備に入ったとか。予想外の対応に拍子抜けしてしまったそうだ。

次の列車を待つまでの間が気まずかった……

“トイレのない無人駅”で耐え切れず立ちションした男性の末路。鉄道作業員に目撃され…「二度としない」
約1.6㎞先の公共施設を最寄りのトイレとして案内する北海道の糠南駅
「助かりましたけどね。だって立ちションって軽犯罪法違反や公然わいせつ罪に問われる可能性があるって言うじゃないですか。相手はお巡りさんじゃないから捕まるとかはなかったかもしれませんが、鉄道会社の方に駅前での放尿姿を見られているわけですから。


 たまたま寛容な人だったからお咎めなかっただけで、別の方だったらもっと面倒な状況になっていたのかもしれません。そう考えるとラッキーだったなって」

 さすがにそのまま放置しておくのは気が引けたため、黄色く変色していた部分に新雪を被せておいた佐藤さん。その後は列車が来るまで駅舎の中で待っていたが、作業員たちは外でずっと除雪作業を行っていたため、ちょっと気まずさを感じていたようだ。

「だって全員にバレてるだろうし、一刻も早く離れたいのにまだ30分以上もありました。あの時はいつも以上に時間が経つのが遅く感じました(苦笑)。同時に二度と立ちションはしないと心の中で誓い、秘境駅巡りをする時は水分を極力控えるようにしています」

「トイレはあって当然」ではない

 駅にトイレを設置すれば、維持管理のためのコストが当然かかる。最近は鉄道各社も厳しい経営を強いられており、利用客の少ない一部の駅にトイレがないのは不便だが仕方がない。

 都会に住んでいる方はあって当然と思い込んでいるかもしれない、その常識が地方でも必ずしも当てはまるわけではないのだ。

<TEXT/高島昌俊>

【高島昌俊】
フリーライター。鉄道や飛行機をはじめ、旅モノ全般に広く精通。3度の世界一周経験を持ち、これまで訪問した国は50か国以上。現在は東京と北海道で二拠点生活を送る。

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