現在、3組に1組が離婚する時代です。厚生労働省の人口動態統計(2023年)によると結婚が47万組に対して、離婚は18万組にも及びます。
たまたま3分の1に入ってしまったとしても、たいして珍しいことではありません。
しかし、子育て中にもかかわらず、結婚生活を終了させ、片親になることを選ぶのは大きな決断です。子どもがいない夫婦とは離婚の“重み”が違います。夫婦の間にまだ成人していない子どもがいる場合、父親と母親のどちらが引き取るのか……親権の所在を決めないと離婚することはできません(民法819条)。

「負けっぱなしじゃないですか」突如、子どもと引き離された40...の画像はこちら >>

「共同パートナー」に形を変えるのは簡単ではない

「長い間二人で話し合い、離婚という結論を出しましたが、第一に考えているのは子どものこと。これからは子どもの父親、母親として子育てについては互いに協力していくつもりです」

これは著名人が離婚する際、発表するコメントの雛形のようなものですが、本当に“元夫婦”が助け合って子どもを育てることは可能なのでしょうか? まだ信頼関係が残っているのなら、今でも一緒に住み、同じ空間で生活を送っているはずです。すでに信頼関係はなく、一緒に住めないし、まともな会話が成り立たず、できる限り、連絡をとりたくないから離婚したのではないでしょうか?

夫婦をやめたからといって、子どもを育てるという目的に限った「共同パートナー」に形を変えるのはそう簡単ではありません。「離婚したら友達に戻ろう」なんて虫のいい話です。

10年間子どもと面会できなかった高橋ジョージ

厚生労働省の統計(2022年、人口動態統計)によると、夫婦が離婚する場合、子どもが1人のとき、母親が親権を持つ割合は全体(4.5万人)の92%(4万人)。父親の割合はわずか8%(5千人)しかいません。ここでは妻が親権を持ち、夫には親権がない前提で話を進めます。

このように親権を持っていない夫が「離婚しても子どものために何かをしたい」と思っても、実際に育児を手伝わせてもらうのはハードルが高いです。例えば、週末だけでも子どもを預かり、一緒に食事をしたり、買い物をしたり、映画を見たりすれば、親権を持つ妻の負担は減るでしょう。それ以外にも例えば、学童、習い事の送迎、病気の看病、宿題のフォロー、学校や地域行事の参加、学校からの呼び出し、夏休み等の宿泊など。
離れて暮らしていても子どものためにできることは山のようにあります。

しかし、統計上(厚生労働省の2021年、全国ひとり親世帯等調査)夫が子どもを面会しているケースは全体の30%しかありません。たとえば、「ロード」で有名なTHE 虎舞竜の高橋ジョージさんは三船美佳さんと離婚して以降、10年間にわたり、子どもと面会できなかったそうです。

同統計によると妻が夫に子どもと会わせなくない理由の一番は「相手と関わりたくないから」(26%)。結婚生活を継続できないほど嫌いな相手なのだから、当然といえば当然ですが、どうしたら良いのでしょうか? 全体の66%は離婚時、面会の条件(日時、回数、送迎、面会方法など)を取り決めていません。逆にいえば、きちんとした約束を交わしていれば、離婚してもまだ面会できる可能性が残ります。

突然、妻が子どもを連れて実家に…

今回の相談者・右田健太(仮名、42歳)さんも思わぬ形で子どもと別居状態になり、一刻も早く会いたいと願う一人です。健太さんは妻との間に二人の子どもを授かり、一見すると幸せな結婚生活を送っていたのですが……。

ある日突然、妻が9歳の息子さん、6歳の娘さんを連れて実家に戻ったのです。知らない間に引越しは完了。住民票は転出、小学校は転校され、途方に暮れてしまったのです。

筆者は行政書士、ファイナンシャルプランナーとして夫婦の悩み相談にのっていますが、もし、健太さんが子どもを連れ戻すのなら、家庭裁判所に申立をし、引き渡しを命じてもらう方法があります。法務省の司法統計(2020)によると2020年の申立件数は2,568件。
一方、引き渡しが命じられたのは285件(10%)。極めて狭い門なのですが、どうしたら良いのでしょうか?

なお、本人が特定されないように実例から大幅に変更しています。また夫婦、子どもの年齢、別居の経緯や離婚の条件(親権の所在、養育費の金額、面会の約束などは各々のケースで異なるのであくまで参考程度に考えてください。

<家族構成と登場人物、属性(すべて仮名。年齢は現在)>
夫:右田健太(42歳) 会社員(年収600万円) ☆今回の相談者
妻:右田真帆(40歳) パートタイマー(年収130万円)
長男:右田裕太(9歳)
長女:右田亜理紗(6歳)

三行半を突き付けられる覚えはないのに

健太さんは「リビングのテーブルに合鍵だけが置かれていました。そのときは何が何だか分かりませんでした」と悲劇を振り返ります。仕事を終え、家に帰ると、家財や家具、家電はそのまま置かれていたものの、冷蔵庫に食材はなく、タンスに衣服はなく、子ども部屋にランドセルはなく……。ただの家出とは明らかに様相が違いました。そして妻から衝撃のLINEが届いたのです。「何も聞かずに別れてください」と。

健太さんが相談しに来たのは、それから一週間が経過し、ようやく現実を受け入れられるようになったタイミングでした。筆者は「何か前兆はあったんですか?」と尋ねると、健太さんは「少なくとも僕は(結婚生活が)順調だと思っていました」と答えます。妻子に逃げられるのは不倫をしたり、借金をしたり、暴力を振るったりするダメ亭主だけ。
自分には三行半を突き付けられる覚えはないと言うのです。

さらに翌日には裁判所から呼び出しの手紙が届いたそうです。封筒を開封すると妻が離婚の調停を家庭裁判所へ申し立てたことが書かれていました。これは健太さんと二人で話をするつもりはない。すべて裁判所を通してほしいという意味です。妻は健太さんの顔を見たくない、声も聞きたくない、話もしたくないと遠まわしに言っているのです。不信感、嫌悪感、そして恐怖心がいかに大きいかと暗に表しています。

「なるべく穏便に済ませたかった」というものの…

筆者が「どこかに通報したんですか?」と聞くと、健太さんは首を横に振ります。例えば、警察署に「子どもが連れ去られたんです!」と通報したり、小学校に「どこに転校したんですか?」と確認したり、弁護士に「子どもを連れ戻してください」と依頼したり……打つ手は多々あったはずです。しかし、「まだ離婚するって決まったわけじゃありません。途中で頭を冷やす可能性だってありますよね! そうなったときに戻ってきやすいよう、なるべく穏便に済ませたかったので」と健太さんは回顧します。

別居中の面会状況が離婚後も引き継がれることが多々。具体的には別居中に子どもと面会できていれば、離婚後もそのまま面会できる可能性があります。
一方、別居中に面会できていない場合はどうでしょうか?

仮に離婚後から面会を開始すると、離婚前までは面会していなかったので、その分だけ子どもの負担が増えます。その結果として面会の後に子どもが混乱し、体調を崩すことにつながる傾向があります。そうなったら子ども自身が「もう会いたくない」と言うことにつながります。妻はそれを理由に二回目の面会を断ってきます。

そもそも別居中、面会していないと子どもは妻の言葉しか聞きません。妻は子どもに対して夫の悪口や不満、愚痴などを吹き込み放題。それが嘘だと訂正する人がいません。そのため、子どもは夫のことが嫌いになり、いざ離婚が成立し、面会を求めても、子どもが嫌がるので面会できない状態になっているのです。

「やったもの勝ち」がまかり通る

そこで「今後についてですが、何を優先しますか?」と促しました。具体的には離婚の可否、親権の所在、養育費の金額、面会の条件ですが、健太さんは「もちろん、離婚したくないですし、親権だって渡したくないですよ。どうしても離婚するって言うなら養育費なんて払いたくなし、何より早く息子や娘と会わせてほしいんです!」と希望を並べます。

まず第一に離婚の可否ですが、前述の通り、妻の気持ちは堅そうです。そのため、健太さんが離婚を拒んでも、自宅に戻ってくることはなく、このまま別居が続きます。
離婚と別居の違いは戸籍だけです。離れ離れに暮らし、ほとんど連絡をとらず、お金だけ支払うという意味では離婚と別居は同じです。違うのは同じ戸籍に入っているかどうか。

別居の場合、妻にずっと「離婚してほしい」と言われ続けますが、戸籍を守るためだけに「嫌だ」と言い続けることができるでしょうか? 妻からの離婚要求はもちろん、離婚に応じれば終わるので、最終的には応じるしかありません。健太さんは「僕は何も悪くないのに、どうしてですか?」と食って掛かりますが、妻が子どもを連れて出て行ったのは問題なのですが、それでも離婚は不可避です。

第二の親権の所在ですが、今回の場合、子どもの年齢はまだ9歳と6歳。まだ母親が必要な年頃なので離婚する際、妻の方が圧倒的有利です。そのことは冒頭の統計(父親が親権を獲得したのは全体の8%)に現れています。妻は健太さんの同意なく子どもを連れ、家を出て行きました。にもかかわらず、子どもの親権を獲得できる可能性が高いのは不条理と言えば不条理です。なぜなら、「やったもの勝ち」がまかり通るからです。

しかし、筆者が知る限り、健太さんと同じ状況で、それでも夫が親権を手に入れることができたケースは、妻は男を作り、子どもは邪魔になったパターンしかありません。
妻が子どもを捨てるまで待ち続ける……子どものことを案じる健太さんがそのことを期待するのは酷です。つまり、健太さんが子どもを引き取る未来は期待薄だと言わざるを得ません。

“負けっぱなし”の状況に納得がいかない

そして第三の養育費ですが、健太さんが子どもの親権を持つことが難しいのは前述の通りです。非親権者は親権者に対して養育費を支払わなければなりません(民法766条)。毎月の金額は家庭裁判所が公表している養育費算定表にお互いの年収、子どもの年齢を当てはめて計算するのが一般的です。健太さん夫婦の場合、毎月10万円が妥当な金額です。

最後に第四の面会ですが、健太さんは親権を持てる見込みはないとはいえ、子どもに会う権利(面接交渉権)を有しています。そこで筆者は「仮に離婚が避けられないとして、どのような形でお子さんと会うことを望みますか?」と質問すると、健太さんは「最低でも月1回は会いたいですよね。彼女(妻)のことは全く信用していないので、こっちから迎えに行きますよ!近くにショッピングモールがあるので、そこが便利ですね。ファミレスでご飯を食べたり、好きなものを買ってあげたり、室内遊園地が入っているので、そこなら一緒に楽しめるんじゃないかな」と回答しましたが、健太さんは合点がいかない様子です。

「どういうことなんですか? 離婚に応じて親権を譲って養育費を払って、これじゃ負けっぱなしじゃないですか?」と食って掛かります。しかし、妻に完敗しろというわけではありません。離婚の可否、親権の所在、養育費の金額について譲歩する代わりに、せめて面会だけは実現しようという意味です。妻は早く離婚したいし、親権を確保したいし、養育費がほしいので、それなら面会については健太さんの希望を受け入れてくれるのではないかと。

月1回の面会を求めたところ、「嫌です」と…

これらのことを踏まえた上で、健太さんは離婚調停の場で「わかりました。子どもたちのことを考え、離婚に承諾しますし、親権も主張しません。養育費も相場が月10万円なら、その金額をお支払いします。その代わりに今すぐ、子どもたちに会わせてほしい。今後は月1回の面会を求めます」と必死に訴えかけました。健太さんは譲歩に譲歩を重ねたのですが、その答えはあっさりしたものでした。「嫌です」と。

妻いわく子どもに面会させるには前もって日時や場所、送迎の手順などを決めなければなりません。健太さんとやり取りをすると過呼吸を起こしそうなので無理だと言うのです。どうしたら良いのでしょうか?

筆者は前もって健太さんに「妻は実家にいるんですよね。妻が連絡を取りたくないと言ったら、義母(妻の実母)に取り次いでもらうのはどうでしょうか?」とアドバイスしておきました。妻は「聞いてみないと分からない」と保留したのですが、2回目の調停で妻は「分かりました。そうしてください」と言い、親権は妻、養育費は月10万円、面会は月1回という条件で離婚調停が成立したのです。

月1回のペースで面会を続けている

現在、離婚から1年4ヵ月が経過していますが、今のところ、健太さんは月1回のペースで子ども2人と面会を続けており、別々に暮らしている状況ですが、父親としての役割を果たそうと努めています。

ここまで最愛の息子さん、娘さんと無理やり引き離された健太さんが再会するまでの悪戦苦闘について紹介してきました。ところで同居したまま離婚する夫婦と、先に別居し、後に離婚する夫婦がいます。統計上、前者が3割、後者が7割なので(厚生労働省の2020年、「離婚に関する統計の概況」)離婚する前の段階で子どもは父親、母親どちらかに引き取られていることを念頭に置いてください。

もちろん、健太さんと同じ状況に置かれた場合、子どもを連れ戻そうと思うでしょう。家庭裁判所を通し、妻に対して子どもの引き渡しを求めることが可能ですが、法務省の司法統計(2020)によると2020年の申立件数は2,568件。10年前に比べ35%(2011年は1,679件)も増えています。そのため、今回紹介したケースは今後も増えることが予想されます。

<TEXT/露木幸彦>

【露木幸彦】
1980年生まれ。国学院大学卒。行政書士・FP。男の離婚に特化し開業。6年目で相談7千件、「離婚サポートnet」会員は6千人を突破。「ノンストップ」(フジテレビ)、「ホンマでっかTV」(フジテレビ)、「市民のミカタ」などに出演。著書は「男のための最強離婚術」(7刷)「男の離婚」(4刷)など11冊。X:@yukihiko55 ブログ:法律でメシを食う若造のブログ Facebook:yukihiko.tsuyuki
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