中学校へは1日も通っていない
――5月21日のお誕生日に合同会社を設立されたと伺いました。ダブルでおめでとうございます。会社設立は何か意図があってでしょうか。愛Ris:ありがとうございます。私は中学生ではありますが、中学校へは1日も通っていません。高校に進学しようとも考えていません。この状態のまま「フリーランスのアイドルです」と名乗るのは、やや抵抗があって。会社を設立することによって、自らの活動に責任を持ち、「本気で活動するんだ」という考えを表したかったというのがあります。
――一部ネットでは、「セクシー女優であるお母様にアイドル活動をさせられているのではないか」といった噂もありますが。
愛Ris:まったく事実と異なるので、そう見えてしまっているとすれば非常に心外です。私はこの活動を自分の意志で決めましたし、母から強要をされたことは一度もないんです。
ただその憶測が広まったきっかけに心当たりはあります。
セクシー女優デビューした母にかけられた言葉
――お母様がセクシー女優というのは、なかなか衝撃的ではなかったですか。愛Ris:母がデビューしたのは、私が10歳のときです。正直、セクシー女優がどんな仕事か、イメージできませんでした。母からは、「親の職業のことでこれから差別的な扱いを受けるかもしれない」という話はありました。これは今もそうなのですけれども、私は頑張っている母を尊敬していますし、私にとって常に身近でいいお手本だと思っています。だから、母の職業が理由で不自由を感じたことはないですね。
――小学校2年生から不登校だったと伺いましたが。
愛Ris:そうなんです。母が懸念していたこととはまったく別の理由で不登校になってしまいました。
この病気は、自律神経系の交感神経/副交感神経の働きが崩れてしまうことによって引き起こされるのですが、私の場合は、朝に起きることがまず困難になりました。それから、登校しても終始寝ぼけた状態でいるので、「言われたことを無視している」「怠けている」と評価されるようになりました。
本当につらくて母に相談して保健室に行くことを許可されても、それを先生に言うと「本当に具合悪いの?」と疑われることもありました。こうして、徐々に人間関係もうまくいかなくなり、不登校気味になっていったんです。どうして自分はみんなが当たり前にできることができないんだろう、と落ち込む毎日でした。
イジメを受けた小学生時代

愛Ris:いえ、正式な診断が下ったのは、小学校6年生のときです。小2で不登校を経験して、そのあとは隣町に自宅とは別に賃貸を借りて小学校に通うなどしていました。コミュニティの狭い地元と異なり、隣町は風通しが良いところでしたので、登校できるようになったんです。小4で地元に戻って、6年生の始業式あたりまでは通うことができていましたが、イジメなどで挫折した……という経緯があります。
――イジメというのは、具体的にどのようなことでしょうか。
愛Ris:いろいろありますが、ショックを受けたのは、下校のときのことです。数人で帰宅していて、でも私だけ会話に入れてもらえず。みんなで歩道を歩いていましたが、あるときいきなり車道の方へ押し出されたんです。小学生のときは、先生たちからも病気を理解してもらえずにサボりだと勘違いされていたし、集団に溶け込めなくて本当に辛い時間を過ごしました。
このまま社会に出るのは心配ではあるが…
――現在、中学校にはまったく通っていないとのことですが、勉強を習っていない状態で社会に出ると、辛いことが予想されませんか。愛Ris:その点は心配です。ただ、これまでお話してきたように、同年代とのやり取りにおいて少し難があるものの、目上の人たちとコミュニケーションを取るのは昔から好きなんです。未成年でもお手伝いが可能な母のイベントに参加して、受付業務を手伝ったり、母の経営する美容サロンで会計をやったり、座学はできなかったけれど、生の社会勉強をさせてもらっているなと感じます。
最近は歌詞も書くので、書籍を読むことで自分の世界を広げようと実践していますし、神社仏閣も好きで歴史も学んでみたくなりました。いわゆる教育課程とかけ離れた人生になってしまったけれど、いま私は学ぶことの大切さや楽しさを実感できていて、それはそれでよかったなと感じます。

病気で苦しむ人が“ダメ人間”の烙印を押されないために
――今後の活動の展望を教えてください。愛Ris:アイドルである以上は、多くの人から愛され、多くの人を癒やす存在になりたいと思っています。
死ぬ病気ではなくても、本人がとても暗い気持ちになったり、つらい目にあったりするものは多くあります。傍目からはサボりや怠けをみなされ、ややもすれば“ダメ人間”の烙印を押されてしまいかねないものに、今日も誰かが苦しんでいるかもしれない。社会に生きている人たちが、そんな風に想像力を働かせることができるようになったらいいなと思います。もしも私がそれを考えるきっかけになれるのなら、素敵ですよね。
=====
愛Risさんの屈託のない笑顔の裏には、誰からも理解されない孤独に打ちひしがれた過去があった。病に傷つき、人の無理解を知ってなお、愛Risさんは人を癒そうと自らの魅力を活かして芸能活動を続ける。多数決で天秤が傾いていくこの世界で、徹底して少数のほうへ突き進む勇気。いや、勇気ですらないのかもしれない。愛Risさんにあるのはおそらく、道を自力で切り開いてきた母への愛慕。自分の生きたいように生きていくことを肯定し合う母と娘の絆が、そこにあった。


<取材・文/黒島暁生>
【黒島暁生】
ライター、エッセイスト。可視化されにくいマイノリティに寄り添い、活字化することをライフワークとする。『潮』『サンデー毎日』『週刊金曜日』などでも執筆中。Twitter:@kuroshimaaki