もし、無料・無尽蔵に入手できる雑草をおいしく食べられたら……、「生きる力」が爆上がりするのではないだろうか。
身近な存在でありながら、魅力を知る者は少ない「雑草」。その底力とおいしい食べ方を、『おいしい雑草図鑑』の著者で雑草料理研究家の前田 純氏に聞いた。
無料で無尽蔵、おいしく雑草を味わえることは「生きる力」になる
――素朴な疑問から教えてください。雑草は野菜や山菜とは何が違うのでしょうか?前田 純氏(以下、前田):私がよく説明させていただくのは、人間にとって役に立たない植物を「雑草」といっています。
雑草だった植物を美味しく食べられるようにしたものが「野菜」ですね。「山菜」は雑草に近いんですけど、みんなが食べているものが「山菜」という形なのかと。
――なるほど。人間の都合で分けているということですね。
前田:ヨモギはヨモギ餅や生薬に使われ、人間にとって有用です。だから誰も雑草って呼びませんよね。でも農地に行くと雑草なんですよ。野菜が育たなくなっちゃうので。
だから、見方や立場によって「雑草」っていうのは結構変わってくるんじゃないかなと。
雑草がないとはちみつが作れない!?

前田:国が変われば価値観も変わりますよね。たとえばアメリカでは、セイタカアワダチソウは養蜂家にとって非常に重要な植物です。
アメリカは日本ほど植物の種類が多くないので、セイタカアワダチソウがなくなると養蜂ができなくなってしまうんです。
――セイタカアワダチソウのはちみつですか?
前田:日本にレンゲはちみつがあるように、向こうでは「ゴールデンロッドハニー」という名前で、セイタカアワダチソウのはちみつが普通に売られています。
日本人からすると少しクセがある味かもしれませんが、アメリカ人にとっては馴染み深い美味しいはちみつなんです。
夏に食べたい雑草のおすすめは、クセがなく食べやすい「シロザ」

前田:夏の雑草は食べやすいものが多いんです。『おいしい雑草図鑑』でも詳しく紹介していますが、「シロザ」がおすすめかな? シロザはホウレンソウの仲間でクセがまったくないので、炒め物にしてもおひたしにしても、どう調理してもおいしい。
野菜炒めの中にコマツナと一緒に入っていても、ほとんど気づかれないと思います。栄養価はホウレンソウの2~3倍もあるんです。

前田:畑の雑草なんですが、耕作放棄地など、荒れているところでも生えています。人間が管理していない緑が生えているような場所ですね。
雑草採取は、道路から2m以上離れて、変な枯れ方をしていないものを

前田:道端は犬の散歩などで汚れている可能性があるので、基本的に避けた方がいいです。排気ガスも気になりますしね。もし道路に面した荒れ地で採取する場合は、道路から2m以上離れた場所にするとよいでしょう。
――最低2mですね。
前田:いまの時季、草は青々としているのが普通ですが、農薬がかかっていると茶色っぽくなります。明らかに周りの緑と色が違う場所は避けてください。
雑草は野菜よりも有害物質を吸いやすい性質があるので、汚染されてそうな場所のものは食べない方が賢明です。
どんなことにでも使えるのが雑草の魅力
――雑草の面白さって、どこにあるのでしょうか?前田:大人になってから改めて感じたことですが、どんなことにも使えるというのが雑草の魅力のひとつかなと思っています。食べるだけでなく、衣服とか住居とか、昔はありとあらゆるものを雑草で賄っていました。
たとえばヨシという草は、茅葺き屋根に使ったり、壁の補強材に使ったりもしていました。衣服でいうとクズのつるで布をつくったり、カラムシを使ったり。
もちろん染色にも使えますし、燃やしてエネルギーにしたり、肥料にしたり。本当にありとあらゆるものに使われていたんです。
――昔は「雑草」ではなかったのですね。
前田:現代ではあまり注目されず、邪魔者扱いされていますが、誰も利用していないからこそ、無限の可能性があるともいえます。
食の面でも、どんな成分が含まれているかなど、まだ分析が全然されていない分野が多いんです。医薬品や化粧品に使える可能性も秘めています。
まさに“雑草根性”な力強さが面白い
――雑草は生命力もすごいですよね。前田:そうなんです。どれだけ人間が利用しようが、反対にどれだけ農薬会社が駆除を試もうが、なくならなかった。紀元前からずっと生えているわけですから。
抜いても抜いても生えてくる。こんな植物はなかなかないなと。それが雑草の性質でもあるんですけど、すごく面白いなと思っています。
身近で誰もが利用できて、抜いたからといって怒る人もあまりいない。
――注意して採取すれば、無料で食材が手に入るわけですね。
前田:雑草のことを知ると、普段の通学路や通勤路の風景が変わって見えるとよくいわれます。「こんなところに食べられるものがこんなにたくさんあったんだ!」と。
いままで気にもしていなかった空間が、まったく違って見えてくるんです。抜いても誰にも怒られませんし、特別な道具も場所もいりません。
手軽に始められて、世界の見え方が変わる。そんな面白いものが雑草なんです。
【前田 純(まえだ・じゅん)】
1982年8月、石川県生まれ。雑草料理研究家。京都大学農学研究科農学専攻雑草学研究室で雑草学を学び、在学時より、NPOや野外調査等にて雑草を題材として、ダッチオーブンや七輪等を用いて料理を行う。
〈取材・文/川添大輔 写真提供/前田 純〉