SNSには“坊主女子”なるハッシュタグもあり、検索すれば頭を丸めた女性たちの写真がずらっと並び、まさに壮観。
大阪でBARの店長を務めるにこるさん(25歳)も、“坊主女子”の一人。突如、長かった髪の毛を丸めてしまったのだという。なぜそうしたのか、率直に気になるところだ。本人の口から経緯を語ってもらおう。
坊主にした理由は?

それでも女性の髪型としてはまだまだマイノリティ。坊主にするには何かしらの“意味”が必要にも感じられる。翻って、にこるさんはあっけらかんとしていた。
「恥ずかしながら、私はちゃんとした理由がまったくなくて(笑)。ある朝起きて、ふと『坊主にしよう』って思い立ったんです。それまでは、坊主なんて考えたことさえありませんでした」
そこからの動きは早い。
「特に勇気もいらなかった」と飄々と話すにこるさんには、気負いも力みもなかった。このライトな感覚こそが、なんとも現在の若者らしい。
エアコンにビックリ「風の流れを頭皮で感じた」
思いつきの行動だとしても、大きな変化であることは間違いない。坊主になった自身の姿を鏡で見た際、どんな感想を持ったのか。「不思議な感じでしたね。そこにいるのが自分ではなくて『なんか坊主の人がいるなぁ』と。坊主にしてすぐにビックリしたのはエアコンです。風の流れを頭皮ではっきり感じるんです(笑)」
派手で奇抜な雰囲気が漂う勤務先のBARは、関係者の面々も個性的。ゆえに断髪式に参加したスタッフや常連客からは好評を博したそうだ。一方、それ以外の知人・友人からの反応も気になるところ。
「このあいだ、坊主にして初めて高校時代の友だちと食事に行ったんですが、最初はやっぱり驚いていましたね。でも、高校時代も部活の時間にずっと馬の被り物をかぶってバランスボールで跳ねていたりしたので、わりとすぐに『あなたならやってもおかしくないよね』と、納得していました(笑)」
坊主にしたら、むしろモテるようになった?

「朝にシャワーに入ることもあるんですが、髪が長いころはドライヤーも含めて身支度に90分くらいかかっていました。それが今は、ボディーソープで頭から一気に洗えちゃいます。起きてから最速で20分で家を出られますよ」
坊主にしたメリットはほかにも。
「以前は、2ヶ月に1度のペースで美容室に行っていて。毎回2万円はかかっていたので、経済的にも坊主は最高ですね。しいて言うならバリカンを充電する電気代くらい(笑)」
さらに、見た目が大きく変わったことで、精神的な変化もあった。
「引っ込み思案な性格で、人と話す時に前髪を触る癖があったんです。今は髪がないので、その癖が出せなくなって。強制的に明るくなれた感じはありますね」
以前、とあるテレビ番組で「モテすぎて坊主にした」と発言し、大きく話題を集めた女性がいた。その女性は、狙いどおりにモテなくなったようだが、にこるさんはどうなのか。
「私は“逆”ですね。お店に坊主好きの方いらっしゃるようになったり、SNSでフォローいただいたり、ニッチな部分でプチモテ状態になりました(笑)」
目下の悩みは「冠婚葬祭でどうするか」
もちろん、デメリットがないわけではない。「涼しく見えるかもしれませんが、帽子をかぶらないと直射日光が頭皮に直接あたるので、むしろ暑いこともあるんですよ。
SNSを遡って、彼女の過去の写真を見てみると、ガーリーな服装も多い。坊主にすると、服装の選択肢も減ってしまうのではないか。
「確かにそれはあります。それと、もし冠婚葬祭にお呼ばれしたら、このままでは行けませんね。ウィッグをかぶるか、開き直ってそのまま行くか……(笑)」
さらに、坊主にしてから街で声をかけられることもあり、坊主の女性に対して世間が抱いているイメージをぶつけられたことも。
「駅で50代くらいの女性に『なにか、病気なんですか?』って言われました。『そう見えるんだな』と勉強になりましたね」
坊主にした二日後に「頭皮にタトゥーを…」

……実は、坊主にしたわずか二日後にタトゥーを入れている。しかも、それが人生初めてのタトゥーだというから驚きだ。
「坊主にしようと思ってから、『せっかくなら、もっと思い切ったこともしてみよう』と。これも思いつきですね。全身にタトゥーを入れている知人が身近にいて、その人に相談したら『頭は震えるほど痛かったから、最初が頭はやめたほうがいいよ』と言われました。
思いつきとはいえ、止められてもなお依頼をする推進力たるや……いやはや見習いたいものだ。
「周囲に『坊主にして、タトゥーも入れる』って言っちゃってたんです。一度口にしたことを撤回するのはダサいから、『絶対やってやる』という一心ですね」
吐いた唾は呑めない、強い意志を感じる。ただ、タトゥーを入れている最中には、ついつい鋼の意志が揺らいでしまう。
「想像していたよりかなり痛くて『こんなに痛いのか! どうして私は予約してしまったんだろう』と施術中はずっと思っていましたね(笑)。でも、完成を見るとかっこよかったし、結果的には入れて良かったです」
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ノリで坊主頭にしたにこるさん。「環境が許すのであれば、他の女性にも勧めたい」と話すほど、すっかりハマっていた。「気分が変わればまた髪を伸ばすこともあるかもしれない」という彼女のように、気軽に坊主にする感覚は非常に現代的であるように感じられる。もしかすると、そう遠くない未来に“第一次坊主女子ブーム”が来るかもしれない。
<取材・文/Mr.tsubaking>
【Mr.tsubaking】
Boogie the マッハモータースのドラマーとして、NHK「大!天才てれびくん」の主題歌を担当し、サエキけんぞうや野宮真貴らのバックバンドも務める。またBS朝日「世界の名画」をはじめ、放送作家としても活動し、Webサイト「世界の美術館」での美術コラムやニュースサイト「TABLO」での珍スポット連載を執筆。