高校生の11人に1人が通信制に通う時代になっている。このトレンドは中学にも波及しており、教育事業大手のベネッセコーポレーションの参入でさらに拍車がかかりそうな状況となっている。

 学校に通わなくても、オンライン授業や自宅学習などの通信教育とレポート提出などで必要な単位を修得すれば卒業できるのが通信制高校である。ひところは不登校と呼ばれる子たちの“受け皿”と思われていたが、最近は「好きなことができる学校」としての評価が高まり、不登校の経験がなくても進路として選ぶ傾向が強まっている。

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「通信制高校」に在籍する生徒は20万人以上に

 文部科学省(文科省)が2024年12月18日に発表した「学校基本調査」によれば、2024年度に通信制高校に在籍している生徒の数は29万87人と、少子化といわれるなかでも過去最高となっている。1995年度には15万3983人だったが、2020年度に20万6948人と20万人を超え、そこからも急速に在籍生徒数が増えてきていることになる。

 学校数も急速に増えていて、2000年度には113校だったが、2024年度には303校となっている。しかも、まだまだ増えそうな状況だ。

 こうしたなかで注目されるのが、通信制中学も増えてきていることである。通信制高校と同じく、自宅でオンライン授業を受けたり、レポートを提出することなどで中学課程を卒業できる中学である。

「ベネッセ高等学院」の開校からわずか3ヶ月

 通信制高校のトレンドのきっかけになったのはN校だといえるが、ここを運営する学校法人角川ドワンゴ学園は2019年4月から「N中等部」を開校している。以来、次々に通信制中学が誕生している。

 そうしたなかの7月8日、ベネッセコーポレーションが「ベネッセ高等学院中等部」(以下、中等部)の開校発表会を開いた。同社は今年4月に通信制高校部門のベネッセ高等学院を開校したばかりだが、それからわずか3ヶ月で中学部門をスタートさせたわけだ。

 通信制高校でも通信制中学でも、同社はかなり後発の参入となる。ただし教育事業では大手として知られる同社が参入してきたということは、通信制高校や通信制中学が「市場」として大きな可能性が期待できる分野になってきていることを示してもいる。


義務教育ゆえ、越えなければならないハードルが

 高校と違い、中学は義務教育である。そのため、この対象年齢の子どもたちは国が認可している学校に通わなければならないことになっている。この学校は学校教育法第1条に定められた学校なので、1条校と呼ばれたりしている。

 通信制中学は、この1条校ではない。通信制中学だけで勉強していても法律違反になってしまう。そこで公立中学など1条校に在籍しながら通信制中学で授業を受けることになるが、そのためには通信制中学での勉強を在籍している学校に「出席」と認定してもらう必要があるのだ。通信制中学に通っていても在籍しているのは1条校なので、通信制中学に通っている正確な人数は把握されてもいない。

 学校外での学びを認める教育機会確保法が2017年に施行されて以降、学校外での学びを1条校が出席として認める傾向にはなってきている。しかし、出席として認めない頑固な「昭和」の校長が、たまにいたりする。校長と直談判することになるのだが、ややこしいことになる可能性もある。解決策は通信制中学に依頼してしまうことだ。たいていの通信制中学が、交渉の代理をやってくれるはずだ。ベネッセコーポレーションの中等部も例外ではない。


不登校の中学生が不安に感じているのは…

 通信制中学といっても、オンラインの授業だけではない。中等部では週に3日または5日、東京都や神奈川県、埼玉県、千葉県、大阪附に設けられている「キャンパス」と呼ばれる教室に通うコースもある。キャンパスに行っても、基本はオンラインでの授業である。学校に行かず、自宅だけで勉強するオンラインだけのコースもある。こうしたコースは完全固定ではなく、自由に変更することも可能である。

 2023年度において不登校と呼ばれる小学生・中学生は、文科省の調査(2023年度児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査結果の概要)によれば34万6482人と35万人近くにもなっている。このうち、中学生が21万6112人を占めている。

 20万人を超える中学生が不登校であり、その多くが勉強の遅れに不安を感じている。ちょっと古いが文科省の調査(2020年度不登校児童生徒の実態調査)によれば、74%が勉強の遅れに不安があったと答えている。

「進研ゼミ」のノウハウを活かせるメリットが

ベネッセが通信制中学に参入。「進研ゼミのノウハウ」は“不登校生徒が持つ不安”を解消するのか
ベネッセ高等学院中等部 学院長の上木原孝伸氏
 不登校と呼ばれる中学生の多くが勉強の遅れを気にしており、そこに通信制中学のビジネスチャンスもある。ベネッセコーポレーションの中等部開校発表会で中等部学院長の上木原孝伸氏は、「この部分(勉強の遅れ)を補完していくというのはベネッセのいちばん得意とするところです」と語っている。同社は通信教育サービス「進研ゼミ」での長年にわたる実績があり、そのノウハウを活かすことで中等部での勉強の補完にも自信をもっている。

 テストでの点数によって評価され、それによって進路も決まってくる傾向が強まる一方のなか、不登校であっても勉強は気になる存在なのだ。
1人でも勉強できる子は気にしないのかもしれないが、そういう子のほうが珍しいと思える状況では、そこを補完してくれる通信制中学は不登校の子にとっては魅力的な存在にちがいない。そして、わが子の将来を心配する保護者にとっても心強いはずだ。

 35万人近い不登校の数は、今後も減るどころか増えるのではないかと予測されている。そうしたなかで、通信制高校とともに通信制中学も、ますます注目されていくにちがいない。それは、既存の学校(1条校)の存在感がどんどん薄くなっていくことにもつながっていく。既存の学校はどうするのか、通信制が躍進しているなかで問われる大問題である。

<取材・文/前屋毅>

【前屋毅】
1954年、鹿児島県生まれ。法政大学卒業。ジャーナリストの故・立花隆氏、田原総一朗氏のスタッフ、『週刊ポスト』記者を経てフリーランスに。流通、金融、自動車などの企業取材がメインだったが、最近は教育関連の記事を書くことが多い。日本経済が立ち直るためにも、教育改革が不可欠と考えている。著書に『教師をやめる』(学事出版)、『疑問だらけの幼保無償化』(扶桑社新書)、『学校の面白いを歩いてみた。
』(エッセンシャル出版社)などがある。
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