こんにちは、シューフィッター佐藤靖青(旧・こまつ)です。靴の設計、リペア、フィッティングの経験と知識を生かし、革靴からスニーカーまで、知られざる靴のイロハをみなさまにお伝えしていこうと思います。
靴が足にフィットする条件として、カカト周りが小さいことは欠かせません。なぜなら、日本人のカカトは小さいからです。カカトの小さい靴をつくっているメーカーを具体的に挙げるなら、アシックス、オニツカ、ミズノ、パトリック、HOKA、ブルックスあたりが優秀です。
ではほかのメーカーは? といえば、5000円程度のスニーカーであれば、カカト周りはガバガバなことが多いです。それはなぜか。靴を立体にするときに、一番手間とコストがかかるのは、カカト周りからふまず部分にかけた部位を絞ることです。左右対称ではないので、マシーンと手作業で微調整を繰り返すか、マシーン自体に高いコストをかけなければ足にフィットする靴はつくれません。
格安製品は一見、まともな靴の形をしていますが、カカトがガバガバなので、決して足にフィットすることはなく、店で試したときはよくても、歩いて数時間すると激痛やしびれが襲ってきます。メーカーもショップも、Dや3Eなど、つまさきの幅は気にしますが、消費者がわかりにくい後ろ半分はおざなりなことがほとんどなのです。
カカトが小さく、フィットする靴は、カカト周り~ふまずでガシッとつかんでくれるので、つま先がガンガン当たることもなく、左右の多少のサイズ差も解消されます。
設計が古い名作の復刻も地雷あり

ややこしいことに、数万円を超える有名メーカーのコラボ品や、とくに「名作復刻!」などの謳い文句も地雷ワードです。
見えないリスク「加水分解」。ポリウレタンと合皮だけは要注意
「加水分解」。靴好きなら、このタイトルで一曲つくれるほど忌み嫌われている言葉です。とくに湿気の多いこの季節によく見られますが、道端に靴のパーツや底がまるごと落ちているのを見かけることがあります。あるいは履いていた靴の底が、呪いにかけられたように砂や泥のように崩れ落ちる現象が、加水分解です。空気中の水分と材料が化学反応を起こし、一度起きるとリペアも不可能、もしくは靴1足分くらいの高額修理になります。ポリウレタンと合成皮革が原因です。
ポリウレタンは靴底に、合成皮革は足をつつむアッパーに使われます。どちらも加水分解を非常に起こしやすい素材なので、長く使う予定の靴なら全力で避けましょう。
問題は合成皮革です。コストが安く、表面が均一で消費者からのウケも悪くありませんが、粗悪品は1、2年でバキバキに割れます。割れてこない、革より高いハイテク合皮もありますが、靴の分野の流通量としては圧倒的に少ない。わかりやすく「合成皮革」と書かれていることもあれば、オブラートに包んで「シンセティックレザー」「再生革」「〇〇レザー」などの表記もありますが、このへんも要は合皮なので注意してください。
表の素材には天然革を使っていても、内側の素材だけ合成皮革(アディダスのサンバ、スーパースターなど)ということもあります。わからなくなったら即スタッフに聞いてみるか、メーカーに直接問い合わせましょう。
スタンスミスならLUX一択

ガンガン歩く方ならメッシュアッパーのハイテクシューズがベターですが、長時間の立ち仕事や、せまい場所で小回りが必要な職場なら最適な1足。レギュラーモデルより、カカト周りもはるかにタイトなつくりです。内側にも革を使うスニーカーはシワが寄るので本当に手間がかかるのですが、そのぶん足を入れたときの感覚が病みつきになる方も多い。
とにかく靴が売れない時代です。メーカーのうたい文句やつま先だけの幅に惑わされないよう、「目的と寿命」×「カカト周りと素材」を賢く見極めていきましょう。
―[シューフィッター佐藤靖青]―
【シューフィッター佐藤靖青】
イギリスのノーサンプトンで靴を学び、20代で靴の設計、30代からリペアの世界へ。現在「全国どこでもシューフィッター」として活動中。