小学生時代から小柄な身体を最大限に活用するために編み出したこの投法は、身体を大きくひねり、全身のバネを使って投げ込むスタイルだ。島袋自身、小学生時代からトルネード投法を磨いてきた。2年生のときに出場した甲子園では春夏いずれも初戦で敗れている。センバツでは19三振を奪ったものの、終盤に崩れ初戦敗退。夏の甲子園では今宮を擁する明豊相手に9三振を奪ったが、センバツと同様に終盤に崩れてサヨナラ負けを喫した。2年生エースとして世間にインパクトは残したが、スタミナ不足を露呈していた。2年からの主力が多かったため、チーム自体も期待値は高く、島袋自身は2年から3年にかけて成長していく。
※本記事は『データで読む甲子園の怪物たち』 (集英社新書)より抜粋・編集したものです。
下半身を鍛え抜き、“世代ナンバー1左腕”に
「僕の投球フォームだと、疲労で一度バランスを崩したら、身体が横に倒れてしまい修正が難しい。去年の夏に負けた後、走り込みだけでなく器具をかつぎながらスクワットを行ったことで、下半身が安定し、投球動作の軸ができた」こう話すように、島袋は下半身を徹底的に鍛え抜いた。このトレーニングによって世代ナンバー1左腕が誕生する。
本人も「2年生の夏までは力勝負だけをしていた。だから終盤に打線に捕まってしまった。秋に新チームとなってからは、変化球をうまく使うことで、試合の序盤と終盤で配球の組み立てを変える工夫もできるようになりました」と話すように2年生までの力任せや試合序盤から飛ばすピッチングスタイルを見直し、さらなるレベルアップにつながったのだ。
センバツ決勝は「一人で198球投げた」
3年生になると手がつけられないぐらいになった。センバツ初戦の関西戦では、10安打を浴びながらも要所は力を入れ、14奪三振のピッチングを見せる。2回戦の西川遥輝(現・東京ヤクルトスワローズ)を擁する智辯和歌山戦でも10安打を浴びながらも11奪三振を記録し、完投勝利。準々決勝の帝京戦は完封勝利を成し遂げた。さらに、準決勝の大垣日大戦は完投こそしなかったものの、7回を自責点0に抑え決勝に進む。そして決勝は日大三戦だ。これまでとは違い、疲れもある島袋は2本のホームランを打たれるなどこれまでのようには抑えられない展開になる。ただ、自らを援護するように4打点を記録し、延長12回の死闘を一人で198球投げきりセンバツの頂点に立った。
冬場に3日連続で150球の投げ込みや40段ある階段で左足ジャンプをし、軸足を強化した。その結果、この大会は、まだセンバツの段階だったが、前年のスタミナ不足を改善したことはもちろん、最速145㎞/h台のストレートに縦のカーブやスライダー、ツーシームなどで緩急をつけ、46イニングで49奪三振を記録した。
大きな山場となった「準決勝の報徳学園戦」
夏にはさらなる成長を見せる。初戦の鳴門戦では7回を自責点0の好投。2回戦は試合巧者明徳義塾との対戦。明徳義塾は直球狙いだったが、島袋は「ちょっとでも緩急をつければひっかける」と冷静にピッチングを組み立て、12奪三振のピッチングで完投勝利。3回戦の仙台育英戦も10奪三振の完投勝利をあげるが、準々決勝は8回を投げて自責点3と少し疲れが見えはじめた。この夏の甲子園で大きな山場となったのが準決勝の報徳学園戦だ。報徳学園は島袋への対策はもちろん、試合序盤に機動力を活かし、畳み掛けたのだ。ただ、島袋を含めた興南ナインは冷静だった。島袋自身、「これだけ取られたし、もう取られないでしょ」との言葉を残しているが、その余裕が報徳学園にプレッシャーを与える。打線はジリジリと追い上げ、最終的に逆転する。島袋も、試合序盤こそ苦しんだが、終わってみれば12奪三振を記録した。
そして、東海大相模との決勝は4回にビッグイニングとした興南が一方的なリードを見せ、春夏連覇を成し遂げた。
中央大学入学後に歯車が狂い出す
決勝において島袋は120球を熱投。この大会783球目を三振で締めくくり、春夏の優勝投手となった。この奪三振で、甲子園通算130個目の奪三振を記録し、2024年の1月時点で歴代2位の記録となっている。夏の甲子園のピッチングを振り返ると、球速も安定していた。高校野球のレベル感で140㎞/h台中盤を投げる投手を攻略するのは難しかったのがわかる。さらに、「勝ち抜くためには力勝負ばかりではダメ。『考えるピッチング』で球数を少なくして、打たせてアウトを稼ぐことも必要」と言うようにツーシームを多用するシーンも見受けられた。高校生離れしたクレバーなピッチングを見せ、チームを春夏連覇に導いたのだ。
しかし、中央大学入学後に歯車が狂い出す。高卒でもプロで活躍できるレベルだった島袋は、大学1年からチームのために投げた。「大学2年の春までは調子がよかったんです。春のリーグ戦で開幕から2連勝し、調子がよかったので次の日大戦も投げました。
長期離脱によりバランスが崩れ、イップスに
とくに、開幕カードの東洋大戦で延長15回を一人で投げきり、226球を投げた。その後中1日で東洋大との3回戦に先発し、7回92球を投げる。さらに翌週、中6日で日大との1回戦に先発し、8回122球を投げた。開幕から3連勝したが、島袋の左肘は悲鳴を上げた。左肘内側側副じん帯に血腫ができ、すぐにドクターストップがかかった。肘が回復するまで、約5カ月のノースロー調整を強いられたのだ。興南連覇のメンバーである大湾圭人は「今まで大きなケガをしたことがない(島袋)洋奨にとって、長期離脱は野球人生初めてで、これによってフォームをはじめ、何から何まで狂ってしまったんじゃないかと思っています」と話すぐらい島袋は大きな代償を負った。
自身の成長とともにバランスが崩れたことにより、イップスを発症する。キャッチボールもまともにできない状況になり、島袋のピッチングは崩れてしまったのだ。その後、なんとか島袋は立て直すが、かつてのピッチングと比較すると物足らなさは否めなかった。
現在は母校でコーチとして活動
なんとか福岡ソフトバンクホークスからドラフト指名されるが、プロ入り後も苦しむ。2019年の引退後はサポートギアを作るメーカーに就職する。その後、興南の事務職員を務めるかたわら、学生野球資格回復の認定を取得。現在も事務職員を務めながら、コーチとしても活動している。グラウンドではおもに投手を担当し、甲子園を目指す選手たちの指導に当たっている。島袋自身、指導のなかで意識していることがあるようだ。
「まずはボールの強さですね。決して『低め、低め』と意識させず、まずは自分の持っている球に強さを求めなければなりません。強いボールを投げられるようになれば、次にその再現性を高める。
まずは球速や球威、強度などを高めていくことが必要と話す。島袋が話す内容を再現性高くできれば、数多くの好投手が生まれるだろう。自身の成功体験と苦しんだ面を上手く融合していきながら、さらに強い興南を作り上げていってほしいところである。また、島袋本人はもちろんのこと、現在オリックス・バファローズで活躍している宮城大弥(興南OB)のような投手を輩出してほしい。
<TEXT/ゴジキ>
【ゴジキ】
野球評論家・著作家。これまでに 『巨人軍解体新書』(光文社新書)・『アンチデータベースボール』(カンゼン)・『戦略で読む高校野球』(集英社新書)などを出版。「ゴジキの巨人軍解体新書」や「データで読む高校野球 2022」、「ゴジキの新・野球論」を過去に連載。週刊プレイボーイやスポーツ報知、女性セブンなどメディアの取材も多数。Yahoo!ニュース公式コメンテーターにも選出。日刊SPA!にて寄稿に携わる。Instagram:godziki_55 X:godziki_55 TikTok:@godziki_55 Facebook:godziki55