―[あの日夢見た雲組]―

 2023年6月15日、乃木坂46の公式ライバルグループとして結成した「僕が見たかった青空」(通称:僕青)。
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 同グループはセカンドシングル以降、シングル選抜システムを採用。
メンバー23人は、表題曲やメディア出演をしていく選抜の「青空組」と、ライブやイベントなどを中心に活動する「雲組」の2つチームに分かれて活動している。

 この連載「あの日夢見た雲組」は、8月6日リリースの6枚目シングル「視線のラブレター」で構成された雲組単独公演のライブとともに、雲組で切磋琢磨するメンバーに注目していく。

「私が公演を台無しにしたら……」つきまとう不安

 7月17日、新体制となった僕青の雲組単独公演#20・名古屋公演が行われた。カチューシャがトレードマーク、僕青の最年少メンバー八重樫美伊咲は全体リハーサル前からステージに現れて立ち位置の確認をしていた。今回の雲組公演のセットリストは、八重樫がメインメンバーを務めるデビュー曲「青空について考える」で幕を開ける。そのプレッシャーを誰よりも感じていたからだ。

13歳で上京「1人で買い物もできなかった」僕青・八重樫美伊咲が語るプレッシャーと決意
僕が見たかった青空 僕青 八重樫美伊咲
「雲組は今まで(杉浦)英恋がメインメンバーとして引っ張ってくれていて、英恋は見ている人の気持ちを掴むような表現力が本当に素晴らしいんです。雲組で彼女のパフォーマンスをずっと見てきたから、『私が1曲目の“青空について考える”の(八木)仁愛ちゃんのポジションをやることで、雲組の公演を台無しにしてしまったらどうしよう』という不安と毎回戦っています」

 本番前には、水を少し多めに飲んで気持ちを落ち着かせる。「新体制の雲組メンバーで初めての地方公演だったので、表情やパフォーマンスなど、ギャップを感じてもらえる公演にしたいと思っていました」。最初は緊張した面持ちだったメンバーも、名古屋公演に集まったファンの声援を受けると笑顔がはじけた。

年齢関係なく引っ張っていける存在になりたい

 見た目は落ち着いてみられるが、メンバーといるときは天真爛漫な妹キャラ。だが、その一方で、殻が破れない自分にもどかしさを感じていた。

「例えば、雲組で話し合いがあったとしても、『上から目線だと思われないかな』『嫌われたくない』という気持ちが強くて、自分の意見が言えないことが多かったんです。

新体制の雲組では(工藤)唯愛と一緒にメインメンバーというポジションを任せていただいて、『年齢に関係なく、私も雲組を引っ張っていけるメンバーになりたい』という明確な目標も確立してきました」

13歳で上京「1人で買い物もできなかった」僕青・八重樫美伊咲が語るプレッシャーと決意
僕が見たかった青空 僕青 八重樫美伊咲
 そんな気持ちが名古屋公演で強く表れたのは、中盤に披露した「炭酸のせいじゃない」だ。
缶コーラを開けて炭酸を飲み干すような振りから物語が展開する楽曲で、刹那的な歌詞だけでなくメンバーの表情にもファンの視線が集まった。

「いろいろなパートにわかれていて歌中心の楽曲だからこそ、私の表現力で届けられるものを作り上げていきたい。人によって解釈が変わる歌詞なので今もパフォーマンスに悩むことが多いけど、曲の世界観がしっかり伝わるように毎公演大切に歌っています」

雲組の未来を照らす2人のパフォーマンス

 そして、公演の終盤。6枚目シングル「視線のラブレター」に収録されている雲組の楽曲「虹を架けよう」をパフォーマンス。高校1年生コンビの八重樫と工藤唯愛をグループ初のダブルメインメンバーに据えた新体制を象徴する一曲だ。

13歳で上京「1人で買い物もできなかった」僕青・八重樫美伊咲が語るプレッシャーと決意
終演後のお見送りの様子。左から僕青リーダーの塩釜、八重樫、工藤
 そんな雲組の未来を照らす2人のパフォーマンスはこの日、一番の盛り上がりを作った。

「新曲に関して唯愛とは、『最年少メンバーだから出せるものがあるよね』ということを話していたんです。『虹を架けよう』っていうタイトルを聞いたときに、私たちのことかなって感じたんです。楽曲に対する思いやアイデアも出して。いろんな考え方を重ねていって、1つの表現にできたなと思います」

上京前は1人で買い物もしたことがなかった

 そう笑顔で話す彼女だが、13歳で僕青に加入した当時は泣いてばかりいた。僕青のオーディションへの挑戦を後押ししてくれた母親が、合格後も宮城県から一緒に上京して近くで支えてくれると思っていたからだ。

13歳で上京「1人で買い物もできなかった」僕青・八重樫美伊咲が語るプレッシャーと決意
僕が見たかった青空 僕青 八重樫美伊咲
「考えが本当に甘かったんです。私は一人っ子なので、いつもお母さんにべったりで1人で買い物もしたことがないような子でした。店員さんにお金を渡すことができなくて、お母さんにレジに並んで買ってもらうぐらい、とにかく人が怖かった。
そんな私を見ていて、『このままではダメになってしまう』と感じたんだと思います」

 中学2年生で親元を離れることになり、オーディションに合格してから上京まで約3週間。上京後はその生活環境の変化に心が追いつかずに、「どうしたらいいのかわからない……」と毎晩泣きながら母親に電話した。それでも「慣れるから、ちゃんとやりなさい」と優しい言葉はなかった。

心の支えになってくれた存在でありライバル

「(上京)当時はレッスンや撮影にいくたびに、『私はアイドルグループには馴染めない』と自分で自分追い込んでしまう地獄の日々でした。デビュー前の合宿でも、メンバーは話し掛けてくれるのに、どう会話を広げていいのかわからないから素っ気ない態度を取ってしまって。そんな私の心の支えになってくれたのが、同じように北海道から一人で上京してきた唯愛でした。もし唯愛がいなかったら、私は僕青にはもういなかったかもしれないです」

13歳で上京「1人で買い物もできなかった」僕青・八重樫美伊咲が語るプレッシャーと決意
僕が見たかった青空 僕青 八重樫美伊咲
 デビューシングルでも近いポジションで、関係は変わらないと思っていた。しかし、セカンドシングル「卒業まで」で選抜制度が導入されてから、工藤は青空組でスポットライトを浴びて、八重樫は雲組でくすぶっていた。

「ずっと同じだと思っていたのに、唯愛は青空組に選ばれて差がどんどん開いて、『なんで私はできないんだろう……』と悔しくて自分を責めたときもありました。でも、最近撮影とか一緒にお仕事する機会も増えて、彼女の成長した部分や魅力に触れて刺激をすごく受けています。唯愛はどう思っているかわからないけど、私はライバルだと思っているし、負けたくないです」

13歳で上京「1人で買い物もできなかった」僕青・八重樫美伊咲が語るプレッシャーと決意
僕が見たかった青空 僕青 八重樫美伊咲


グループ内に推し「スクショも持ってます」

 極度の人見知りだった彼女も挫折を経て、アイドル3年目を迎えた。「メンバーからも『最初は猫被っていたでしょ』って言われるぐらい性格が変わりました」。さらに最近ではグループに“推し”もできた。

13歳で上京「1人で買い物もできなかった」僕青・八重樫美伊咲が語るプレッシャーと決意
僕が見たかった青空 僕青 八重樫美伊咲
「早﨑すずきちゃんが本当に可愛くて、その場にいる全員を明るくしてくれる天性のオーラがあるんです。
受かった当時は、勝手に怖い子だと思っていて話し掛けづらかったんですけど、私のアイドル人生になくてはならない存在。すずちゃんがSNSに投稿した写真とか、ライブ映像のスクショとかも持ってます。これを知られると少し気まずいですけど……(苦笑)」

 推しの隣りに居たいと、青空組への憧れも強くなった。そのためには「もっと負けず嫌いになりたいし、僕青で私が胸を張れる個性を見つけたい」と新たな決意を話す。

13歳で上京「1人で買い物もできなかった」僕青・八重樫美伊咲が語るプレッシャーと決意
僕が見たかった青空 僕青 八重樫美伊咲
「中途半端なところで辞めちゃう癖があって、『なんで今なの?』っていうところで諦めちゃうんです。でも、僕青の活動を通じていろんな人との関わる楽しさを知ることができているし、もっと僕青に貢献したいんです。私の強みは、歌うこと。よく歌声がいいねって言っていただけることがあるので、歌で僕青を引っ張っていける存在になっていきたい」

トレードマークのカチューシャで強くなれる

 今はもう母親に泣いて電話することもなくなった。「お母さんは雲組の公演を見に来ると褒めてくれるときもあるんですけど、ほとんどがダメ出しになるので、ちょっと嫌です(笑)。だけど、自立した姿を少しは見せられているのかな」と嬉しそうに笑った。

13歳で上京「1人で買い物もできなかった」僕青・八重樫美伊咲が語るプレッシャーと決意
僕が見たかった青空 僕青 八重樫美伊咲
「トレードマークになっているカチューシャは僕が見たかった青空のメンバー発表会のときに、『着けさせてください』と自分からスタッフさんにお願いして、白のカチューシャを用意していただいたんです。お母さんも定期的にカチューシャを送ってきてくれるんですよ。
カチューシャを着けると戦闘モードに切り替わって強くなれる感じがあります。アイドルの八重樫美伊咲にはなくてはならないものですね」

 そんな母からの愛情とトレードマークのカチューシャとともに、彼女は雲組のステージで歌声を響かせる。

【八重樫美伊咲(やえがしみいさ)】
2010年、宮城県生まれ。ニックネームはみーさ。2023年6月15日に結成したアイドルグループ「僕が見たかった青空」(通称:僕青)の最年少。8月6日6thシングル「視線のラブレター」が発売。8月31日には、豊洲PITでデビュー2周年記念を祝うワンマンライブ「アオゾラサマーフェスティバル2025」が開催予定。雲組としては、「僕が見たかった青空 雲組単独公演 #21」が8月21日(木)にSHIBUYA PLEASURE PLEASURE(東京・渋谷)で、「僕が見たかった青空 超雲組公演 HYPER」が9月27日(土)にLIQUIDROOM(東京・恵比寿)で開催される。最新情報は公式HPをチェック

<取材・文/吉岡 俊 撮影/安藤龍之介>

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