セ・リーグは首位を走る阪神に早々にマジックが点灯し、2年ぶりのリーグ優勝はほぼ確定的。残る5球団を応援するファンの興味はクライマックスシリーズ(CS)争いへと移行しつつある。

 阪神を追う巨人は2位につけているとはいえ、46勝48敗3分で借金生活。首位から12ゲーム離れており、目標に掲げていた連覇の夢は遠のくばかりだ。

日米通算200勝まで「あと2勝」の田中将大が復帰へ

 そんな巨人に明るいニュースが一つ舞い込んだ。5月1日に登板したのを最後に二軍で調整していた田中将大が、7日(木)のヤクルト戦で久々となる一軍復帰を果たすという。
 二軍では今季ここまで12試合に先発し、4勝2敗、防御率3.46とまずまずの成績を残している田中。前回登板(7月30日)のイースタン・ヤクルト戦では5回を投げ5安打、1失点、最速147キロのストレートを投げ込むなど、上々の投球を披露していた。

 そして、6月から7月にかけて3試合合計で15回13失点という“炎上”続きの時期を乗り越え、ようやく一軍のマウンドに戻ってくる。これには、グリフィンや西舘勇陽といった主力投手の離脱も田中の一軍昇格を後押しした形だ。

 前回登板で147キロを計時したように、春先に比べると田中のストレートも徐々に球速を上げている。ただ、数字ほどの球威は感じられないのが現実で、5.60という低い奪三振率が何よりの証拠。

 その一方で、コーナーを丁寧に突く制球力は健在だ。5回を2~3失点に抑える投球を継続できれば、あと2勝に迫った日米通算200勝も見えてくる。

巨人入団後に待ち受けていた「厳しい現実」

 田中は昨年12月の入団会見で、あと3勝に迫っていた節目の200勝に向けて、「3勝で終わる気持ちはない。チームのために一つでも多くの勝利に貢献したい」と話しており、是が非でも今季中に200勝を飾っておきたいのが本音だったはずだ。


 そのためにも久々の復帰戦とはいえ、最低でも試合をつくる投球は披露し、残りの2ヶ月間は一日でも多く一軍で過ごしたいところ。春先のように、早いイニングにKOを食らうようでは、すぐさま再び二軍行きを言い渡されてもおかしくないだろう。

 田中といえば、2014年から20年までヤンキースでプレー。21年に古巣の楽天に復帰し、昨季までの4年間で20勝を挙げた。楽天にとっては間違いなく球団屈指の功労者である田中だが、契約交渉で決裂。200勝が目前に迫りながら、古巣を追われる羽目となった。

 逆に言えば、楽天は田中に対して復活の可能性を見いだせなかったということ。巨人へ移籍後も、「久保康夫巡回投手コーチの“魔改造”にかかれば、V字回復も可能」という期待の声も上がったが、やはり現実は厳しかった。

記録達成後は“お役御免”の可能性も?

 しかも巨人が田中と結んだのは1年契約。そのため、もし田中が今季中に200勝を達成してしまうと、ビジネスの面で“戦力外”を言い渡される可能性が高まってしまう。

 昨季オフに巨人が田中を獲得したのは、補強という側面もあったが、それと同時に日米通算200勝に向けた盛り上がりに乗じるビジネス面の意味合いも大きかったはずだ。

 実際に、今季初登板となった4月の中日戦で移籍後初勝利となる通算198勝目を飾ると、球団はすぐさまステッカーやカードなど次々と“198勝”記念グッズを販売。それらを手にした巨人ファンも少なくないはずだ。


グッズ展開から見える「球団の本音」

 ただ、田中が幸先よく白星を挙げたため、200勝はもとより、199勝の記念グッズまですでに手配していてもおかしくないだろう。つまり巨人としては、何とか田中には今季中に大台200勝を達成してもらい、ビジネス的なリターンを早めに回収しておきたいはず。
 もし200勝が来季に持ち越しとなれば、そのためだけに契約延長に動かざるを得ないだろう。逆に今季中に200勝を達成すれば、巨人とすればすんなりとお役御免を言い渡すことができる。

 まさに残り2ヶ月で現役続行を懸ける形となる田中とすれば、頭の片隅にある思惑がよぎっても不思議ではないだろう。それが、今季の200勝達成は“寸止め”にしておいて、新たに来季の契約を結ぶというものだ。

残り2ヶ月の活躍が来季契約のカギ

 もちろん巨人と田中の両者がウインウインとなるのは、今季残り2ヶ月で田中が快刀乱麻の投球を続け、来季も戦力になると証明することだろう。年齢的には36歳と老け込むにはまだ早い。

 2学年上のダルビッシュ有は、35歳シーズンに16勝、36歳シーズンの翌年にも8勝を挙げるなど息の長い活躍を続け、昨年5月に田中に先んじて日米通算200勝を達成。今季もケガから復帰後は、優勝争いを演じるパドレスのローテーションの一角を担っている。

 かつて“200勝争い”で先行していた田中としては、やはりこの数字だけは絶対に達成しておきたいだろう。ただ、それをいつ、どのように達成するかが来季以降の田中の運命を分けることになりそうだ。

文/八木遊(やぎ・ゆう)

【八木遊】
1976年、和歌山県で生まれる。
地元の高校を卒業後、野茂英雄と同じ1995年に渡米。ヤンキース全盛期をアメリカで過ごした。米国で大学を卒業後、某スポーツデータ会社に就職。プロ野球、MLB、NFLの業務などに携わる。現在は、MLBを中心とした野球記事、および競馬情報サイトにて競馬記事を執筆中。
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