参議院選挙で躍進を遂げた参政党。政策や組織運営には多くの問題が指摘されているが、その組織力は侮れない。
参政党・神谷代表の日本を“バリア”で守る発言
先の参議院選挙、参政党が躍進して話題になっている。しかし、その幼稚さが既にあらわになっている。投票日のインタビューで、神谷宗幣代表は、「在日米軍にも核にも頼らず、どうやって日本を守るのか」と問われ「バリア」と真顔で答えた。聞いたアナウンサーの声の方が裏返っていた。
また東京選挙区で、最初は泡沫候補だった、さや候補。本名非公開で選挙戦を戦う。いつの間にか「謎の候補」と話題になっていたが、2位当選。当選後に本名や既婚である事実を公開。ただ参政党憲法構想案の第13条第5項には「候補者及び議員の本名、帰化の有無、収支等の情報は公開される。」とある。これでは、さや議員の存在そのものが立憲主義に反する。
もちろん、参政党憲法構想案が日本国の憲法ではないので、違憲にはならない。
参政党はネタの宝庫だが現実に向き合わねばなるまい
などなど、参政党はネタの宝庫でキリがない。こういうことを言うと、党員や熱心な支持者は反発。人の話を聞かないこと、マルチに嵌まった客の如し。ちなみに、参政党の集金集票能力がマルチ(ネットワークビジネス)の手法に酷似しているとは、既に週刊誌から指摘されはじめた。ようやく気付いたのか、ネタを溜めていたのか……。マルチだかネットワークビジネスだか知らないが、いずれにしても怪しげな政治ビジネスで数を集めている輩が中心人物であるのは間違いなかろう。
3年前の参議院選挙の直後、日刊SPA!で「私は、ネットワークビジネスに対する神谷の態度が甘すぎると、参政党(正確には当初はDIYと名乗っていた)には、はっきりと参加を拒否した」と書いた。そういう体質の党員や支持者が集まるのもうなずける。
このように参政党の政策と態度は最悪だが、だからこそ躍進した現実に向き合わねばなるまい。
主要政党が前近代軍だとしたら、参政党は近代軍
この党、SNSで情緒的に訴えるだけでなく、そのSNSの使い方を教育している。他の党よりも党費が高いが、それだけに意識が高い。毎日のメルマガで党の主張を教え込み、集会など活動があれば教育する。SNSなどの“空中戦”だけでなく、全国に支部を作り地方議員を当選させるなど、“地上戦”も機動的だ。掲示板のポスター張りなど、どこの党よりも早い。田舎町を歩いていると、突然「オレンジの家」に出くわす。参政党の熱心な支持者の家が、参政党のカラーに物理的に染めているのだ。これほどの熱量、侮ってはならない。
国王の傭兵を、フランスの国民軍が蹴散らした歴史を思い出させる。傭兵はプロだが、意識は低い。一方、国民軍は素人の寄せ集めだが意識は高く、採れる戦術が幅広い。
参政党は新興宗教の如き組織力
たとえば極めて実務的な話をすると、自民党などほとんどの政党は、集会すべてに招集をかければ支持者が疲れるので、絞って集める。しかし、参政党の党員や支持者は全部行く。だから、全政党で最多の動員率を誇る。選挙最終日には、東京で2万人。勢いのある国民民主党ですら5000人。舐めてはいけない。この手法を神谷宗幣に最初に教えたのが何を隠そう、私である。
近代政党の定義は、綱領・全国組織・議員の三要素からなる政党。明確な綱領があり、シンクタンクが何をするか政策を練り上げ、党首直属のスタッフが組織的に全国に下ろしていく。綱領に従った党員が全国組織を作り、議員を当選させる。公明党と共産党は、この意味での近代政党なので強い。
それに対して、自民党や多くの政党は、議員に個人後援会や団体が付随しているだけなので、政策などは最後に決める前近代的な組織だ。
最近も神谷代表、「公明党は創価学会が支配している。あれをやるんです」と街頭で演説していたが、本当にこの通りやっている。確かに、参政党は新興宗教の如き組織力だ。「誰がこんなやり方でやれと言ったか」と言いたいが。
公明共産は近代政党だが、国民政党ではない
この話には続きがある。では、なぜ近代軍である公明党や共産党は、自民党を上回る議席を獲得したことが無いのか。
公明共産が掲げる理念(綱領)が、多くの日本人に受け入れがたいからである。その点で自民党は国民の多数に受け入れられる、国民政党である。自民党は結党以来の危機を迎えるたびに、広く国民に受け容れられる政策を打ち出し、支持を取り戻してきた。
つまり、公明共産は近代政党だが、国民政党ではない。自民党は近代政党ではないが、国民政党である。ここに、今後の日本政治を読み解く鍵がある。
既成政党は現実を認めた上で対策せねば……
ところが今の自民党は、減税が求められている選挙で「消費税を守り抜く」と「殺してくれ」と言わんばかりの態度をとって、このザマだ。もはや自民党は、自分たちが「反省などしなくてもいいから消えてくれ」と突きつけられている現実を受け入れられないのではないか。そして、野党第一党の立憲民主党はそれ以下の存在。
もう50年、政治そのものへの不信が続いてきた。そうした不信層の支持を参政党が得ている現実を、既成政党は認めた上で対策せねば。
歴史では往々にして、ああいうのが天下を取る。
―[言論ストロングスタイル]―
【倉山 満】
憲政史研究家 1973年、香川県生まれ。救国シンクタンク理事長兼所長。中央大学文学部史学科を卒業後、同大学院博士前期課程修了。在学中から’15年まで、国士舘大学日本政教研究所非常勤職員を務める。現在は、「倉山塾」塾長、ネット放送局「チャンネルくらら」などを主宰。