セ・リーグDH制導入の背景
パ・リーグがDH制を導入したのは、今から50年前の1975年。両リーグは、50年にわたって違うルールの下でプレーしてきたが、交流戦が始まると、パ・リーグがセ・リーグを圧倒。DH制の有無が両リーグの実力差に直結していると囁かれるようになり、セ・リーグではDH制の導入が活発に議論されてきた。そしてつい先日、日本高校野球連盟が来年のセンバツからDH制を導入すると正式に発表。これがセ・リーグの背中を押す決定打となった。
現役選手をはじめ、OBやファンなどからは、DH制に対して歓迎する声が目立つ。特にDHの導入で、期待されるのがセパの格差縮小。実際に同じルールで試合が行われるようになれば、両リーグの格差は徐々に縮まっていくだろう。すでにメジャーリーグがそれを証明している。
MLBに見るDH導入後のリーグ格差変化
まだ両リーグでDHのルールが違った時代は、メジャーでもDH制を採用していたア・リーグが強かった。実際に交流戦では、2004年から17年まで、14年連続でア・リーグがナ・リーグに勝ち越していた。その後、18~19年はナ・リーグが挽回し、わずかに勝ち越し。コロナ禍で一時的にDH制が導入された2020年は全くの五分だった。そして投手が打席に立つ最後の年となった21年は、再びア・リーグが勝ち越していた。
そしてナ・リーグにDH制が導入された22年もア・リーグが辛くも勝ち越していたのだが、導入2年目の23年、3年目の24年と2年連続でナ・リーグが逆転に成功。わずか数年でリーグ間の形勢をひっくり返してしまったというわけだ。
NPBでもDH制の導入から2~3年後にはセパの格差が縮小してもおかしくないが、メジャーに比べるとトレードやFAによる移籍は限定的。格差の縮小にはもう少し時間を要することになるだろう。
NPBが進める「リプレー制度改革」
また、NPBは、セ・リーグのDH制導入のほかに、リプレー検証の制度改革にも乗り出す。これまでのプレー検証は、判定を下した審判団が自らおこなっていた。今後はこれを、第三者が球場外で確認し、判定を下すことになる。人員や球場内のカメラの整備などが順調に進めば、来季にも「リプレーセンター(仮称)」が設置されるようだ。セ・リーグのDH制導入やリプレーセンターの設置など、NPBの大きな山が一気に動いた印象だが、こうなると数年後にはさらなる改革がおこなわれる可能性も出てくる。具体的には、すでにメジャーではお馴染みの「タイブレーク」と「ピッチクロック」の導入だ。
どちらも試合時間の短縮を目的に取り入れられているが、もともと引き分けの概念がなく無制限で延長をおこなっていたメジャーでは好評。平均試合時間は約30分も短縮し、それが新たなファン開拓にもつながっているという。
世界基準へ移行するNPBの“スピード改革”
日本ではバッテリー間の配球や監督の次の一手を読む“考える野球(シンキングベースボール)”が重視されてきた歴史がある。しかし、今のメジャーの試合とNPBの試合を比べると、スピード感は全く別物だ。
間合いを大事にする“野球”からメジャー流“ベースボール”へのスタイルチェンジに、一部のファンは嫌悪感を示すかもしれない。それでも、やはり新たなファン獲得のためにはプレーのテンポアップや延長での早期決着による試合時間の短縮は必須。メジャーのように1試合あたり30分短縮することができれば、平日の試合開始を会社員にはより優しい午後6時30分にするなどのメリットも生まれるだろう。
国際大会を見ても、DH制とタイブレークはもちろん、2026年度のワールド・ベースボール・クラシック(WBC)では、ピッチクロックも採用される見通し。さまざまなカテゴリーの侍ジャパンが、アメリカをはじめとした世界の強豪国と対等に戦うためには、世界基準のルールに沿っていくしかない。
メジャーに学ぶ「NPB未導入ルール」
実際にNPBはメジャーリーグのルールを追随してきた歴史があり、ここ数年は遅れていたが、今後はその流れを踏襲していくはずだ。例えば、あまり日本では議論にはならないが、ベースのサイズ拡大や、牽制球の回数制限など、メジャーにあってNPBにないルールはまだ多い。
いずれもここ数年の間にメジャーが取り入れた新たなルールだが、ベースの大型化は盗塁成功率を高め、試合をよりスピーディーにする効果があった。牽制球の回数制限も同様で、むしろ今までナゼ無制限だったのかと思わせるほど、試合のスピードアップに貢献している。
NPBでは、球団数を拡大する議論も行われており、新たなファンの獲得は至上命題。今よりエキサイティングな試合が増えるならどんどん新しいルールを取り入れるべきだろう。
文/八木遊(やぎ・ゆう)
【八木遊】
1976年、和歌山県で生まれる。地元の高校を卒業後、野茂英雄と同じ1995年に渡米。ヤンキース全盛期をアメリカで過ごした。米国で大学を卒業後、某スポーツデータ会社に就職。プロ野球、MLB、NFLの業務などに携わる。現在は、MLBを中心とした野球記事、および競馬情報サイトにて競馬記事を執筆中。