経済評論家の上念司氏は、「人を動かすのに重要なのは『インセンティブ』と『シチュエーション』であり、表面的な言葉遣いや雑談術では人は動かない」と指摘する。
言葉という表面的なアプローチだけで相手の行動を変えることは困難だ。
むしろ、相手の置かれた状況や動機を理解し、具体的な対処法を見出すことこそが、人に伝え、動かすための本質的なアプローチなのだと、上念氏は提言。そのテクニックのひとつを今回紹介する。
※本記事は、『論破力より伝達力 人を動かす、最強の話法』(上念司著/扶桑社刊)より一部抜粋・再編集したものです
話を伝えるための最終奥義は「論理構成」

加えて、伝わりやすい話をするのに欠かせないのが、「論理構成」です。
論理構成がないのに、つまみ食いのような適当な会話をしても、記憶には残りません。どんなに短い会話であっても、話がとっちらからないようにしっかりとした論理構成を持って話しましょう。
仕事において必要とされる論理構成は非常にシンプルです。問題点、原因分析、解決策。これだけです。
現在の問題はなにか。その問題の原因分析はどうなっていて、解決策は何か。
最近、売上が伸び悩んでいる(問題点)。原因はこれだと考えられている(原因分析)。
ならば、売上を伸ばすにはどうしたらいいか(解決策)。ユーザーを新規に増やしたい(問題点)。ユーザーが増えない原因はこれである(原因分析)。
そのためにはどんな施策が考えられるか(解決策)など、共有するべき問題点と原因分析、それに対する解決策を考えながら話しましょう。
仕事上での会話で一番大切なこと
問題提起と解決の模索に至るまでのパターンは様々ですが、仕事上での会話で一番大切なのは、「最終的なアウトプットとして何が必要なのか」を明確にすることです。たとえば、会議をするのであれば、「この会議で、我々は何について合意しなければいけないのか」という問題意識を全員が共有しているかどうかで、全く会議の内容は変わります。
問題意識を共有しないと、「○○社の山田さんは、最近新築を建てたらしいですねぇ」「△△オフィスの木村さんは、最近離婚したらしいよ」などという世間話が始まって、なかなか本題に入らず、気が付いたら1時間が経過していた……というしょうもない事態も起こりかねません。
そんな無駄な会議を繰り返す社員は、間違いなく給料ドロボーと同じであると心してください。
桃太郎を3秒に要約できるか?

なぜ、弁論がうまかったのかを自分で分析してみると、ほかの人よりも、「物事の構造を捉え、単純化して表現すること」が、昔から得意だったのだと思います。
たとえば、本書でも繰り返しお伝えしてきた「大義名分」にしても、その内容をすべて細かく説明するとしたら、ものすごく長い言葉が必要になります。すると、相手の理解力や集中力も必要になるでしょう。
でも、本質を捉えて短いフレーズにして要約すれば、相手の理解を促し、訴えかけることができる。その要約こそが、私は得意なのです。
では、みなさんに質問です。
「桃太郎の話を3秒に要約してください」と言われたら、あなたは何と答えますか? ストップウォッチを手に、ぜひ要約に挑戦してみてください。
……どうでしょうか? きちんと3秒で桃太郎の説明はできたでしょうか?
もし、私が桃太郎を要約するとしたら、「桃から生まれた桃太郎が、鬼ヶ島に行って鬼退治する話」と答えるでしょう。これなら3秒でまとまるはずです。
要約をするのが苦手な人なら、「おじいさんとおばあさんがいて、おばあさんが洗濯に行ったら川から桃が流れてきて……」と頭から順番に説明していって、あっという間に3秒が経過してしまうでしょう。
では、浦島太郎はどうでしょうか?
あの話も要約すれば、「亀を助けた浦島太郎が、竜宮城に行って、帰りにもらった玉手箱を開けたらおじいちゃんになる話」です。
どうでしょうか、みなさんできましたか?
要約力がない人は一番大切なポイントが相手に伝わらない
多くの人の話が伝わりづらい理由は、ロジックがとっちらかっているからです。話が伝わりやすい人は、「このチャートは事業の採算性に関するチャートです。次にその採算性を考えたときに、3つのケースが考えられます。
この一つ目が最悪のシナリオです……」というように、「この1枚のチャートで紹介したいことはなにか」「この1行で伝えたいことは何か」を論理的に紹介することができます。
でも、要約力がない人は1枚のチャートや1行の言葉で説明できず、ダラダラと説明するので、一番大切なポイントが相手に伝わらないままで終わってしまいます。だから、伝わらないのです。
自分に要約力があるのかわからないという人は、何かの物事を要約して、その物事を知らない人に伝えてみましょう。
相手にきちんとその言葉が伝わっているのであればOKです。
もし、他人に伝えてみても言葉が伝わらなかった人は、要約力が未熟ということ。徹底的に要約の訓練をしてください。
いますぐできる話し方の4つのテクニック ①ゆっくりしゃべる

弁論がうまい人は滑舌がよい印象があるせいか、「滑舌をよくするにはどうすればいいですか?」と聞かれることがあります。
ただ、身も蓋ふたもない回答で申し訳ありませんが、滑舌が悪い人は、滑舌をよくすることは諦めたほうがいいでしょう。なぜなら、滑舌の改善は、自力ではどうにもならないからです。
対策としておすすめなのが、ゆっくりしゃべることです。最悪、棒読みでもかまいません。
とにかくゆっくりしゃべりましょう。流暢に話せなかったとしても、「相手と会話ができないほどに、滑舌が悪い」という人はそうそう存在しません。
ゆっくり話せば、あなたが何を言っているのかは、最低限伝わります。
繰り返しになりますが、大切なのは相手が納得せざるを得ないセッティング(大義名分など)です。テクニックは二の次ですから。
②話しかけるようにしゃべる
プレゼン上手な人の話し方などを見ると、早口で流暢な人が多いです。「あんなふうになりたい」とマネしたくなる人もいるでしょう。他人を参考にするのはいいですが、正直、他人をマネしても仕方がありません。たとえば、私自身は滑舌がよいので早口ですが、滑舌が悪い人は早口にせず、常識的なスピードで話したほうが伝わりやすいはずです。
私が所属していた弁論部・辞達学会は、「子曰く辞は達せんのみ」という論語の言葉にちなんで名づけられています。
この言葉の意味するものは、「言葉は伝わればいい」。
誰かのしゃべり方をマネすることで、相手に言葉がより伝わりやすくなるならば、マネすべきかもしれません。
自分のペースでしゃべったほうが、伝わりやすいことが往々にしてあります。
伝わりやすさを意識する意味で大切なのが、「話しかけるようにしゃべること」です。
たとえば、子どもに数学を教える際、「この方程式が連立方程式です。この方程式では変数が2つで差分を求めて答えを出します」という言い方をしたらどうでしょうか?
伝わりませんよね。
「いいかぁ、みんな! これが連立方程式だよ。連立方程式のなかには、変数と呼ばれるXとYのアルファベットが出てくる。変数2個に対して式2本。
はい、それを見たらだいたい連立方程式だから。OK?」というように、会話をしているように話さないと相手に興味も持ってもらえません。
だからこそ、大切に伝えたいときは、できるだけ、「会話をしているような話し方」を心がけてほしいと思います。
③「結論」は最初に言う

このテクニックは様々な話し方の本でもすでに書いてありますが、これだけは確かに実践する価値があるでしょう。
私の場合は、最初に結論を持ってきてから理由を説明する話法を使うこともあれば、先に論理を展開して最後に結論を言う話法を使う場合もあります。
ただ、これはあくまで議論に慣れた人間のやることです。相手に何かを伝えるのがそこまで得意でない人は、「結論を先に持ってくる」というテクニックを使うと、ぐっと伝わりやすさはアップします。
なぜ、「結論を先に言う」という話法が優れているかというと、論理構成がシンプルだからです。それが一番の伝わりやすさのキーになります。
「結論はこれです。その理由はこの3つです」と言ったあと、その結論の論拠となる理由を要約して説明するくらいシンプルなほうが伝わります。
ただし、説明するとき、3行以上は長いです。1行で説明できるように要点や言葉を絞り込みましょう。
資料を用意するにしても、基本のポイントはすべてを1行に要約し、必要ならばグラフや写真、絵などのビジュアルでサポートします。
「一番上にあるチャートの結論はこれです、ご覧の通りです。それは、こういうロジックです。なぜこうなるのか、理由は全部で3つあります。1つ目はこうで、2つ目はこれ、3つ目はこれです」と絵で説明すればOKです。
結論を最後にもう一度言う
結論は、最初のみならず最後にもう一度伝えて、念押ししましょう。最初に結論を言って、次にその理由を説明し、もう一度最後に結論を言う。単純ですよね? 論理構成がしっかりしていれば、多少言い回しが下手だったり、言葉につっかえたりしても、きちんと相手に伝わります。
<文/上念 司>
【上念司】
1969年、東京都生まれ。経済評論家。中央大学法学部法律学科卒業。在学中は創立1901年の弁論部・辞達学会に所属。日本長期信用銀行、臨海セミナーを経て独立。2007年、経済評論家・勝間和代氏と株式会社「監査と分析」を設立。取締役・共同事業パートナーに就任(現在は代表取締役)。2010年、米国イェール大学経済学部の浜田宏一名誉教授に師事し、薫陶 を受ける。リフレ派の論客として、『経済で読み解く日本史 全6巻』(飛鳥新社)、『財務省と大新聞が隠す本当は世界一の日本経済』(講談社+α新書)など著書多数。テレビ、ラジオなどで活躍中。