今回は、通勤電車内で、周囲への配慮を欠いた迷惑行為に遭ったという2人のエピソードを紹介する。
朝の満員電車に響く“大声の会話”
午前8時、通勤ラッシュのピーク。急患対応による遅延も重なり、車内はいつも以上に混んでいた。
岡野隆之さん(仮名・30代)は、人と人とのわずかな隙間に体を押し込み、身動きできないまま立っていたという。背中には会社員の通勤リュック、前には高校生の部活道具。ほとんど固定された状態で電車が動き出した、そのとき……。
「ガハハツ!」
甲高く耳を突き抜ける笑い声が横から響いた。さらに2人分の声が重なる。どうやら3人組の女性たちの会話だったようだ。
「ほんっと、うちの旦那って使えないから!」
「うちもよ! 昨日なんてね……」
最初は小声だった会話だが、あっという間に声量が上がったという。朝の満員電車のなかで、突然、“家族の悪口大会”が始まったのだ。
降車まで続いた家族の愚痴
「お義母さんなんて、私が作った料理にまた口出し!」
「わかる~! うちのお義父さんもね……」
話題は夫の家事能力のなさから義理の家への不満まで広がり、声のボリュームはさらにアップした。岡野さんは無心を装ったが、否応なく耳に入ってくる。
「まるで、朝から不快な情報番組を聞かされているみたいでした」
周囲の乗客はスマートフォンを見たり、イヤホンを耳に押し込んだり、床を見つめたまま動かない。顔を見れば、全員が同じようにうんざりしている様子がわかったそうだ。
駅をいくつか過ぎるごとに、会話はヒートアップ。義母からの電話を無視した武勇伝を披露し、最後の一駅分は、3人同時の笑い声がさく裂した。
「ホームにつくまでの数分間が、とにかく長かったです」
電車が駅に到着し、彼女たちは楽しげに降りていった。残された車内は驚くほど静かになったが、岡野さんの耳の奥には、まだ愚痴の断片がこびりついていた。
朝の車内で始まった“謎のライブ”

「このまま静かに会社まで行きたい……と思っていました」
しかし、目の前に立った50代くらいのスーツ姿の男性が、イヤホンを耳に差し込んだ瞬間、平和な時間は終わったという。
「最初は、音楽をきいているだけだと思ったんです」
ところが、その男性は足をトントンと鳴らし、体を揺らし、首を大きくうなずきはじめた。
「そのうち、右手が“空”を叩きはじめたんです。“エアドラム”ですよ」
曲調と動きのギャップがすごすぎる
さらに、左手まで動き出し、今度は“エアギター”。手首のスナップで弦を鳴らす真似をし、真剣なロック顔で口パクまで始めたそうだ。
「もう視界の真正面で、1人ステージ状態でした」
あまりの迫力に耳をすませていると……。
“桜~の花び~ら”
曲は、まさかのバラードだった。
「思わず、『それドラムを全力で叩く曲じゃないでしょ』って心のなかでツッコミました。朝の通勤時間帯って、静かに過ごしたい人が多いのに、なんでそこで全力を出すのか本当に謎でした」
会社に着く頃には、頭のなかでエンドレス再生されていたという。
電車では個人のマナーが大いに問われる。だが、不快に感じても声をあげにくい空気があるのは事実だ。自分の何気ない行動が周囲の迷惑になっていないか、あらためて意識する必要があるだろう。
<取材・文/chimi86>
【chimi86】
2016年よりライター活動を開始。出版社にて書籍コーディネーターなども経験。趣味は読書、ミュージカル、舞台鑑賞、スポーツ観戦、カフェ。