ジャーナリストの石戸論氏は、「今回の総裁選はイデオロギー対立より経済政策を重視する異例の展開」とみる。その“変化”が意味するところとは?(以下、石戸氏の寄稿)
若年層に見切られた自民党と台頭するポピュリズム
どうせ日本の政治は変わらない──。SNSでは悲観的な声が上がりがちだが、極めて冷笑的な態度に見える。少なくとも日本の政治は、ここ10年あまりで様変わりしている。民主党から政権を奪還した’12年以降、圧倒的な強さを見せた自民党は若年層から見切りをつけられ、集票力が弱体化した。わずか1年で国政選挙2連敗を喫し、衆参ともに少数与党に転落したのがその証左だ。左右のポピュリズム勢力が台頭してきたことも大きな変化と言える。
今回の自民党総裁選は日本政治史の中でも特異な選挙戦だ。私にはこの点が重要であるように思える。安定多数の中で政権運営ができた自民はもういない。それは野党、特に衆院で与党が足りない議席数をカバーできる立憲、国民民主、維新の注目度が高まることを意味する。
政権を睨みながら、複雑な舵取りを求められる
立憲の給付付き税額控除(所得に応じて税控除と現金給付を組み合わせる施策)や国民の「年収の壁」大幅引き上げ、維新の社会保障改革といった目玉政策について、総裁選では複数ないし、いずれかの候補が言及している。この変化は野党が議席を奪い取ったことで生じたものだ。政権与党ならずとも政策実現の可能性が高まっている中で、野党はもはや単なる批判勢力で終わることはできない。与党との連立ないし協力体制を構築して政策実現を目指すのか、それとも、あくまで政権交代を目指すのかという選択肢が浮上する。
政権批判だけでは影響力を持ち得ないが、かといって与党に寄りすぎればおいしい成果だけを持っていかれるリスクを背負う。政権を睨みながら、複雑な舵取りを求められるのが、今の“変わってしまった”政治状況だ。
政界再編の歴史を振り返れば、何らかの改革を標榜する政党は一定の支持を得てきた。だが、勢いに陰りが見えて雲散霧消するか、中途半端な議席数にとどまってきたのも事実だ。かつて渡辺喜美氏が率いたみんなの党が典型だが、大阪発の「身を切る改革」で注目されたものの、全国政党になりきれない維新も近い。
よく見たパターンを繰り返すのか、政策実現ないし政権交代という果実を勝ち取るか。総裁選を経て力が試されるのは自民だけではない。

【石戸 諭】
ノンフィクションライター。’84年生まれ。大学卒業後、毎日新聞社に入社。その後、BuzzFeed Japanに移籍し、’18年にフリーに。’20年に編集者が選ぶ雑誌ジャーナリズム賞、’21年にPEPジャーナリズム大賞を受賞。近著に『「嫌われ者」の正体 日本のトリックスター』(新潮新書)