スマホ条例の可決に覚えた既視感
ブーイングの嵐だ。愛知県豊明市で、“スマホ条例”が可決された。すべての市民に対して、仕事や学習以外でのスマホ使用を「1日2時間以内」と規定した。このブーイングにどこか既視感があると思ったら、香川県が’20年に定めた“ゲーム条例”だった。あの時もゲーム利用は「1日60分、休日は90分まで」と定めて、県民だけでなく全国からブーイングが上がっていた。豊明市役所には、「自由を奪う権利があるのか」「家庭の問題に踏み込むのはおかしい」といった批判が300件以上寄せられたという。特に今回は香川県のゲーム条例と違い、未成年に対してだけでなく全市民を対象にしていることもあり、疑問よりも怒りが上回っている印象を受ける。
たしかにスマホの長時間使用は、「睡眠の質の低下」「精神的健康への悪影響」「学力や注意力の低下」といったリスクが研究結果によって示されている。市長はこうした影響を最小限にとどめたいとの意向があったようだが、私は香川県のゲーム条例と同様、「スマホの是非」「ゲームの是非」を個別に論じてもあまり意味がないのではないかと思っている。ずばり、「子どもの可処分時間はどうあるべきか」という議論をすべきだと思うのだ。
二元論で結論できないからこそ
まったく規模感の異なる例えとなるが、メディアはすぐに「原発は賛成か反対か」といった二元論の議論をしたがる。それと同様に、子どもたちの可処分時間がスマホで費やされるのがよくないとするならば、漫画ならいいのか、テレビならいいのかといった議論が必要だ。大人たちはすぐに「外で遊んでほしい」などと言い出すのだが、「うるさい」「危ない」といったクレームによって公園でボール遊びさえできない環境にしてしまったのは誰なのか。
「長時間のスマホ使用は悪影響だから規制しよう」という動きは、一見理に適ったものに思える。だが、そうしてスマホを取り上げられた子どもたちが「代わりに勉強しよう」「そのぶん読書しよう」となるだろうか。私たち大人の責務は、むしろ子どもたちに積極的に触れてほしい体験やコンテンツはどのようなものかを議論すること、かつ、そこまでの動線を丁寧に設計していくことではないだろうか。

【乙武洋匡】
1976年、東京都生まれ。大学在学中に執筆した『五体不満足』が600万部を超すベストセラーに。卒業後はスポーツライターとして活躍。その後、小学校教諭、東京都教育委員などを歴任。ニュース番組でMCを務めるなど、日本のダイバーシティ分野におけるオピニオンリーダーとして活動している