割れたグラスが左目に突き刺さり…
――デビューシングルのリリース、おめでとうございます。アルバイト中の事故で、19歳のときに左目の視力がほぼなくなってしまったと伺いました。かたのめい:ありがとうございます。そうなんです、当時、語学の専門学校に通いながら居酒屋でアルバイトをしていました。まだ始めて3日ほどだったのですが、掘りごたつに足をとられて転倒し、割れたグラスが左目に突き刺さってしまったのです。
――かなり凄惨な現場ですね。
かたのめい:傷口からぬるい血がつたう感覚はありました。ただ、事故の瞬間にはほぼ失明に至るとは思っていませんでした。病院へ搬送され、医師から「あなたの左目は見えるようになりません」と言われて初めて、現実を知った感じです。
左目の視力を失ったあと、海外に
かたのめい:私はそれまで、どちらかといえば明るくて人を笑わせるのが好きな子どもでした。ちょっと矛盾するんですが、恥ずかしがり屋なのに人には笑ってほしくて、小学校のときにはクラスで出し物をすることになり、友人とお笑いコンビを組んだりもしました。
一方でスポーツも好きで、中学時代はソフトテニス部で副部長を、高校時代はダンス部で部長を経験しました。
けれども事故によって視力を失ってしまい、痛々しい見た目になったことで、深く落ち込みました。いろんな友人がお見舞いにきてくれましたが、明るく振る舞う一方で落ち込みやすい性格を知っているので、みんな心配してくれましたね。
――そのあと、海外でボランティアを経験されるそうですね。どういった心境の変化ですか。
かたのめい:もともと、海外へのあこがれは強かったんです。親戚にアメリカやオーストラリア在住の人がいて、「いつか自分も海外に」とは思っていました。ただ、事故直後は精神的に参ってしまって、それどころではありませんでした。
本当に不思議なのですが、悩んでいるさなかに、頭のなかに映像が浮かんだんです。それは、飢餓で苦しむ海外の子どもたちでした。そのときに「自分だけがつらいと思ってはいけないな」と前を向けたんです。20歳のとき、単身で数カ国に足を運びました。
「ひとりで行くような場所ではない」と釘を刺された
かたのめい:当然ですが、親は非常に心配してくれて。でも最終的には私の意志を尊重して、納得してくれました。アイスランド、インドネシア、タイ、ラオス、ベトナム、カンボジア、オーストラリアのうち、3箇所分はアルバイトを掛け持ちして資金を貯めたのですが、足りない分は親が貸してくれました。
また、大使館の人も「若い娘がひとりで行くような場所じゃないから、やめといたほうがいいのではないか」と言っていました。でも、私の意志は固かったんですよね。
――現地ではどんなボランティアをしていたのでしょうか。
かたのめい:一例ですが、インドネシアでは路上生活の子どもたちに日本語を教えたり、カンボジアでは学校を建設する手伝いをしたりしましたね。
「身体障害者の定義」に当てはまらない
――話は変わりますが、片目失明という状態は、日本の制度上、保護されていない部分も多いそうですね。かたのめい:そうですね。簡単にいうと、片方の目が一定の視力がある場合には、厳密に言えば身体障害者の定義に当てはまりません。したがって、身体障害者が受けられる福祉サービスが受けられない場合があります。たとえば、義眼の製作費用も、自費になる場合が多いですね。
ただ、片目がほぼ見えていない状態は、想像すればだいたいわかってもらえると思うのですが、不便なことが多いです。
――義眼は結構高いのでしょうか。
かたのめい:片目失明の人たちが作る義眼は、美容義眼と呼ばれていて、保険が適用されません。私がおパスポート用に作った仮の義眼があるのですが、20万円ほどしたと思います。少なくとも私にとっては、気軽に製作できる値段ではありませんでした。
漠然と感じた不便さが理解できるように
――制度面も含めた不便さについて、かたのさんはどう思われますか。かたのめい:正直、私は事故の直後にその不便さをはっきりと自覚できませんでした。確かに疲れやすいとか、メイクがしづらいとか、いろいろな不便さはありましたが、若かったので気力で乗り切れた部分があるんです。けれども、片目失明の人たちのなかには高齢の方もいらっしゃいますし、さまざまな理由で体力のない人もいます。いま、ようやく私もあの当時に漠然と感じた不便さが理解できるようになりました。やはり身体障害者ではないといわれてしまうと、「つらいことも多いんだけどな」と感じます。
歌手活動をはじめてから、各所から応援の声が
――翻って、現在、歌手活動を続ける源泉にはどのような思いがありますか。かたのめい:歌手として多くの人に歌を届けるようになってから、「実は私の子どもも片目失明なんです」という方からメッセージをいただくことが多くなりました。
私が想像していたよりも、多くの人たちが何かしらの生きづらさと向き合いながら生きているし、そうした人たちが前を向けるような楽曲を届けたいんです。障害や病気はもちろん、そうでなくても人生はままならないことが多いけど、その瞬間瞬間に寄り添える歌を紡いでいきたいですよね。
――2026年にはカラオケでも、かたのめいさんのMVがみられるようになるとか。
かたのめい:はい、デビューシングル『Croissant (クロワッサン) ~欠けた世界で気づけたもの~』がカラオケでも歌えるようになります! 前向きになりたいとき、カラオケボックスのなかで私に会いに来てくれたら嬉しいです。
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かたのめいさんを一言でいうなら不屈。光を失ってなお、夢を掴み取るバネがある。その根源には、事故の以前から彼女が多くの人を大切にし、されてきた温かみがあるのではないか。外見が変貌しても、その心意気と生き様が美しいことに変わりない。周囲を巻き込む魅力はいつまでも潰えない。
<取材・文/黒島暁生>
【黒島暁生】
ライター、エッセイスト。可視化されにくいマイノリティに寄り添い、活字化することをライフワークとする。
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