決闘罪ーー時代劇か、西部劇の世界の話のように聞こえるこの罪名が、令和の東京・歌舞伎町で適用された。
東京都新宿区歌舞伎町の一角、通称「トー横」で、合意のうえで”決闘”を行い、相手男性を死亡させたとして、警視庁は千葉県八千代市の無職の男(26)を傷害致死と決闘容疑で逮捕した。
事件は昨年9月23日未明に発生。2人は事件当日にトー横で出会い、飲酒した状態でトラブルになった末、歩道上で互いに合意して争ったとみられている。男性は頭部を負傷し、その後死亡した。

注目を集めているのは、傷害致死に加えて適用された「決闘罪」だ。決闘罪は、日時や場所を決め、合意のうえで争うこと自体を処罰対象とする、極めて適用例の少ない犯罪として知られる。実際、一般市民がこの罪名を耳にする機会はほとんどない。

一方で、格闘技イベントや「ブレイキングダウン」のように、互いの合意のもと殴り合う場面は、現代社会でも広く受け入れられている。ではなぜ、歌舞伎町の路上で起きた”合意のケンカ”は決闘罪となり、ブレイキングダウンは犯罪にならないのか。

この違いについて、弁護士の視点から詳しく解説する。

歌舞伎町の「決闘」で男性死亡。なぜブレイキングダウンは合法で...の画像はこちら >>

「合意の上での暴力」を禁止する明治時代の法律

「決闘罪は、明治22年に公布された『決闘罪ニ関スル件』という法律に基づく犯罪です。現代の刑法には直接規定されていないものの、当該特別法としていまだ日本の法律体系の中に残っています」

そう解説するのは、アディーレ法律事務所の南澤毅吾弁護士。

「この法律の趣旨は、合意の上での暴力・喧嘩行為を禁止することにあります。合意での喧嘩・決闘が許容されれば、極論、『北斗の拳』の世界観のように、『力こそ正義』という価値観によって社会秩序が乱れてしまうからです」

つまり、たとえ双方が同意していたとしても、暴力による解決手段を社会が容認することはできないという考え方が根底にある。


決闘罪の成立条件──「即席の合意」でも成立するのか

では、今回の歌舞伎町での事件のように、その場で知り合った相手との「即席の合意」でも決闘罪は成立するのだろうか。

「この点は非常に判断が難しく、しばしば議論となる点です。結論としては、その場の流れで合意が形成されたとしても、決闘罪の成立が論じられる余地はありますが、現実に取り締まられる可能性は低いといえます」

決闘罪で重要なのは、暴行・喧嘩の前に相互の合意があったかどうかという点だ。そのため形式上は、合意が直前に形成されたものであっても、暴行前である以上、決闘罪が成立する余地はある。

「どんな喧嘩であれその過程には、一方が挑発し、他方がそれに乗じるという、喧嘩に発展する『暗黙の合意』はあるわけです。単に勢いで殴り合いになるケースと、直前に喧嘩の合意をした上での殴り合いというものを外形的に区別することは難しく、警察・検察の立場で決闘を証明するハードルは高いです」

過去の摘発例を見ると、事前に面識がある場合や、SNSなどでやり取りをした上での決闘が取り締まられることが多く、「初対面」「突発的」なケースで決闘罪が適用されるのは異例だという。今回の事件では、周囲の証言や証拠動画、事件後のSNSでの発言など、何らかの根拠となる証拠があった可能性があると南澤弁護士は推測している。

「合意」の有無で、罪はどう変わるのか

歌舞伎町の「決闘」で男性死亡。なぜブレイキングダウンは合法で路上の「タイマン」は犯罪なのか?“合意の暴力”の危うい境界線
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では、暴行の際に「お互い合意していた」場合、罪の評価はどのように変わるのだろうか。

「一般論として、事前合意のない喧嘩であれば、通常は暴行罪・傷害罪として処理されます。しかし、双方が事前に争う意思を確認し合い、具体的に合意していた場合には、刑法とは別に『決闘罪』が検討されることになります。これらは独立に成立し、並存します。実際の裁判での量刑は、決闘であるかどうかだけでなく、被害状況の重大性や結果、当事者の関係性、示談の有無なども評価に影響します。たとえば、決闘であっても、お互いが事前に合意・了承している分、一方的な暴行・リンチ、あるいは不意打ち的な暴行に比べれば、暴行としての悪質性は低いという見方もあり得ます。

今回のケースにおいても、決闘であるという点よりは、被害者がなぜ亡くなってしまったのか、どの程度の暴行があったのか、が裁判の焦点になってくるでしょう」

現代の若者の間では、「タイマンしよう」などの表現が使われることも少なくない。
こうした発言は法的にどのような意味を持つのだろうか。

「『タイマンしよう』といった言葉自体は、スポーツ的・比喩的に使われることもありますが、決闘の意思表示と解釈される可能性は否定できません。SNSやLINEなどのトークで具体的な争いの約束が確認されれば、検察や警察が立証の根拠として重視することがあります」

決闘罪が適用された過去の事例

実際に、東京都足立区の河川敷で16歳の少年2人がSNS上で「タイマンをしよう」とやり取りをし、それに基づいて合意した物理的な争いを行ったとして、決闘罪と傷害罪で書類送検された事例もある。このケースでは、「タイマン」という表現や、「凶器を使わない」「ギブアップするまで」といったルールまで事前に決めていたとされ、この点が捜査対象となった。

また、2025年10月には群馬県前橋市の駐車場で高校生と19歳男性の2人が互いに殴り合ったとして決闘罪で逮捕された事案もある。警察は双方が争いの意思を明確に示していたとして決闘罪の容疑で立件し、群馬県内では2004年以降初の適用例として注目された。

「当事者間の合意的な暴力行為が明確なケースでは、現代でも適用される可能性があるわけです」(南澤弁護士)

ブレイキングダウンと決闘の違い──正当なスポーツか違法な喧嘩か

最近人気のブレイキングダウンなどの格闘技イベントは、一見すると「合意の上での暴力行為」にも見える。なぜこれらは決闘罪に問われないのだろうか。

「格闘技・スポーツであると評価されれば、刑法上、『正当行為』として違法ではないという取り扱いがされます。ブレイキングダウンは、スポーツ・格闘技イベントという位置づけである限りは合法です」と南澤弁護士は解説するが、現実的な問題も存在する。

「格闘技ショーの枠を超えて、演者同士が衝突する場面も少なくありません。ショーと現実の境目が曖昧であることがブレイキングダウンの魅力でもありますが、ショーの範囲を超えた喧嘩はスポーツの範囲を逸脱しており、法律的には、傷害罪・決闘罪が成立する可能性があります」

実際、ブレイキングダウン出場者が傷害罪容疑で逮捕される例も報道されており、当局も問題視していると思われる。

今回、傷害致死に留まらず「決闘罪」が適用された背景として、南澤弁護士は「私刑や喧嘩がインターネットで面白おかしく拡散されがちな社会風潮に対して、警鐘を鳴らす意図もあったのではないか」と指摘している。


奇しくも先日、栃木県立高校の暴行動画が拡散され、大きな議論を呼んでいる。SNS全盛の現代だからこそ、この古い法律が持つ意義を改めて考える必要があるのかもしれない。

歌舞伎町の「決闘」で男性死亡。なぜブレイキングダウンは合法で路上の「タイマン」は犯罪なのか?“合意の暴力”の危うい境界線
アディーレ法律事務所 南澤毅吾 弁護士
「パチスロで学費を稼ぎ、弁護士になった男」という異色の経歴を持つ。司法修習時代は、精神医療センターにて、ギャンブルを含む依存症問題について研修を受けた経験があり、一般市民の悩みに寄り添った、庶民派の弁護士を志す。アディーレ法律事務所・北千住支店長として対応した法律相談数は、累計数千件に及び、多様な一般民事分野の処理経験を経て、現在は交通事故部門の責任者となる。

<取材・文/日刊SPA!取材班>
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