―[連載『孤独のファイナル弁当』]―

『孤独のグルメ』原作者で、弁当大好きな久住昌之が「人生最後に食べたい弁当」を追い求めるグルメエッセイ。今回『孤独のファイナル弁当』として取り上げるのは天丼。
果たして、お味はいかに?

焼き鳥のタレで天ぷらを食べる!?『孤独のグルメ』原作者が20...の画像はこちら >>

孤独のファイナル弁当 vol.27「久しぶり過ぎる天丼弁当が、焼き鳥だった」

 天丼。ずいぶん長いこと食べていない。

 最後に食べたのは「てんや」の天丼。仕事でマンガに描かねばならず、必要に迫られて食べに行った。でも、もはやどんな天丼だったかさえ思い出せない。

 たぶん、20年近く前だ。以来天丼というものを食べていないと思う。ちょっと意外だった。

 天丼が嫌いなわけではない。若い頃は神保町の「いもや」の天丼をよく食べた。今思い出したら食べたくなった。でも考えたら、いもや以外で天丼を食べた記憶がない。


 天ぷらは好きだ。天ぷら屋には時々行く。といっても数年に一度だけど。

 自宅では揚げ物は一切やらない。

 そういうわけで、久しぶりに食べてみようと思って「房総産菜の花と小エビの天丼(玄米)」の小さいのを買ってみた。手に持った時、まだ少し温かかったのもある。作ってそれほど時間がたっていないと思われる。何度も書いているが仕事場には電子レンジがないのだ。カップ味噌汁も買った。前回冷たい弁当がこれにすごく助けられたので。具は前回なめこだったので、豆腐とわかめにした。

 仕事場に着いてさっそく食べた。
まず菜の花から食べた。

 うん、菜の花だ。たしかにその天ぷらだ。青臭いというか新鮮な植物の香りがする。もちろんサクッとしてはないが、悪くない。ちょっとタレが甘いかな。

 玄米は冷たくはなかった。おいしい。が、ちょっとタレが多いのでは。

 友達のタキモトさんが、銀座の天丼屋で注文の時「タレ、少なめで」と言えるようになるのに5年ぐらいかかった、と昔言っていた。それ、今とてもよくわかる。

 次に小エビ天ぷらを食べてみた。
かき揚げ的にすべてまとめて揚げるのではなく、一尾一尾揚げてある。それは食べやすくありがたい。

 が、やはりちょっと甘いな、と思った。

 味噌汁を啜って口直しをしてから、弁当の内容物説明を読んでちょっと驚いた。

「焼き鳥のタレ(醤油、砂糖、みりん、その他)」

 と書いてあるではないか。

 焼き鳥のタレで、天ぷらを食べる。そんなことしたことがない。甘いわけだ。いいのかそれで? ごはんを食べる。たしかにこれは焼き鳥のタレごはんかもしれない。そう思いたくない。天ぷらのタレごはんであってほしい。


 急に紅生姜に、目が舌が心が、頼りたくなっている。それにしては紅生姜の量が心細い。味噌汁に逃避。その熱い味噌味に救われる。口の中の焼き鳥のタレ感が拭える。

 うーん。数えたら小エビは残り6個もある。タレは全部にかけ回してある。ごはんにもたっぷりかかっている。タレだく、とまでは言わないが。箸を止めてため息つく。

 紅生姜を大切に一本一本食べつつ、味噌汁の力を借りながらコツコツ食べた。


 久々にいもやの天丼を食べに行こうと胸に誓った。しじみの味噌汁もいいんだ。

焼き鳥のタレで天ぷらを食べる!?『孤独のグルメ』原作者が20年ぶりに食べた天丼/久住昌之
久しぶりに天丼を食べようと思って購入した「房総産菜の花と小エビの天丼」のタレはまさかの焼き鳥用。心細い量の紅生姜とカップ味噌汁に頼りながら食べ進める


―[連載『孤独のファイナル弁当』]―

【久住昌之】
1958年、東京都出身。漫画家・音楽家。代表作に『孤独のグルメ』(作画・谷口ジロー)、『花のズボラ飯』(作画・水沢悦子)など。Xアカウント:@qusumi
編集部おすすめ