生成AIを使い倒す就活生が、ES作成も面接対策も“最適化”し、難関企業の内定を狙う時代に入っている。就職難関企業から次々と内定をもらうAI強者たちに対する企業側の検知と対策は?採用現場で始まった新たな攻防の実態を追った。

「就活なんてチョロい」中堅大から大手マスコミ5社内定。AIに...の画像はこちら >>

就職戦線の「新しい勝ち筋」

 AIを使いこなす就活生がスペック以上の内定を獲得し、対する企業側も対策に奔走。就活戦線は、いまやAIを巡る”仁義なき戦い”の様相を呈している。マイナビの調査では、’27年卒のAI利用率は8割超。エントリーシート作成や面接対策をAIに任せるのは、就活生にとって常識となりつつある。

 玉村穂香さん(仮名・22歳)も、AIを駆使して内定を勝ち取った一人。高校中退からの中堅国立大という学歴ながら、誰もが知る大手マスコミ5社を次々に攻略したという。

「エントリーシートの設問は、大体1問1000字くらい。最初に300字くらい自分で書いたら、あとはチャットGPTに『水増しして』と投げるだけ。自分だけど自分じゃないような、意識高そうな文章に一瞬で早変わりします」

 自己分析まで、AIに委ねたというから驚きだ。

「AIに自己分析させるって変ですけど、私にはこれといった強みもない。AIに聞いたら、『マスコミは変わった人が好きな社風だから、高校中退を前面に打ち出した方がウケますよ』って(笑)。伝え方までレクチャーしてくれて、効果はてきめん。AIは、私より私のことを理解してくれていますね」

 面接対策では「想定質問を50個考えて」とAI指示して問答集を量産し、アプリで模擬面接を繰り返した。
ある社では3次面接まで想定問答集が役立ったという。

「ぶっちゃけ、就活なんてチョロいなと思いました。嘘をついているわけじゃないし、みんな自分の経歴は多少なりとも盛るものじゃないですか。AIは、私のポテンシャルを最大化してくれているだけなので」

転職市場でも「AI利用」は加速

 また、地方銀行に勤める袴田奈々さん(仮名・26歳)は、大手銀行・証券へのキャリアアップを目指している。玉村さんとは異なり、企業分析にAIを使い倒したという。

「長期・中期経営計画のページを全部読むのは現実的じゃないので、notebookLMに有報やIR資料のPDF放り込んで、一気に要約させるんです。次にclaudeなどを使って『この会社の強みと課題を100字で』『競合との最大の差別化ポイントは』と細かく分解して聞いていく。企業ごとに情報を整理させ、それを丸暗記して面接に臨みました。同業である程度前提知識があったとはいえ、ありとあらゆる情報をカバー。面接でも絶賛されました」

 袴田さんには、必殺のプロンプトがあるという。

「『あなたは○○銀行で5年働いたのち、大手銀行・証券会社への転職を目指す26才です』と前提を細かく設定することで、より実態に即した対策が出てくる。これまでの職歴を軽く列記して、この企業にアピールするにはどう書けばいいか聞くと、完ぺきな面接の台本を作ってくれます。あとは、それを読み上げるだけ。
正直、AIの勉強に一番時間を割いていたかもしれませんね」

 現在、大手証券会社の書類選考と面接を通過中。「AIのおかげで、新卒の時に学歴で諦めた会社に手が届きそうです」と目を輝かせた。

新卒担当の8割近くが「AI書類」を感知

 では、迎え撃つ企業側は現状をどう捉えているのか。AIの利用実態を調査している株式会社SHIFT AIの橋本佳介氏は、驚くべき調査結果を提示する。

「応募者がAIで書類を作っていると感じる採用担当者は新卒担当で8割近く。一晩で20社分のエントリーシートを出した、企業ごとに志望動機をAIで書き分けたという話も数えきれないほど聞きます。AIで作成された可能性が高い書類を理由に選考を落とした経験は、新卒担当の6割を超えます」

 採用にAIを活用している企業も全体の5割超に達し、応募者がAIで書き、人事がAIで読む”AI対AI”の選考が日常になりつつあるというのだ。

 また問題は書類の量産だけではない。「文章が整いすぎていて、どの候補者も同じ完成度に見える」と答えた中途採用担当は6割近くにのぼる。AIで書類の質が底上げされた結果、書類選考で候補者を絞ること自体が難しくなっているのという。そこへ、さらに”悪知恵”が加わる。

「具体的な数字を出さずに裏が取れない実績文をAIに作らせるケースも多数報告されています。
近年増えているのは、オンライン面接でのカンニング行為。面接中に画面外で質問を入力してAIに回答を作らせる”AI耳打ち”です。こうした状況を踏まえると、AIで誰でも一定の完成度の書類が書ける以上、書類選考で候補者を絞ることにはもう限界があります。だからこそ、書類段階でのAI活用は大前提とし、直接会って本人の力を測る設計に変えるべきです」

 採用選考でのAI活用に明確なルールがある企業は1割5分にも届かない。現場の人事個人の判断に丸投げされているのが実態で、まさにやりたい放題だ。

 ただ一方で、橋本氏は「AI禁止」路線には否定的な意見も示す。

「AIを使って何を解いたかを自分の言葉で語れる人が、採用市場で際立つ存在になっています。大事なのは、AIを使ったかどうかではなく『どう使ったか』を聞く選考プロセスへの再設計です。AIで書いた書類を見破ることに血眼になるより、AIを使いこなせる人材を採ることのほうが、企業にとってはるかに合理的。実際、書類選考を縮小してカジュアル面談を増やした企業はすでに2割にのぼります。今、採用というゲームのルールは大きな転換点を迎えているのです」

 AI就活が常態化した現場で、企業も学生もAIを使い続ける。対応策が定まらないまま、”使いこなす力”を巡る争いは今後も激化していく気配はなさそうだ。


SHIFT AI 執行役員 CHRO
橋本佳介氏
大学卒業後、外資系コンサルティングファームに入社。人事業務を担当し、採用・育成に携わる。その後、法人向けAI導入支援を手掛けるSHIFT AIに転職。人事・採用領域のAI活用推進を担う

取材・文/桜井カズキ
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