会議の冒頭、本題に入る前の「たわいもない話」を、時間の無駄だと感じたことはないだろうか。「早く本題に入ってほしい」と思う人ほど、実は自分やチームの発想力を、知らず知らずのうちに奪っているのかもしれない。

「脳には、『情報を数値化し、比較検討して問題点を見つけ出す』回路と、『経験知から勘を働かせる』回路がある。しかも、この二つは同時には使えない」と語るのは、脳科学者であり、人工知能研究の第一人者でもある黒川伊保子氏。

 実は、たわいもない話は、脳内の勘の回路を開く重要なカギとなるのだという。グーグルの調査でも、成果を出せるチームとそうでないチームの差は、「なんでもないことを口にできる安心感」との結果も出ている。

 本記事では、黒川氏が、AI時代にこそ人間に求められる「勘」の正体と、それを鍛える脳の使い方を、科学的知見から解説していく。

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※本記事は、『AIのトリセツ』(黒川伊保子著、扶桑社刊)より一部抜粋・再構成してお届けします。

会議中、参加者の勘の回路を活性化させる「たわいもない話」

「会議の雑談を嫌う人」ほど成果が出ない? 脳科学者が教える“勘の回路”を開くシンプルな習慣
※画像はイメージです(以下同)
 AI時代は、AIには判断できないプロの勘を手に入れることが、人生を手に入れることにつながる。だが、勘が大事な時代に、会議室では勘が働きにくいということも覚えておいたほうがいい。
 
 なぜならば、提案された情報を目の前に並べて結果を出そうとするとき、ヒトは「情報を数値化して、比較検討をして、問題点を見つけ出す」脳神経回路を使いがちだからだ。

 この回路を起動すると、勘の回路が使えない。なぜなら、問題を見つけ出す回路と勘の回路は、いずれか一方しか使えないトグルスイッチ(どちらかがONなら、どちらかはOFF)だからだ。

 もちろん、勘が問題点を見つけ出すこともあるが、それは結果である。勘を使っているとき、脳は、問題点を探っているのではなく、経験知を探っている。
経験知(体験に基づく記憶)が身体性を通して警告してくれた結果として、問題点に気づくのである。

 提案やブレーンストーミングの会議では、会議の出席者全員に、勘の回路を発動させる必要がある。実は、会議の冒頭に、たわいもない話を交わすことがとても効果があるのである。

 人間の仕事が身体性に集約していくこれからの時代、「休むこと」「遊ぶこと」が脳の性能を上げる要件になるとともに、ビジネス対話のツボも、思いもよらないところにある。

「たわいもない話」を創り出す、脳の4つの演算

「会議の雑談を嫌う人」ほど成果が出ない? 脳科学者が教える“勘の回路”を開くシンプルな習慣
オフィスで談笑するイメージ
 たとえば、朝、オフィスに入って、一息ついたとき。ふと手持ち無沙汰になって、誰かとたわいもない話をする。そんなシーンを想像してほしい。

「駅前に新しいカフェできたの知ってる?」「川沿いのアジサイ、見事よね」「昨日、〇〇のラーメン食べたんだけど」「今日は、なぜか駐車場が激混み」――こんなとき、脳は、4つの演算をすばやく連携している。

 ふと手持ち無沙汰になったとき、脳は顕在意識の信号を、潜在意識に振り分けて、自分の脳や周囲に対する勘を強める。脳内をふんわりサーチする感じだ。

 それは、身体感覚をさっと総ざらいする作業であり、身体感覚に触れる何か(周囲の不穏)(記憶の中の何か)を察知する作業でもある。生存本能がなせるわざだ。

 そんな状態で、いつも仲良く話をする誰かと目が合えば、脳は「身体性に根差した記憶」(見たもの、食べたもの、触ったもの、したこと、感じたことなど)を一つキャッチアップする。
そしてそれをことばにし、音声に換える。

 つまり、①ふんわりサーチ、②イメージキャッチアップ、③ことば化、④音声化、の4つの演算を脳はすばやく連携していることになる。

 ①②は潜在意識全体だが主に右脳、③は左脳、④は小脳の仕事である。そう、「手持ち無沙汰になって、たわいもない話をする」とき、脳全体が活性化するのである。

 そして、このルートこそが勘の通り道なのである。

 昔から、アイデアが浮かぶのは三上《馬上、厠上、枕上》と言われている(北宋の学者・欧陽脩の言に由来する)。馬の上、トイレ、ベッドに横になったとき――どれも、ふと手持ち無沙汰になったときだ。手持ち無沙汰は、勘の回路を開く鍵なのである。

個人やチームに影響するたわいもない話の効用

「会議の雑談を嫌う人」ほど成果が出ない? 脳科学者が教える“勘の回路”を開くシンプルな習慣
先進的なオフィスのイメージ
 たわいもない話は、脳を活性化する最高のエクササイズと言っていい。身体性を呼び起こして、勘を働きやすくさせる。

 たわいもない話ができる人は、発想力があり、意思決定力がある。たわいもない話ができるチームは、互いに勘が働き、ヒューマンエラーが少ない。

 家族やスポーツのチーム、そして仕事のチームにも、欠かしてはいけない習慣なのである。


 このことには、7年ほど前に、グーグルも言及している。天下のグーグルが4年にも及ぶ社内調査の結果、成果の出せるチームとそうでないチームの差はたった一つ、心理的安全性(Psychological Safety)が確保されているか否かだ、と言い切ったのである。

 心理的安全性とは「なんでもないこと、ふと頭に浮かんだことを、そのまま口にできる安心感」のことである。つまり、「たわいもない話ができないと、企業価値が作れない」と言い切ったのだ。

対話力の低い上司は、部下の発想力を奪う

 人は、「言うと嫌な思いをする」と感じると、言うのをやめる。最初の何回かは意図的にやめるのだが、やがてその人の前では、ことばが浮かばなくなる。脳は、発想そのものを止めてしまうのである。

 脳は、無駄なことをしない電気回路なので、出力しない先に信号を送らない。つまり、対話力の低い上司は、部下の発想力を奪ってしまうのだ。

 若手の勘が働かないと嘆く前に、上司は自分の対話力を見直したほうがいい。子どもたちの勘を養うために、親である人も覚えておいたほうがいい。

 相手のたわいもない話を止めないコツは、次の二つである。


①相手の第一声をいきなり否定しない
②自分の第一声をダメ出しから始めない

 難しく考えないでいい。アドバイスや否定は「いいね」か「わかる」の後、と心得れば大丈夫。

〈文/黒川伊保子〉

【黒川伊保子】
(株)感性リサーチ代表取締役社長。1959年生まれ、奈良女子大学理学部物理学科卒業。コンピューターメーカーでAI(人工知能)開発に従事、2003年現職。『妻のトリセツ』『夫のトリセツ』がベストセラーに。近著に『息子のトリセツ』『母のトリセツ』
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