LINEやTeams、Slackなど、仕事でチャットツールを使う機会が増えた。返事の代わりに、「いいね!」のリアクションをつけるコミュニケーションも、今では多くの職場で当たり前に浸透している。
だが、関係性やメッセージの内容によっては、相手を困惑させてしまうこともある。職場で実際に起こったエピソードをもとに、「いいね!」機能が行き違いを生む理由を探った。

上司への「いいね」は失礼、でもリアクションは必須?

「上司にグッドは失礼?」仕事チャットの“いいね!”にイラッ。...の画像はこちら >>
昨今、業務上の連絡でテキストチャットが普及し、仕事の連絡に「いいね!」リアクションを返すことも珍しくなくなっている。しかし、部下から上司へ送るスタンプの選び方など、新たな悩みも生じている。食品会社で働く大森康介さん(仮名・38歳)の上司は、「いいね」を含むリアクションで使う絵柄に独自のルールを持っているという。

「その上司へのリアクションは、頭を下げておじぎをしている絵文字じゃないとダメなんです。サムズアップの『いいね』で返した人には『上司に“グッド”を送るのは失礼だと思う』とよくわからない怒り方をして本当にタチが悪い。言う通りにしておけば機嫌がいいのだけが救いです」

さらに、任意であるはずのリアクションを半ば強制する傲慢さも見せるそうだ。

「上司は自分の書き込みにリアクションが付かないと、『見ていないんですね』と全体に向けてグチグチ言うんです。さらに、『休みの日でも確認したらリアクションしてください』とまで言う始末。アレはもう“承認欲求お化け”ですよ」

当の上司はほかの部署の書き込みにも頻繁にリアクションを付けるという。

「手当たり次第リアクションをしますが、自分が反応したことを覚えてないんです。『あの資料貰ったっけ?』って言うこともあるし、何のためのリアクションなんだか(笑)」

確認を頼んでも、スタンプしか返ってこないと「イラっとする」

「上司にグッドは失礼?」仕事チャットの“いいね!”にイラッ。職場で起きる行き違いのコミュニケーション不全
業務上の連絡にスタンプしか返ってこないと、見たのかどうかがわかりにくい(画像は再現イメージです)
「いいね」のリアクションは手軽だが、絵柄だけでは相手が何を伝えようとしているのか分からないこともある。SNSマーケティング関連の仕事をする夏野正博さん(仮名・41歳)が、外注先とのLINEで直面したケースがまさにそうだ。


「『この内容で良いか確認してほしい』と送ったが、数日たっても返信はナシ。おかしいと思ってLINEを開いたら、メッセージにサムズアップのリアクションが付いていた。『確認して問題ない』なのか、『あとで見ます』なのか分からない。良いのか悪いのかもわからず、そんな連絡の仕方で大丈夫か? と呆れました」

LINEでは、メッセージにリアクションが付いても通知は届かない。夏野さんの場合、確認を頼んだ内容について判断がつかないまま、数日が過ぎてしまった。

「メールでやりとりしている時代なら何かしら返信があったじゃないですか。LINEでやり取りが速くなったのは便利ですが、返信がない場合もあるところは不便ですね」

「既読」代わりに「いいね!」が使われることも

「上司にグッドは失礼?」仕事チャットの“いいね!”にイラッ。職場で起きる行き違いのコミュニケーション不全
価値観も文化も違う部下とのやり取りを「いいね!」で済ませていいのか。上司の側にも、配慮が求められている(写真:Adobe Stock)
送り方によっては誤解を生みやすい「いいね!」だが、送るほうはどのような考えを抱いているのか。設備工事系の会社の営業部で部長を務める山本秀雄さん(仮名・51歳)は、部下からのLINEに「いいね」を付けることがあると話す。

「返信するまでもない内容なら、既読代わりとして「いいね!」を使っています。新しい仕事を取ってきたとか、うまくいったという報告には、ちゃんと返信しているつもりです」

部下にも、業務上の連絡には基本的に文章で返信するよう伝えている。ただ、確認したことだけが分かればよい連絡や、飲み会など仕事以外の連絡なら、「いいね」のリアクションでも構わないという。

一方、山本さんの上司である役員は、「了解」の返事に毎回動くスタンプを使う。それを少し面倒に感じることもあるそうだ。


「内容によっては、スタンプだけじゃなく、ちゃんと言葉で褒めてあげてよと思います。親子ほど年が離れれば、価値観も文化も違う。友達同士ならまだしも、仕事の連絡に対して『いいね』だけで済ませるのはよくないよと教育するのも、現代の上司の務めだと思っています」

効果的に絵文字を使えば、心理的な距離が縮まることも

「上司にグッドは失礼?」仕事チャットの“いいね!”にイラッ。職場で起きる行き違いのコミュニケーション不全
チャットツールの絵文字は種類豊富。状況に合わせたリアクションを心がけたい
誤解やすれ違いも生みやすい「いいね!」のリアクション。しかし、使いようによっては相手との距離を縮めるツールにもなる。不動産会社で課長代理を務める松田愛花さん(仮名・31歳)は、LINEに似た操作で使える仕事用チャット「LINE WORKS」でのリアクションに助けられたことがある。

「本社の経理担当者にかしこまった言葉で連絡していたところ、相手が途中から、キャラがサムズアップしている絵文字で反応するようになったんです。それ以降、距離が縮まったというか、無駄にかしこまった表現をしなくて済むようになったのはありがたいですね」

判断に迷わせる内容であれば、言葉で返す配慮が大切

山本さんは「既読」の合図として使い、夏野さんは「確認して問題ない」のかどうか判断できずに困った。大森さんの上司は、同じサムズアップを「目上に失礼」と受け取る。一方、松田さんにとっては、相手との距離を縮めるきっかけにもなった。コミュニケーションに詳しい藤田尚弓氏は、こうした受け止め方の違いについて次のように指摘する。

「『いいね』自体が失礼というより、意味や使い方が共有されていないことが問題です。リアクションは便利な機能ですが、情報量が少ない。そのため、送った側は『確認しました』のつもりでも、受け取った側には『軽く扱われた』『上から評価された』と映ることがあります。
『『読んだ』のか『了解した』のか、相手に意味が伝わるかを考える。判断に迷わせる内容なら、きちんと言葉で返すことが大切です」

では、仕事の連絡ではどのように使い分ければいいのか。藤田氏は、絵柄そのものよりも「相手に必要な情報が伝わるか」を判断の基準に挙げる。

「大切なのは、相手との関係性や場面に合っているか、敬意が伝わるかです。特に重要な指示への返答や謝罪、トラブルの場面では、リアクションやスタンプだけで済ませず、言葉を添えたほうがいい。相手に次の行動を求めるときも、何を意味する返事なのか明確にする心遣いが必要です」

仕事上への連絡に「いいね!」と返信することが、一律に悪いわけではない。反射的にボタンを押してしまう前に、受け取った相手にどう伝わるかを事前に考えられるかが円滑なコミュニケーションへの第一歩ということだ。

藤田尚弓(ふじた・なおみ)
応用心理士。対人コミュニケーションや感情を専門に、大学の生涯学習機関で心理学を教えるほか、企業研修や執筆、メディアでの解説を行う。著書に『いい人間関係は敬語のくずし方で決まる』(青春新書インテリジェンス)など多数

<取材・文/松嶋三郎>

【松嶋三郎】
浅く広くがモットーのフリーライター。紙・web問わず、ジャンルも問わず、記事のためならインタビュー・潜入・執筆・写真撮影・撮影モデル役など、できることは何でもやるタイプ。X(旧Twitter):@matsushima36
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