―[ヒット商品&サービス「はじまりの物語」]―

どんな物事にも、もれなく「はじまり」がある。
今では、当たり前になったものでも、その始まりには様々なドラマが潜んでいるはずだ。

例えば、フードコートで料理ができたことを知らせる「呼び出しベル」。

実は、日本の飲食業で初めて導入したのは「スガキヤ」なのだ。

スガキヤといえば、名古屋を中心に店舗を展開するラーメン店で、独自の進化を遂げた一杯は東海地方でソウルフードとも呼ばれて久しい。

さて、スガキヤには呼び出しベル以外にも“日本初”のものがある。大抵の人が一度は触れた経験を持つ“アレ”だ。

スガキヤを運営するスガキコシステムズ株式会社のマーケティング部・宮地紫野氏に、詳細を語ってもらったので、気になる方はぜひ目を通していただきたい。

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いち早く「呼び出しベル」を導入したワケ

「フードコートの呼び出しベル」を最初に導入したラーメンチェーン。袋めんにも“革命”を起こしていた
おなじみの呼び出しベル。「ソフトコール」という商品名だそうだ
かつてのフードコートでは、料理を注文すると番号札を渡され、完成したら呼び出されるのが常であった。今現在一般的になっているのは、ご存じの通り「呼び出しベル」で、先駆者であるスガキヤは1980年(昭和55年)に取り入れている。

「提供する側として、熱々で食べていただきたいのは他のお店も同じだと思いますが、当店の看板商品はラーメン。時間が経つと麺が伸びてしまいますから、いち早くかつ確実にお客様に出来上がりを知らせたいという狙いがあったようです」(宮地氏、以下同じ)

1946年(昭和21年)に創業した同社は、現在約300店舗を構えるが、その多くがフードコートに出店している。いわば得意分野である同社が、フードコートの利用環境向上を担ったのは、必然と言えるのかもしれない。

「もともとは、海外のクリニックなどで使われていたものから着想を得ています。40年以上経っても、当初から変わらず現在も『ソフトコール』という製品を使っています」

革命的だった、袋麺の「粉末スープ」

「フードコートの呼び出しベル」を最初に導入したラーメンチェーン。袋めんにも“革命”を起こしていた
粉末スープも“スガキヤ発”なのだ
スガキヤが元祖となっているもの、もうひとつ。その答えは、袋ラーメンなどに入っている、「粉末スープ」だ。


袋ラーメンの元祖は、1958年(昭和33年)に日清食品から発売された「チキンラーメン」。

わずかな時間と手間で完成することから「魔法のラーメン」とまで称され、爆発的ヒットを記録した。それに追従する形で、他社も次々とインスタントラーメンを発売。ただ、当時の商品はチキンラーメンのようにスープの成分があらかじめ麺に練りこまれていた。

1962年(昭和37年)には、各社が美味しさの向上や差別化に向けて「スープ別添え」の商品を続々発売。同じ年に「スガキヤ」が発売を始めたのが……。

「弊社が日本で初めて『スープの粉末化』に成功し、販売を開始しました。まずは、スープのみでの販売でしたが、当時のインスタントラーメンブームもあって一気に売上が伸びたようですね」

筆者の調べる限り、それまで他社で販売されていたのは濃縮の液体スープだったようだ。スープの味は、店舗で販売される「スガキヤラーメン」の味に近づけた。これが「粉末スープなのに、お店で食べるラーメンスープのような味わい」と大きな話題を呼んだ。粉末スープを同梱した袋麺もその後に発売し、こちらも見事にヒット商品として歴史に名を刻んだ。

「店舗運営も家庭向け商品の製造販売もひとつの会社で行ったのが一転して、1963年に家庭向け商品専門の会社を立ち上げています。
粉末スープのスマッシュヒットが、この会社を設立した契機になっているはずです」

なぜ割り箸から「ラーメンフォーク」に?

「フードコートの呼び出しベル」を最初に導入したラーメンチェーン。袋めんにも“革命”を起こしていた
スガキヤならではの「ラーメンフォーク」
東海地方の人にとってなじみ深いはずの「ラーメンフォーク」は、スプーンの先にフォークを合体させたような形状をしており、スガキヤのオリジナルアイテム。何を隠そう、こちらの歴史も約半世紀にも及ぶのだ。

ラーメンフォークが誕生したのが1978年(昭和53年)。それまでは何の変哲もない割り箸とレンゲが使われていた。

「オイルショックによって世間的にエコや節約の意識が高まっていたため、再利用できない割り箸から脱却しようという狙いがありました」

その観点であれば、ここ20年ほどで広まったエコ箸への転換が自然のように思えるが、そうは問屋が卸さない。

「実はスガキヤは、倹約意識がとても高くて、『ケチガキヤ』と呼ばれることも(笑)。箸とレンゲを両方洗うよりは、一体化させて水道代を節約するという狙いがあったようですね」

徐々にスガキヤの象徴になっていった

しかし、ラーメンフォーク誕生後も、すんなりと受け入れられることはなく「割り箸をくださいと言われることが多かったようですね」と宮地氏。

現在も、箸とラーメンフォークの両方をつけて提供しており、開発時の狙いが達成されたとは言い難い。ラーメンフォークが現役なのはなぜなのか。

「正直、ラーメンフォークで麺まで食べている人はあまり見かけません(笑)。とはいえ、長年ラーメンフォークを出し続けたことで、『スガキヤといえばラーメンフォーク』というイメージを持っていただいているようで、弊社の看板のような存在になりました」

箸とレンゲでラーメンを食べてきた人にとって、実用的な道具として広く受け入れられなかったラーメンフォークだが、決して無用の長物ではないのだ。

「箸を使うのに慣れていない、小さなお子様や外国人のお客様にはとても喜ばれていますね。最初は、右利きの人が使いやすいようにフォーク部分が斜めになっていたのですが、どなたでも使いやすいように、2007年にモデルチェンジしてフォーク部分が正面になりました」

こうしたアップデートを含めて、現在はユニバーサルデザインのカトラリーとして「MoMA(ニューヨーク近代美術館)」にも展示されているまでに至る。


普段何気なく使っている「呼び出しベル」や、袋麺に入った「粉末スープ」、そしてスガキヤの象徴といえる「ラーメンフォーク」ーー長く愛される店は、アメーバのように変化し続ける。次はどんな発明をしてくれるのか、楽しみで仕方がない。

「フードコートの呼び出しベル」を最初に導入したラーメンチェーン。袋めんにも“革命”を起こしていた
看板商品のラーメンはいまだに「430円」を堅持
<取材・文/Mr.tsubaking>

―[ヒット商品&サービス「はじまりの物語」]―

【Mr.tsubaking】
Boogie the マッハモータースのドラマーとして、NHK「大!天才てれびくん」の主題歌を担当し、サエキけんぞうや野宮真貴らのバックバンドも務める。またBS朝日「世界の名画」をはじめ、放送作家としても活動し、Webサイト「世界の美術館」での美術コラムやニュースサイト「TABLO」での珍スポット連載を執筆。そのほか、旅行会社などで仏像解説も。
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