あんなに仲の良かった友達と、なぜ離れてしまったのか。大人になってからの喪失は、なぜこんなにも苦しいのか——。
新潮社のWebマガジン「考える人」での連載中から、「これは私のことだ」「心の傷が開いた」と共感の声が相次いだ話題作『友達になって後悔してる』が待望の書籍化。
中年を迎え、気づけば友達が減ったと感じている人も多いのではないだろうか。なかでも男性の友情は、明確な別れもないまま、いつの間にか薄れていくことが少なくない。

今回は、著者・山野井春絵氏による「男の友情が消えていくとき」をテーマにした特別寄稿をお届けする。

休日に誘う相手が、一人もいない!?


42歳男性が週末に「俺、誰も誘う相手がいない…」“男の友情”...の画像はこちら >>
東京で食品メーカーに勤務する裕司さん(42歳)は、40歳の妻と小・中学生の2人の子どもの4人家族。子どもたちは2人ともスポーツに取り組んでおり、週末はほとんど家にいない。夫婦でどこかにランチへ行き、スーパーやホームセンターで買い物をしたりして、土日を過ごしている。

ある週末、妻は友達と旅行へ出かけ、子どもたちは近くの実家に泊まりに行くことになった。妻はいそいそと用意をしながら、ふいに言った。

「ねえ、私たちがいないこの土日、どう過ごすの? あなたも誰か友達を誘って遊びに出かけたら」

裕司さんは、「ああ、そうだね」と答えたが、はたと気づいた。

「俺、誰も誘う相手がいないな」

LINEを開けば、家族か会社関連ばかり。下の方を探ると、幼稚園時代にあったパパ会の連絡網があった。もっと下には、大学のサークルのグループがあった。
最終発言は2019年。誰かが「今年の忘年会どうする?」と発言。誰も返していなかった。

会社に行けば、毎日誰かと会話している。飲みにだって誘われる。でも、理由もなく土日に「メシでも行かない?」と送れる相手は、一人もいなかったのだ。

街でつるんでいるのは、なぜ女性ばかりなのか


「濡れ落ち葉」という言葉をご存知だろうか。定年退職した男性が、友達もおらず、妻が出かけるときに「俺も」とどこにでもついて回る様子を、「払っても離れない濡れ落ち葉」に例えた言葉で、1980年代の後半から使われるようになったとされる。近年はシニア層もアクティブになり、言葉自体は死語になりつつある、と言われている。

が、週末、モールやレストランなどで、夫婦で行動している人たちをよく見かける。前出の裕司さんもそうだ。「定年後」の高齢者とは限らない。筆者は50代だが、まわりの40代の友人たちも、「子どもが大きくなったから、ツガイでの行動が増えたわ」などと言っている。


「ダンナがついてくるのよ~。私は女友達と出かけたいのに!」

街を見回してみれば、「同性グループ」で行動しているのは女性ばかり。10代から上は90代まで、さまざまな年齢層の女性グループというものは、あちこちに存在する。

一方、男性はどうだろう。数人で行動している男性は、10代~20代前半が多い印象だ。30代以上の男性グループがZARAでショッピングしている姿、などというのは、あまり見かけない。男性グループを見かけるのは、スポーツ関係、会社や昔の仲間との飲み会、推し活、冠婚葬祭あたりか。映画を観るとか、街で意味もなくグループで歩いたりというようなことを、男性はほとんどしないように思う(恋愛関係にある男性同士はこの限りではないだろう)。

私はここ数年、「友達との離別体験」について、老若男女に、どんなことがあったのか、どう感じたかを聞いて回っていた。そのうち、特に印象的だったエピソードをまとめ、『友達になって後悔してる』という書籍を作った。このリサーチをしている間、何人かの男性から聞いた言葉がある。

「友達と呼べる人はあまりいないし、今は必要だと思わないので、離別と言われてもよくわからない」

そう話したのは、ほとんどが40代以上だった。
いつからいないのですか? と尋ねると、

「20代の終わりくらい」
「30代くらい」
「結婚してからかな」

などという答えが返ってきた。彼らから引き出された離別体験は、多くが学生時代の話だった。

友達が減りはじめるのは25歳から


42歳男性が週末に「俺、誰も誘う相手がいない…」“男の友情”が自然消滅してしまうワケ
後ろ姿
男性の交友関係が年齢とともに変化するのは、さまざまな研究からも明らかになっている。

かつてオックスフォード大学とアールト大学の研究チームが、約320万人分の携帯の通話記録を解析した(Royal Society Open Science 2016)。アンケートではなく、実際に誰と何回連絡したかの記録だ。これによると、「月に連絡を取る人数」のピークは、男女とも25歳前後で、そこから減り続ける。しかも男のほうが、減り方が速い。25歳の時点では男のほうが多いのに、急に落ちて、39歳あたりで女性に逆転される。

また、米国の心理学者ナイオビ・ウェイは、20年以上かけて11~18歳の少年に数百件のインタビューを行った。これによると、13~15歳の少年は、「親友についてびっくりするほど素直に喋る」という。「何でも話せる。自分自身のようだ」。ある少年は、「友達がいなければ気が狂うか、落ち込んでしまう」と語った。
ところが青年期後期、彼らは「禁欲的で自立した人間にならなければ」と感じはじめる。傷つきやすい感情や親密な友情は「男らしくない」もの。そして大人になるにつれて人を信じなくなり、友情を失い、孤立と孤独を感じるようになる……(Niobe Way, Deep Secrets: Boys’ Friendships and the Crisis of Connection, Harvard University Press, 2011.)。

思い当たる節のある男性は多いのではないだろうか。

10代の頃は毎日一緒にいた友達。仲間の思い出はいっぱいあるのに、大人になった今、いつの間にか一人でいることに慣れている。映画「スタンド・バイ・ミー」で描かれたのも、大人になってから振り返った友達の喪失だ。思春期を終えて、「男らしさ」「大人の自覚」の獲得と引き換えに失っていく、親密な友情。おじさんたちがつるまないのも、こうした無自覚な孤立が背景にあるのかもしれない。

「離別」として記憶されない別れ


42歳男性が週末に「俺、誰も誘う相手がいない…」“男の友情”が自然消滅してしまうワケ
部屋で悩む男性
私がインタビューした中で、大人になってから「友情が壊れた」体験を語った人は、男女比でいえば圧倒的に女性の方が多かった。男性でも恋愛や仕事絡み、金銭トラブルからの離別体験を話す人はいたが、30代以上は「友達と会うこと自体が減っているから特に思い当たらない」という人が多かった。

結婚した男性の優先順位は、友達よりも仕事や家庭、子育てが上になっていく。特に働き盛りの頃は、会社の人間関係で孤独の穴は塞がれているため、友達の喪失には気づかない。
また、男性は「誘われたら行く」という姿勢をとる人が多いので、誰も動かなければ、かつての仲間も自然消滅しやすいのだろう。

42歳男性が週末に「俺、誰も誘う相手がいない…」“男の友情”が自然消滅してしまうワケ
3人家族
日本の60歳以上の男性に「親しい友人はいるか」と聞くと、約4割が「いない」と答える。頼れる相手に「友人」を挙げた人は14.9%で、日米独スウェーデンの中で最下位(内閣府調査)。これは60歳で何かが起きたわけではない。男性における友達関係の変化は上述した通り、30代からはじまっており、それが露出しただけだろう。つまり、男性における友達との離別は、ショット的なものよりも、じわじわと進み、気づけばそうなっていた、というパターンが多いようなのだ。

連絡が来れば喜んで会うけれど


裕司さんは、いつものように一人で土日を過ごそうとした。ところがこの日はたまたま、ゼミの仲間が地方から上京している旨をインスタグラムに投稿しているのを見つけた。そこで、あまり期待もせず「暇なら飲みにいく?」とメッセージを送ってみたところ、すぐに快諾の返事が届いた。裕司さんは言う。

「男って、こういうもんですよ。何年ぶりかで会ったとしても、すぐあの頃の調子に戻れるし、ふつうにしゃべれる。だからこんな感じでいいと思ってますけどね」

私は尋ねた。


「その日の飲み会は、楽しかったですか? これからも誰か友達を自分から誘って、時間をともに過ごしたいと思いますか?」

すると裕司さんは答えた。

「まあ、ふつうに楽しかったですね。だけど、自分からは、そんなに誘わないかな。女性みたいに……って言ったら叱られるかもしれないけど、この歳でべたべた男同士つるんでるのもね。誘われたら、行くかなと思います。自分は奥さんと一緒にいる方が気は楽ですし」

「仮に、奥様と離婚したり、先立たれたりしたら、週末をどう過ごしますか?」

「うーん。まあ、酒飲んで、テレビ観て、寝て。って感じですかね。別に寂しくはないと思います」

定年後の過ごし方は「今」にかかっている

42歳男性が週末に「俺、誰も誘う相手がいない…」“男の友情”が自然消滅してしまうワケ
公園のベンチ
友達は、必要か、不要か。これは人によって考え方が分かれるところだし、どちらを選ぶのも自由だ。一人でいることを選び、それを苦痛だと感じていないなら、何ら問題はない。ただし、少し心配な面もある。

英国の高齢者を対象にした研究に、「孤立した高齢男性は、孤独感を少なく申告している可能性がある」という報告がある。つまり「男は孤立しているが寂しくはない」という結果が出たとき、それが本当なのか、単に言わないだけなのか、研究者ですら区別できていないのだ。同じ研究では、孤独な高齢男性ほど酒量が多いという関連も出ている(英ELSAによる高齢男性の孤独研究)。

寂しいと言わない。でも酒は増える。これは、あまりヘルシーな状態とは言い難い。

裕司さんの「別に寂しくはないと思います」は、決して強がりには聞こえなかった。おそらく本心だからだ。しかし、それこそ定年後はどうだろう? 裕司さんは特に趣味を持っていない。ステレオタイプな「濡れ落ち葉」になる可能性が高い。そして裕司さん自身に、その自覚はない。

60代になったとき、どう過ごしたいか。

そう考えたとき、あなたは「友達」との関係をどうするだろう?

もしも、「孤独は嫌だ!」と思うなら、このご時世、「男らしさ」も何も気にせずに、早い段階でじゃんじゃん交流を求めていいように思う。新旧のコミュニティに属したり、気の合う人と出かけて、それこそZARAでファッションチェックをし合ったりしてもいい。一人ぼっちで酒を煽って肝臓を壊してしまうよりも、その方がきっと楽しいし、家族も安心するはずだ。もう一度、学生時代のように、友達とつるみ、バカ話をして笑ってみるのも、悪くないのではないだろうか。

<取材・文/山野井春絵>

【山野井春絵】
ライター、インタビュアー。雑誌やWEBメディアで、タレント・文化人・政治家など、多数のインタビュー記事を執筆。人物取材で培った視点から、「大人の人間関係」の考察をライフワークとする。著書に『友達になって後悔してる』(新潮新書)。愛知県出身、湘南と信州で二拠点生活。ペットはコザクラインコと柴犬。
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