コロナ禍に新卒採用された社員が、入社5~7年目を迎えている。ひと通りの業務を覚え、中堅として後輩の指導や、現場でそれなりの活躍を期待されている時期だ。

しかし、コロナ禍で研修や業務の大半をオンラインで過ごした彼らは、社内外でのリアルなコミュニケーションを経験しないままステップアップしてきた。その結果、いま、深刻な壁にぶつかっているケースもあるのだという。当事者3人の悩みと、専門家のアドバイスを聞いた。

「誰に相談すればいいか分からない」当事者たちが明かすリアルな葛藤



中堅社員になっても「名刺交換に自信がない」「誰に相談すればい...の画像はこちら >>
「新人の頃はフルリモートで、研修も実務もすべて画面越し。先輩にチャットで質問するのも『簡潔に書かなきゃ』とハードルが高く、とにかく自分で調べて解決していました」 

そう振り返るのは、IT企業に2020年入社で7年目を迎えた瀬川さん(仮名・29歳)だ。彼は後輩を指導することになって、思いもよらない壁にぶつかったという。

「成果物について後輩に聞くと、『前のやり方をそのまま踏襲しました』『〇〇さんがやっていたので』という返答ばかり。これじゃAIと同じだから『なぜそうしたの?』と聞いても、なかなか深掘りできません。

ただ、自分も新人時代に対面で指導された経験が少ないから、どう促せば彼らの考えを引き出せるのか、教え方に困っています」

通信会社の営業職で働く本田さん(仮名・29歳)は、ビジネスマナーで困っているのだとか。

「対面でマナーを学ぶ機会がほとんどありませんでした。名刺交換はYouTubeで覚えたけど、これであっているのか……。お客様との打ち合わせが終わって会議室を出るとき、どのタイミングで上着を着ればいいのかなど、今でも分からないまま仕事をしています」

人材系企業で働く茂木さん(仮名・27歳)は、中堅となり社内でのプロジェクト推進や調整業務が増えるにつれ、人脈の乏しさが足を引っ張るようになったと語る。

「『人事向けに新しい施策を打ちたい』とか『採用・研修トレンドのコンテンツを創りたい』となった時、誰にどんな相談をして、どう合意を取ればいいのかわからないんです。


誰がどの部署にいて、どんな強みや情報を持っているのか。全社朝礼で存在は知ってるけど、雑談や飲み会などのリアルな会話をしていないため、頼みようがありません」

さらに、会社全体の「出社回帰」が進むなかでの対面コミュニケーションにも戸惑いを見せる。

「出社したとき、日々の報連相はチャット(Slack)で送るべきか、口頭で言うべきか、タイミングも分かりませんでした。周りから『茂木くんってクールだよね』と言われますが、『もっと自分から話しかけなさい』という遠回しなメッセージなんだと思います……」

カンペが使えない対面の恐怖。「正解を求める」意識が足を引っ張る



当事者たちが抱える悩みについて、キャリア支援や人材マネジメントに詳しい株式会社ジェイックの取締役・近藤浩充氏は、「彼ら個人がサボっていたわけではなく、環境による構造的な影響が大きい」と解説する。

「新人時代、近くで先輩社員の動きを見て覚える機会がほぼなく、画面越しにひとりで仕事をしていたのが一番の要因です。

チャットなどの扱いは得意だけど、対面マナーや現場のリアルな空気感、間合いといった身体感覚をつかむ機会がすっぽり抜け落ちてしまいました」

そんな彼らがリアルな場で勝負するとなると、どうなるのか。

「オンライン会議なら手元で検索したりカンペを見たりして『自分の意見』っぽく話すことができましたが、対面ではその場の瞬発力が問われます。

さらに、この世代は『失敗したくない』という意識が非常に強く、対面で瞬時に正解が出せないと悟ると、否定されるのを恐れて黙り込んでしまうんです」

後輩指導は「つなぐ」だけで十分

そんな悩み多き世代にアドバイスは? 瀬川さんのような後輩指導については「つないであげるだけでも十分」という。

「そもそも、すべてを自分で教えようとしても、そんな時間ないですよね(笑)。『それは〇〇さんに聞いてごらん』と他の人につなぐだけでも、立派な指導・育成として成り立ちます」

本田さんのような、ビジネスマナーはどうか。

「画面越しでは胸から上しか映りませんが、対面では全身が見られます。『視線が一斉に自分に向く』ことに慣れておらず、不安を感じてしまう。
リアルで小さな成功体験を重ねて、慣れていくしかありません」

明日から使える「雑談の7つのフレームワーク」



そして、茂木さんのような社内調整において、実は裏技があるのだと話す。

「飲み会や対面での雑談文化を通ってこなかったため、社内の人との距離感が分からない。これに対しては、Fortune500(アメリカの売上トップ500社)の90%以上が導入する『デール・カーネギー・トレーニング』研修で紹介されている『7つのフレームワーク』がおススメです。

1つ目は、名前。『太郎さんってお名前、素敵ですね。どんな由来があるんですか?』といった質問ですね。2つ目は、住んでいる場所。3つ目は家族についてで、『きょうだいはいますか?』や、お子さんがいれば、その話題など。

4つ目はメインの業務は何をしているか、 5つ目は『オフィスまで何を使って来ますか?バス?地下鉄?』など、交通手段について。6つ目は『最近、どこか面白い場所に行きましたか?』、7つ目は休日の過ごし方です」

私生活に関する話題は答えたくない人もいるため、反応を見て無理に聞かない配慮も必要だが、相手がノリノリで話すということは、関心があるということだ。それを見つけたら、そこに焦点を当てて会話するべきだという。

対人スキルの優先順位を上げれば、仕事は劇的に変わる



コロナ禍の就活難から「入れる会社に入った」というモヤモヤを抱えて、今となって転職を検討する人も多そうだ。

「『社内の人間関係がうまくいかないから』という理由だけで安易に転職するのは危険です。
どれくらい相手を知ろうとしたか、関心事を聞き出したか、といったコミュニケーションの努力をしないまま転職しても、次の職場でも全く同じ課題にぶつかります」

どこまでいけば「コミュニケーションをとれた」と判断できるのだろうか。

「お互いの価値観や、今やりたいこと、これからやりたいことを、しっかり話し合ってください。その上で、会社に残るか去るかを判断すればいいです」

とはいえ、やはり転職されるのは企業側としては避けたい。企業がこの世代と向き合う際、注意すべき点について近藤さんはこう語る。

「一番やってはいけないのは、『積極的に話しかけよう』などとルール化したり、腫れ物に触るように接したりすること。

また、『飲み会のセッティング頼むわ』『〇〇部署から情報収集しといて』といった業務を丸投げするのもNG。『やったことあったっけ?』と事前に確認してあげましょう。

社内研修も、スライドを解説するだけの座学では効果が薄いんだとか……。

「参加者同士で話し合う機会をつくったり、ひとりずつスピーチをさせたりしてください。その際はダメ出しばかりせず、良い点をしっかり褒めた上で『ここだけこうしてみよう』と促すことで、自信をつけてあげることができます。」

対面とオンラインでは、人間関係の作り方が違う。ただ、対人スキルも「仕事の技術と同じで、型を学んで練習すれば必ずできるようになる」と近藤氏は断言する。

「『対人関係に自信をつけること』にフォーカスし、学ぶだけでなく、明日から少しずつ実践してみてください。
人間関係は後回しにされがちですが、ここをしっかり学ぶかどうかで、仕事のやりやすさは大きく変わりますよ」

* * *

近藤氏は、コロナ禍に入社した人の強みとして、「報連相(ほうれんそう)のうまさや、上司から必要な指示を引き出す質問力」を挙げる。これはリモートで仕事をしてきたからこそ培われたスキルだという。

新人時代に対面で仕事を覚える機会は限られていたが、対人スキルも型を学び、実践を重ねることで身につけられる。オンラインで培った強みを生かしながら、小さな経験を積むことが、対面の場での働きやすさや活躍につながっていきそうだ。

<取材・文/綾部まと>

【綾部まと】
ライター、作家。主に金融や恋愛について執筆。メガバンク法人営業・経済メディアで働いた経験から、金融女子の観点で記事を寄稿。趣味はサウナ。X(旧Twitter):@yel_ranunculus、note:@happymother
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