焼肉にステーキ、旬の食材を使った秋の味覚。「食欲の秋」を迎え、食事を楽しみにしている人も多いのではないでしょうか。

「最近、肉が噛みにくい」は老化のサイン。放置したくない“お口...の画像はこちら >>
一方で、以前は普通に噛めていたホルモンや厚切りステーキが噛み切りにくくなったり、十分に噛めずに飲み込むようになったりしていませんか。食事に時間がかかるようになった、硬いものを避けるようになったという変化も、見逃したくないサインです。しかし、「年齢のせいだから仕方ない」と、そのままにしている人もいるかもしれません。

噛む力の低下は、単に食べにくくなるだけの問題ではありません。食べられるものが限られれば、食事の楽しみが損なわれるだけでなく、食事内容が偏り、必要な栄養を十分に摂取できなくなる可能性もあるのです。

食べたいものを自由に食べられることは、当たり前のようでいて、実は健康の土台として大切なことなんです。今回は、見過ごされがちな「お口の老化」のサインと、いつまでも食事を楽しむために知っておきたい対策について解説します。

むし歯だけじゃない!「噛みにくい」を招く3つの原因

「最近、肉が噛みにくい」は老化のサイン。放置したくない“お口の衰え”と全身への影響
歯痛
噛む・飲み込む・話すといった口の機能のわずかな衰えは、「オーラルフレイル」と呼ばれます。食べこぼしが増えた、硬いものが食べにくくなった、むせやすくなった、口が乾きやすくなったといった小さな変化が、そのサインになることがあります。

「噛めない」と一口に言っても、お口の中だけでも原因はいくつもあります。

歯の問題:むし歯、歯周病、歯の欠損、噛み合わせの変化

入れ歯・インプラントの問題:入れ歯が合っていない、インプラント周囲に炎症がある、噛み合わせに問題があるなど

口の機能の問題:舌や唇の動き、唾液の減少、噛む筋肉の機能低下など

歯が残っていても噛む機能が十分とは限らないし、入れ歯やインプラントも、入れたら終わりというわけではないのです。大切なのは、「噛みにくい」という症状だけを見るのではなく、歯や歯茎、噛み合わせ、入れ歯、舌や唇の動きなどを確認し、何が原因になっているのかを見極めることです。

歯を失ってそのままにすると認知症リスクが高まる? 研究でわかってきた歯の数と認知機能の関係

噛む動作では、歯や口の感覚からの情報が脳に伝わり、脳のさまざまな領域が働きます。高齢者を対象とした研究では、咀嚼機能や口腔機能の低下と認知機能の低下との関連も報告されています。
日本歯科医師会も、歯を失って義歯を使わない人は、歯が20本以上残っている人に比べ、認知症の発症リスクが1.9倍になるとの報告を紹介しています。

ただし、こうした研究で示されているのは歯の喪失と認知症発症との関連であり、歯を失うことが直接認知症を引き起こすと証明されたわけではありません。それでも、口は食事や水分摂取、会話などを支える重要な器官です。噛む・飲み込む・話すといった機能を保つことは、栄養状態や人との交流を維持するうえでも大切です。

衰えた「噛む力」を取り戻す!食事中に見直したい4つの習慣

「最近、肉が噛みにくい」は老化のサイン。放置したくない“お口の衰え”と全身への影響
焼肉を焼く男性の手元
普段のお食事の中で工夫できることもあります。

1.噛み応えのある食材を、無理のない範囲で取り入れる

食べる機能を維持するためには、噛む力に合った食事を選び、さまざまな食材をバランスよく摂ることが大切です。魚や野菜、豆類などを取り入れながら、必要に応じて調理法や大きさ、硬さを工夫してみましょう。噛みにくさがある場合は、硬い食材を無理に食べて鍛えようとせず、まずは原因を確認しましょう。

2.噛む回数を意識する

厚生労働省は「一口30回噛む」ことを推奨していますが、食事のたびに、すべての食材を一律に30回噛む必要はありません。大切なのは、食べ物を自分の口の機能に合った状態までしっかり噛み、無理なく飲み込めるようにすることです。噛みにくさや飲み込みにくさがある場合は、回数を増やすだけで解決しようとせず、歯科医院などで相談してみてください。

3.早食いを意識してやめる

仕事の日の癖で早く流し込むように食べる癖のある人がいます。しかし、忙しさから早食いが習慣になっている人は、一度食べ方を見直してみてください。
早食いは肥満との関連が報告されており、食事をゆっくり楽しむことは、食べる量や食習慣を見直すきっかけにもなります。早食いが癖の人は一口食べたら箸をおくなど意識してください。外食では、丼ものや麺類だけで済ませる日が続いているなら、野菜やたんぱく質を含むおかずも組み合わせてみてください。小鉢や根菜類など、さまざまな食材を取り入れた定食を選ぶことも、食事のバランスを整える工夫の一つです。

4.悪い姿勢で食べない

食事中の姿勢も、噛むことや飲み込むことを考えるうえで見直したいポイントです。スマートフォンは一度置き、椅子に深く腰掛け、足裏を床につけ、顎を上げすぎずに食べられる姿勢を意識しましょう。特に、飲み込みにくさやむせがある人は、姿勢だけで自己判断せず、歯科医院や医療機関で相談することが大切です。

入れ歯・インプラントは「入れたら終わり」ではない

すでに治療を受けた方はもちろん、20~30代の頃に抜けた奥歯を放置している人も要注意です。合わない入れ歯を我慢して使い続けると、食事がしにくくなったり、歯茎に傷や痛みが生じたりすることがあります。また、歯を失った部分の顎の骨は、時間の経過とともに形が変化することがあるため、入れ歯の適合状態を定期的に確認し、必要に応じて調整することが大切です。

自覚症状がなくても、定期的に適合状態をチェックしてもらいましょう。インプラントも、治療後のメインテナンスは欠かせません。周囲の歯茎の腫れや出血、清掃状態、噛み合わせなどを定期的に確認し、問題があれば早めに対応することが重要です。
インプラントを長く使い続けるためにも、残っている天然歯を含めてお口全体を管理しましょう。

「痛くないから行かない」は要注意。歯科検診チェックリスト

「最近、肉が噛みにくい」は老化のサイン。放置したくない“お口の衰え”と全身への影響
歯科医師の野尻真里
美味しいものを自分の歯で楽しみ続けるためには、痛みが出てから治療するだけでなく、症状がないうちから口の中の状態を確認しておくことが大切です。では、歯科検診では、どのような点を確認すればよいかをまとめました。

・【むし歯や歯周病の有無】
むし歯の有無だけでなく、歯茎の腫れや出血、歯周ポケットの深さなども確認したいです。特に歯周病は、初期には痛みなどの自覚症状が乏しいことがあります。

・【噛み合わせのバランス】
噛み合わせの状態は、食事のしやすさだけでなく、歯や修復物にかかる負担を考えるうえでも大切なポイントとなります。

・【入れ歯の適合状態】
特定の部位だけに負担がかかっていないかなどの確認を行います。また、顎の骨は時間とともに痩せるため、定期的な調整が必要です。

・【インプラントの状態】
インプラント周囲の炎症は、初期には目立った痛みがないこともあるため、定期的なメインテナンスを受けることが重要です。

・【舌・唇の筋力と動き】
食べこぼしが増えた、飲み込みにくい、滑舌の低下は、お口周りの筋力低下のサインです。

・【唾液の分泌量】
口の渇きはむし歯や口臭の原因となります。
薬の副作用や全身疾患の影響なども含めて原因を相談することも大切です。

美味しい物をいつまでも楽しむために

「痛くなってから行く場所」から「いつまでも美味しいお肉をビールと一緒に楽しむために、お口の中をメインテナンスする場所」へ。この秋、食事を心から楽しむために、ぜひ一度、かかりつけの歯科医院へ足を運んでみてください。

<文/野尻真里>

【野尻真里】
一般診療と訪問診療を行いながら、予防歯科の啓発・普及に取り組んでいる歯科医師です。「一生涯、生まれ持った自分の歯で健康にかつ笑顔で暮らせる社会の実現」を目標にメディアで発信をしています。X(旧Twitter):@nojirimari
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