猛虎に異色の“二刀流”がいる。日系ブラジル3世の阪神・伊藤ヴィットル通訳(30)が、3月の第6回ワールド・ベースボール・クラシック(WBC)予選(米アリゾナ州トゥーソン)にブラジル代表として出場し、来年3月の本戦に2度目の出場を決めた。
あの通訳は何者だ―。3月、WBC予選を戦うブラジル代表の遊撃手がSNSで話題になった。華麗なフィールディングが光る日系3世の「ITO」。本業は阪神の通訳だ。レギュラーとして4試合に出場し、打率3割8分5厘。3大会ぶりの本戦出場に大きく貢献した。「ギリギリだったけど、何とかチームが勝てて良かった」と、控えめに快挙を喜んだ。
2023年1月に社会人・日本生命で現役を引退し、24年4月に阪神の通訳として入団。入団後は担当選手とキャッチボールをする程度で、野球からは離れていた。昨年12月、ヤクルトの外野守備走塁兼作戦コーチで松元ユウイチ代表監督(44)のひと言が運命を変えた。
オフシーズンは球団施設に通い詰め、マシンを相手に打ち込んだ。自宅近くの公園ではダッシュを繰り返した。「間に合うか、とても不安でした」。特に多忙だったのは、2月の春季キャンプ期間中。練習前の午前5時半からジムへ。昼食は5分で取り、マシン打撃。「球団がとても協力してくれて、ありがたかったです」。
ブラジル代表は、前回出場した13年の第3回大会では日本と同組。3―5と善戦したが、キューバと中国を含めて3戦全敗となった。伊藤通訳は第4回大会予選から代表入り。初の本大会出場へ「絶対に選ばれたいです」と目を輝かせる。今回は米国、メキシコ、イタリア、英国と同じプールB。上位2チームが進む準々決勝以上を狙う。「日本と対戦して、次は勝てたらうれしい」。対戦は早くても準決勝。現在も通訳業に注力しながらも、コンディション維持は欠かさない。大きな野心を胸に秘め、二刀流の挑戦は続く。(直川 響)
◆伊藤ヴィットル1995年2月16日、ブラジル生まれ。
◆野球ブラジル代表 五輪出場はなし。WBCは13年に初出場し、1次ラウンド敗退。3月の予選では、ボー・タカハシ(西武)、金伏ウーゴ(元ヤクルト、巨人)、仲尾次(なかおし)オスカル(元広島)のNPB経験者に加え、ドラフト候補の最速151キロ左腕・沢山優介(ヤマハ)もメンバー入り。また、MLB通算555本塁打のマニー・ラミレスを父に持つルーカス・ラミレス(エンゼルス傘下)も出場した。
◆2013WBC1次ラウンド(3月2日・ヤフオクD)
日 本
001 100 030-5
100 110 000-3
ブラジル
(日)田中、杉内、〇摂津、能見、S牧田―相川、阿部
(ブ)フェルナンデス、ゴウベア、●仲尾次、コンドウ、ノリス―フランサ
【VTR】田中が初回に1点を先取されたが、3回に糸井の同点打、4回に坂本の犠飛で勝ち越し。杉内、摂津が1点ずつを失い、再びリードを許したが、8回に井端が同点打。