◆スポーツ報知・記者コラム「両国発」

 プロ野球取材17年目になる。振り返ると、うまく書けなかった原稿や失敗の方が鮮明に覚えている。

 2016年5月13日の巨人・ヤクルト戦(東京D)。菅野智之投手が7回の勝負どころでバレンティンを空振り三振に抑えた内角球をワンシームと書いた。当時、武器としていた球。直球と同じ球速帯でシュートしながら微妙に沈む速球だ。

 違った。後日、その場面について聞くと「あれはストレートです。あそこで真っすぐで空振りを取れたのがミソなんです」と教えてくれた。ワンシームを意識させて膝元の直球を振らせた点がポイントだった。

 伸びるような力強い直球をシュート系のワンシームとしてしまった。こんな失礼な話はない。ストレートを最も大切にし、シーズンオフに重点的に強化したのを聞いていただけに、自責の念に駆られた。より試合を細かく、丁寧に見ようと意識するきっかけになった忘れられない一球だ。

 菅野のプロ1年目から取材を続けてきた。全ての球に明確な根拠がある投手で、それを言語化する能力も抜群だった。「あの時のあの球は…」と後日談を聞くのがいつも楽しみで刺激的だった。当然のことだが、一球一球しっかり見る必要があった。連敗が少ないのも特長で「負けた次の試合はマウンドに立つのが怖い。同じミスは許されないので。だから練習するんですよ」との言葉も印象的だ。

 菅野に気づかされ、学んだ失敗を糧にする大切さ。転んでもただでは起きないから、厳しいプロ野球の世界で圧巻の成績を残せたのだろう。今はメジャーで奮闘する右腕。その根底には揺るぎない強さがある。(巨人担当・片岡 優帆)

◆片岡 優帆(かたおか・ゆうほ) 08年入社。

巨人担当キャップ。巨人担当15年目。桐蔭学園で甲子園出場。早大野球部ではリーグ戦19試合出場。

編集部おすすめ