◆スポーツ報知・記者コラム「両国発」

 日本馬の出走する国際G1競走を取材するため、4月22日から28日まで香港に出張した。競馬そのものに日本と大きな違いはないが、レース当日の雰囲気は全く異なる。

 最大の違いが音の大きさだ。馬は繊細で、わずかな音にも反応しメンタルを崩す。トップジョッキーの川田将雅が「発走前には静かにしていただきたい」とファンに要請したように、日本ではビッグレースであっても必要最低限の盛り上がりに抑えるよう運営側も観客も自粛している。

 だが、香港ではレース間にコース脇で音楽ライブが行われ、観客も大声援を送る。そんな狂騒の中でも、現地の馬はほとんどテンションを上げることなくパドックを周回。係員も平然と業務をこなす。同行したJRAの職員が「日本では絶対に見られない光景」とつぶやいたが、私も同感だ。

 音に強いのは、香港馬のほぼ全てが去勢済みだからだろう。通常、馬は去勢をすれば精神的に落ち着く。馬産を重視する日本と違い、競走馬の生産を行わずオセアニアやヨーロッパから去勢済みの馬を輸入している香港ならではの特色だ。

 また、海外経験豊富な上原佑紀調教師は「動物との関わり方の違い」を指摘する。「海外は動物をパートナーとして扱うが、日本はまだそこが足りていないと思います」。

海外では日本より早い段階から乗り込みを始め、人間との主従関係を築く。人の指示に従順で、暴れる馬が少ないのはそのためだ。

 今や世界でもトップレベルの強さとなった日本競馬。ここにエンターテインメントとしての更なる盛り上がりが加われば、より多くのファンを引きつけることになる。そのためには、馬との向き合い方に変化も必要となってくるだろう。

 ◆角田 晨(つのだ・あきら) 2016年入社。ボートレース担当を経て、23年から中央競馬担当に。思い出の馬はオルフェーヴル。

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