脚本家の三谷幸喜氏(63)は約40年のキャリアで、一貫して喜劇を書き続けている。舞台、ドラマ、映画などで多くの名作を世に送り出しているが、なぜ笑いにこだわるのか、どんな笑いの方程式を持っているのか、日本を代表する喜劇作家の胸の内に迫った。
自他共に認める人見知りの三谷氏。終始、恥ずかしそうに伏し目がちで取材に応じた。それでいて質問に対しては瞬時に的確な回答を見つけ、理路整然と語る。時にはユーモアあふれる例え話を交えて、頭の回転の速さを感じさせた。
「なぜ、笑いにこだわるのか?」と尋ねると「理由は2つあります」と前置きをしてから答えた。「僕の人生において、何度も喜劇に救われたから。『Mr.ビーン』に救われたことがあるけど、『ゴッドファーザー』に救われたことはない。『Mr.ビーン』のコントを見て心がホッとしたり、悩みが晴れたり、喜劇には前向きになれる力があると信じているんです」と語る。
もう一つは「それ以外に才能がないから、喜劇を書くしかない。笑いのないものを書けと言われたら、どう書いていいのか分からない」。笑いにこだわる先に壮大な夢があるのか。
三谷氏ならではの「笑いの方程式」を持っているのか。「笑いって感性というより、数式のようなものだと思うんです。萩本欽一さん的に言うと『この場合のツッコミの間(ま)は3だよ。3で言えなかった場合、4で言っちゃだめ。6まで待て』という感じ。文書化したことはないけど、頭の中には公式がある。その日の場所や温度、湿度、コンディションによっても違う。たくさんありすぎて、どれを使うのがベストなのか、選択が難しい」と語る。
押しも押されもせぬ人気脚本家だが、おごり高ぶることはない。それどころか、ネガティブ過ぎる一面も。SNSで自身の作品に対する感想を目にして「喜劇に拒否反応を持っている人がいる。『無理やり笑わせようとしている』とか『わざとらしい』と言われることがある。そうですよ。無理やり笑わせようとしているんです。自然に笑える作品を作れないのは、僕の力不足です」と唇をかんだ。
TBS系情報番組「情報7daysニュースキャスター」(土曜・後10時)の進行役は今年で4年目。「僕は世間一般の常識を知らない恥ずかしい人間なんですけど、安住(紳一郎アナウンサー)さんから『ビートたけしさんの後を継いでほしい』と頼まれて、力になりたいと思ったんですよね」。当初は、番組内でどうコメントするべきなのか悩んだが、「付け焼き刃の知識で語っても仕方がない。僕は視聴者と番組をつなぐ役割なんだ」と気付いてから、リラックスできるようになった。
プライベートでは1995年に女優の小林聡美(59)と結婚するも2011年に離婚。
大泉洋(52)が主演する舞台「昭和から騒ぎ」でシェークスピア作品の翻案・演出に初挑戦。原作「から騒ぎ」の舞台はイタリアだが、「おせっかいな人がたくさん出てくるのが、昭和の義理人情のある世界につながる」と昭和の鎌倉に。「僕の中では鎌倉を舞台にした作品を多く作った小津安二郎監督へのオマージュ。高橋克実さんが演じる大学教授は笠智衆さんのイメージ」と明かした。
「基本的にオリジナル脚本の作品をやるのが自分だと思っているので、シェークスピア作品へのプレッシャーはゼロに近い。そんな失礼な人だからこそ、客観的にシェークスピアを見られる強みもある」。翻案・演出は初めてだが、これまでも劇中劇などでシェークスピア作品を扱っている。
2組の男女が主軸となるラブコメで大泉のほか、宮沢りえ(52)、竜星涼(32)、松本穂香(28)も出演する。「鎌倉殿―」などでもタッグを組んだ大泉には「どうすれば作品が面白くなるのか、どうすれば観客が笑ってくれるのか、分かっている人」と信頼を寄せる。演出に関しては、普段は出演者をイメージした「あて書き」を得意としているだけに「演出が難しい。僕ですら、分からない部分がある」と稽古場で試行錯誤している。
改めてシェークスピア作品を読み込むと、新たな発見があった。「ト書き(セリフ以外の状況説明)が少ないから、いないはずの人が突然、舞台上にいたり、けっこう、いいかげんなんです」。その上で「彼は後世に残そうと思って書いてない。思ってたら、もっと丁寧に書いているはず。そんな感じで書いたのに、400年後にも残っているのが、シェークスピアのすごいところ」と鋭い視点で、三谷流シェークスピア論を語った。
◆三谷 幸喜(みたに・こうき)1961年7月8日、東京都生まれ。63歳。