さあ、ダービーウィークだ。第92回日本ダービー・G1は6月1日、東京競馬場の芝2400メートルで行われる。

2022年生まれの3歳馬7950頭の頂点を目指す競馬の祭典の主役は、皐月賞馬ミュージアムマイル。高柳大輔調教師(47)=栗東=が、20年の無敗3冠馬コントレイル以来、史上25頭目の春2冠を懸けて送り出す。

 衝撃の末脚が勢力分布図を一瞬で塗り替えた。前走の皐月賞。進路を確保したミュージアムマイルが単勝1・5倍のクロワデュノールに襲いかかる。ラスト100メートルで並ぶ間もなく突き抜けた。「本当に1馬身以上抜け出すまでは、後ろの馬が来そうな雰囲気があったから、最後まで気が抜けない。どきどきしていました」と高柳大調教師。1馬身半差の完勝で一躍、主役の座に就いた。

 運命に導かれるようにたどり着いた1冠目だった。昨夏のデビューは「馬名に引っ張られたかな」と苦笑いで振り返るマイル戦で3着。距離を延ばした2戦目は完勝も、再びマイルの朝日杯FSは2着。

「皐月賞を勝った時に、初戦も朝日杯も勝っていたら、ここにいなかったかなと思いました。特に朝日杯は勝っていればNHKマイルCが目標になったと思うし、3着なら(賞金面で)ダメ。2着がベストだった」。頂点に立った今だからこそ、笑みがこぼれる。

 開業8年目で初めて、しかも主役を送り出す競馬の祭典。だが、驚くほどに自然体だ。「競馬をあまり知らないからかな」。屈託のない笑顔の根底にあるのは愛馬ファーストの精神。高校、大学では乗馬に没頭。その後もG1より、未勝利でも自ら触れた馬たちのレースの方が気になった。「いくらすごい馬でも普段の様子は知らないし、それなら自分の馬に目が行くんですよね」。週末の全レースを見始めたのは調教師になってから。

今でも競馬関係の新聞や雑誌を見るのは必要最低限。周りは気にせず、手がける馬に全神経を集中させる。

 忘れられない舞台に戻ってくる。サウンドビバーチェを送り出した22年オークス。発走直前で他馬に蹴られたことで放馬。どよめく場内を10分近く走り回る姿を、さまざまな感情が渦巻くなかで見つめていた。「本当に長く感じました。自分は何もできないし、スタッフも悪くない。何より、馬主さんに申し訳なかった」。結局は競走除外。ゲートインすらできなかった。

 あの時以来となる東京・芝2400メートルのG1。

ゲートに入る瞬間まで、気は抜けない。しかし、順調に仕上がっていくミュージアムマイルの姿が頼もしい。「いい状態で送り出せそうですし、そうなればおのずといい結果に結びつくんじゃないかなと思っています」。2冠は後からついてくるもの。愛馬と向き合い、信じ抜いた先に最高の喜びが待っている。(山本 武志)

 ◆絶好調レーン、テン乗りも「心配していない」

 20年コントレイル以来の2冠達成へ。頼もしい新パートナーが手綱を執る。ダミアン・レーン騎手(31)=オーストラリア=は、2年前にタスティエーラで日本ダービーを初制覇。テン乗り(初騎乗)での勝利は69年ぶりという“快挙”を成し遂げ、「テン乗りはダービーを勝てない」とのジンクスを打ち破った。モレイラからの乗り替わりとなる今回も不安はない。

 21日の1週前追い切りに騎乗。滋賀・栗東トレーニングセンターのCWコースでカズプレスト(6歳オープン)と併せ、1400メートル96秒7―11秒0とラストは鋭く伸びて1馬身先着した。

「残り100メートルのフィーリングを確かめましたが、動きも良く仕上がりもいい」と初コンタクトを振り返った鞍上。タスティエーラとの共通点を問われ「速い脚を持っている」と評価した。

 「タスティエーラの時もテン乗りのことは気にしていなかった。自分自身と馬に自信を持って乗るだけ。皐月賞もいい勝ち方だったし、2400メートルも特に心配していない」。先週の土曜日に5連勝を含む一日6勝。波にも乗っているオーストラリアの名手が、2度目の日本ダービー制覇に挑む。

 ◆高柳 大輔(たかやなぎ・だいすけ)1977年6月7日、北海道生まれ。47歳。馬術部に所属していた京産大を卒業後、ノーザンファーム勤務を経て、2003年10月に栗東トレセン入り。大久保龍志厩舎、安田隆行厩舎で助手を経験し、18年3月に厩舎開業。21年アンタレスSで重賞初制覇、同年チャンピオンズCでG1初制覇を飾る(いずれもテーオーケインズ)。

JRA通算167勝。G13勝を含む重賞7勝。父は北海道で競走馬の生産牧場を営み、兄は美浦の高柳瑞樹調教師。

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