さあ、ダービーウィークだ。第92回日本ダービー・G1は6月1日、東京競馬場の芝2400メートルで行われる。
衝撃の末脚が勢力分布図を一瞬で塗り替えた。前走の皐月賞。進路を確保したミュージアムマイルが単勝1・5倍のクロワデュノールに襲いかかる。ラスト100メートルで並ぶ間もなく突き抜けた。「本当に1馬身以上抜け出すまでは、後ろの馬が来そうな雰囲気があったから、最後まで気が抜けない。どきどきしていました」と高柳大調教師。1馬身半差の完勝で一躍、主役の座に就いた。
運命に導かれるようにたどり着いた1冠目だった。昨夏のデビューは「馬名に引っ張られたかな」と苦笑いで振り返るマイル戦で3着。距離を延ばした2戦目は完勝も、再びマイルの朝日杯FSは2着。
開業8年目で初めて、しかも主役を送り出す競馬の祭典。だが、驚くほどに自然体だ。「競馬をあまり知らないからかな」。屈託のない笑顔の根底にあるのは愛馬ファーストの精神。高校、大学では乗馬に没頭。その後もG1より、未勝利でも自ら触れた馬たちのレースの方が気になった。「いくらすごい馬でも普段の様子は知らないし、それなら自分の馬に目が行くんですよね」。週末の全レースを見始めたのは調教師になってから。
忘れられない舞台に戻ってくる。サウンドビバーチェを送り出した22年オークス。発走直前で他馬に蹴られたことで放馬。どよめく場内を10分近く走り回る姿を、さまざまな感情が渦巻くなかで見つめていた。「本当に長く感じました。自分は何もできないし、スタッフも悪くない。何より、馬主さんに申し訳なかった」。結局は競走除外。ゲートインすらできなかった。
あの時以来となる東京・芝2400メートルのG1。
◆絶好調レーン、テン乗りも「心配していない」
20年コントレイル以来の2冠達成へ。頼もしい新パートナーが手綱を執る。ダミアン・レーン騎手(31)=オーストラリア=は、2年前にタスティエーラで日本ダービーを初制覇。テン乗り(初騎乗)での勝利は69年ぶりという“快挙”を成し遂げ、「テン乗りはダービーを勝てない」とのジンクスを打ち破った。モレイラからの乗り替わりとなる今回も不安はない。
21日の1週前追い切りに騎乗。滋賀・栗東トレーニングセンターのCWコースでカズプレスト(6歳オープン)と併せ、1400メートル96秒7―11秒0とラストは鋭く伸びて1馬身先着した。
「タスティエーラの時もテン乗りのことは気にしていなかった。自分自身と馬に自信を持って乗るだけ。皐月賞もいい勝ち方だったし、2400メートルも特に心配していない」。先週の土曜日に5連勝を含む一日6勝。波にも乗っているオーストラリアの名手が、2度目の日本ダービー制覇に挑む。
◆高柳 大輔(たかやなぎ・だいすけ)1977年6月7日、北海道生まれ。47歳。馬術部に所属していた京産大を卒業後、ノーザンファーム勤務を経て、2003年10月に栗東トレセン入り。大久保龍志厩舎、安田隆行厩舎で助手を経験し、18年3月に厩舎開業。21年アンタレスSで重賞初制覇、同年チャンピオンズCでG1初制覇を飾る(いずれもテーオーケインズ)。