俳優・仲代達矢(92)が主演する無名塾公演「肝っ玉おっ母と子供たち」(6月22日まで)が30日、石川・七尾市の能登演劇堂で開幕した。同所は昨年、能登半島地震で被災。
仲代が演じるのは戦場を渡り歩く主人公の女商人“肝っ玉おっ母”。舞台奥の大扉を開けた屋外から、ほろ車で登場するこの劇場ならでは演出に、満員約650人から「うわぁ~っ!」という大歓声が起きた。
この日開演前、柔和な様子で取材に応じた姿とは別人。幕が上がれば狂気をのぞかせる圧倒的な存在感だ。登場シーンを「さあ、これから芝居小屋に入っていくぞ、という不思議な気持ち」と話したが、歓声の後は待ちわびたことを意味する拍手が鳴りやまなかった。
92歳の俳優が主演で2時間半、出ずっぱりというだけでも超人的。しかし、今回は地震の被災地に「生きる励ましを」と3月のスポーツ報知インタビューでも語っていた通り“公約”を果たす目的があった。無名塾が毎年のように合宿を行ってきた七尾市は仲代にとって「第二の故郷」。どうしても舞台で恩返しがしたかった。
反戦を扱う“肝っ玉おっ母”は、無名塾を一緒に作り、多くの演出も手がけた亡き妻、隆巴(りゅう・ともえ、宮崎恭子)さんが88年初演時、骨太な女性役を56歳の夫に託した。8年ぶりの当たり役だが、「以前やった時のことがほとんど記憶にない。
終演後。スタンディングオベーションも起きる中、カーテンコールは4度続いた。「第二の故郷に久しぶりに帰ってこれて、皆さんに見ていただけて、やっぱりうれしいですね」と感無量の様子。七尾市在住の80代の女性は「見に来てよかった。本当にパワーを頂戴しました」と興奮していた。
〇…92歳という年齢に「そろそろ(引退)かな、とは思うが、引退とは言いません」と生涯現役を強調する。しかし、役所広司(69)を始め、大物俳優を輩出して半世紀になる無名塾の将来については気になる様子。「教え子たちも私を追い抜きそうなほど力をつけてきている」といい、「彼らが“第2の無名塾”として続いていってほしいと痛切に思っている」とも話した。
◆仲代と能登演劇堂 仲代が83年頃、石川・中島町(現七尾市)に家族旅行で訪れ、ゆったりした時間の流れや豊かな自然に魅了されたのがきっかけ。85年からこの地で無名塾の合宿を続け、地元の人々との交流が育まれた。95年5月、同劇場が誕生。仲代が名誉館長を務めている。