◆スポーツ報知・記者コラム「両国発」

 将棋を担当して半年。棋士は冷静な人が多い。

女流棋界最多63期のタイトルを獲得している福間香奈女流六冠もその一人だ。昨夏、高校野球を取材した際、全力で練習して勝利に喜びを爆発させる球児を多く見た。棋士も一局一局に備えて長い時間をかけて研究し、白星を狙う。アスリートに通じる部分があるのでは…と考えていた。

 取材を重ね、盤上で駒を激しく動かしながら、多くの棋士が最後まで表情をほとんど変えないことに驚いた。終局後も笑顔を見せる棋士は少なく、勝ったのに反省の言葉が並ぶことも多い。勝利はうれしいはずだが、表情だけでは、どう感じているのか分からないことも少なくない。

 初めて取材したのは今年3、4月の第51期女流名人戦。17歳で里見香奈として同タイトルを初めて獲得し、1度タイトルを失ったが、結婚を発表して名字が福間となった24年に復位した。昨年12月には第1子を出産。将棋に向き合う時間は減ったはずだが、見事に防衛し「里見でも、福間でも、ママでも女流名人」を達成した。にもかかわらず、終局後に「弱いところが出てしまった」と振り返る姿が印象的だった。

 盤を離れると、「(息子が)自分の意思でだんだん笑うようになってきた」と楽しそうに母の顔をのぞかせる。一方、女流棋界では前人未到となる七冠、八冠への思いを聞くと「タイトルが欲しいというよりは、自力をあげたいという思いが強い」と笑顔が消える。福間が盤面に向かい、目指す先を伝えていきたい。(将棋担当・中西 珠友)

 ◆中西 珠友(なかにし・みゆ)2024年入社。棋力はアプリ「将棋ウォーズ」で特訓中。芸能も担当。

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