女優の桜田ひより(22)が、7月4日公開の映画「この夏の星を見る」(山元環監督)で主演を務める。新型コロナウイルスがまん延した2020年を舞台に、失われかけた青春を取り戻すため奮闘する天文部の高校生を演じる。

マスクを着用したままの芝居に挑み「お芝居の筋力が鍛えられた」と実感。星空に魅了される女子高生を好演し「変幻自在に輝ける星でありたい」と理想のスター像を語った。(奥津 友希乃)

 取材会場に桜田が姿を見せると、その場が発光するような圧倒的な透明感を放つ。映画スタッフからも「妖精みたい!」と思わず声が漏れるほどだ。

 かれんなビジュアルと高い表現力でドラマや映画、CMと各方面から引っ張りだこ。多忙な日々を送る中で「空き時間に書店で買った小説を読むことが大好き」という読書家。本作の原作を手掛けた人気作家・辻村深月氏のファンで「ひそかに、辻村先生の実写化作品に絶対出たいと思っていた。主演できるなんて本当に光栄」と念願がかなった。

 劇中には、桜田演じる女子高生・亜紗(あさ)ら個性豊かな若者らが登場する。

 「辻村先生の作品って、悪い人が出てこない。一人ひとりの登場人物が愛を持って描かれているのが魅力的ですよね。私も辻村先生と同じくらい、演じる亜紗ちゃんを深く愛して作品に没入したいと思いました」

 本作の舞台は2020年のコロナ禍。

亜紗が通う高校でも、「三密」を避けるため部活動が制限される。天文部の亜紗は、オンラインを駆使して日本各地で同時に天体観測を行う競技「スターキャッチコンテスト」の開催を決意する。

 多くの生徒が青春を謳歌(おうか)する機会を失いかけて葛藤を抱く中、亜紗は先陣を切る。これまで青春映画で演じてきた「守ってあげたくなるようなヒロイン像」とはひと味違い、「真っすぐで明るくて、他人を動かすエネルギーを持っている。前進して道が開けたら、すぐに行動に移すスピード感が頭ひとつ抜けているところが最大の魅力」とリーダーシップに長(た)けた役柄を好演している。

 自身の高校生時代とは少し距離があるようで「私は、クラスの端っこに座っていたいって感じの生徒で、友達はいたけど、率先して何かをするってタイプではなかった」と回想。それだけに「亜紗ちゃんは同性から見てもかっこいい女の子像」と憧れを投影している。

 コロナ禍のリアルな質感を伝えるべく、多くのシーンでマスク着用での芝居に挑んだ。顔の大部分が覆われた状態での演技は「口元や表情が見えづらいので、情報量が半減した状態でボールを受け取る感覚だった」と苦労も。「その分、想像力や、目の前の人を深く知ろうとする欲みたいなものでシーンが完成した。普段と違うお芝居の筋力が鍛えられた気がします」

 学校対抗の「スターキャッチコンテスト」は茨城や長崎など全国各地の生徒が同じ夜空を見上げる。部員同士で協力し、正確性とスピードを競いながらお題に沿って星を望遠鏡で捉える。

疾走感と青春のきらめきにあふれたシーンに仕上がっている。

 「今回、人生で初めて望遠鏡を触りました。監督からは『競技』なのでキレよく、かっこよく使いこなしてほしいと指示があって。動く星を正確に捉えるのは想像以上に難しかったです。コンテストでは、みんなが今まで抑えていた感情が一気に爆発して、一人ひとりがキラキラ輝いて見えて本当に素敵なシーンです」

 5歳の子役時代からキャリアを積み重ね、今年で17年目。本作でも、みずみずしい感性を残しながら、演じる役の奥底にある陰や葛藤も丁寧にすくう繊細な感情表現をスクリーンに刻んでいる。演じることは「楽しいですけど…」と少しの沈黙を挟んで、「楽しさだけでは決してない。だけど、作品づくりをやっていて良かったなと思えることが一年の中でいくつもある。そういう瞬間が宝物のように大切でいとおしい」と瞳を輝かせる。

 この数年は話題を集めたドラマ「silent」(22年、フジテレビ系)などの出演や主演作も多数で、10社以上のCMに出演するなど世代きってのライジングスターだ。理想のスター像を「ものすごく遠くにある星というよりは、日常の中で映画やドラマを見てくださる人の心が軽くできたり、非日常的な作品の世界観でも輝いたりできる変幻自在な星でありたい。もっとお芝居にのめり込んで、幅のある女優になりたい」と着実にスターダムを駆け上がることを誓った。

 ◆「この夏の星を見る」 コロナ禍に茨城で高校生活を送る亜紗(桜田)は、「スターキャッチコンテスト」の開催を決意する。東京から孤独な中学生・真宙(黒川想矢)や、長崎・五島からは、実家の観光業に苦悩する円華(中野有紗)らがオンラインで同コンテストに参加。全国の学生が夜空を見上げ、奇跡の光景をキャッチする。126分。

 ◆桜田 ひより(さくらだ・ひより)2002年12月19日、千葉県生まれ。22歳。5歳から子役で活躍。14年日テレ系「明日、ママがいない」で児童養護施設の子ども役で脚光を浴びる。18年「咲―Saki―阿知賀編episode of side―A」で映画初主演。23年映画「交換ウソ日記」で第47回日本アカデミー賞新人俳優賞。主な出演作は映画「ブルーピリオド」「大きな玉ねぎの下で」。

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