大映の時代劇やNHK大河ドラマ「太閤記」などで活躍した女優の藤村志保(ふじむら・しほ、本名・静永操=しずなが・みさお)さんが12日、肺炎のため死去した。86歳。
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藤村さんの魅力のひとつに「特徴ある美声」が挙げられる。かすかに鼻に掛かっているのに、女性としては低音で伸びる声の持ち主。声が鼻に掛かってしまう俳優は、口跡があやしくなり、欠点になる傾向が強い。それが、藤村さんの場合、不思議なことに、“鼻に掛かる”瞬間をジャンピングボードのようにしてセリフを繰り出し、品格と説得力を持たせてきた。
藤村さんと言えば、芸名の由来でもある「お志保」役での「破戒」(62年、市川崑監督)。後の面長な輪郭でなく、プクプクしていて丸顔に近い。市川監督から役と合っていないため、痩せるよう命じられる。
自分の中では90年代に何度も上演された舞台「父の詫び状」と、主演映画「二人日和」(05年、野村恵一監督)が印象深い。「二人」は不治の病に侵される役だったが、夫婦添い遂げることについて考えさせる一本だった。「ウチなあ、あんたより一日でも一秒でも長生きしたげよう思てましたんえ」。何とも言えない藤村さんの京都弁のセリフの声がよみがえってくる。