◆スポーツ報知・記者コラム「両国発」

 取材現場では、ほんの一言で勇気づけられる瞬間がある。6月上旬、バスケットボール女子日本代表の強化試合は全員が初めて話を聞く選手。

緊張感を抱えつつ、愛知県内の体育館に向かった。不安げな表情を読み取ったのか、私にある言葉が飛んだ。「君、質問はある?」。声の主は1月に就任し、初陣で快勝したコーリー・ゲインズ新監督(60)だった。英語での突然の声かけに驚いた。

 指揮官はコート内で全員が自在に動く「ポジションレスバスケ」を求める。「(戦術に)マッチしている選手は」と即座に聞いた。笑顔とともに「グッドクエスチョン」と返してくれた。今回の代表メンバーには選ばれていないが「積極性や、自分を強く持っている」という理由で、勝負強い3点シューターの林咲希(30)=富士通=の名前を挙げた。

 チームの移動前に改めて指揮官にあいさつした。通訳を介し、気さくに話してもらった。先の声かけの真意を聞くと「何か聞きたそうな顔だった」と意図を明かしてくれた。

 3年ぶりに代表復帰した16年リオデジャネイロ五輪代表で、米WNBAでもプレー経験のあるセンター・渡嘉敷来夢(らむ、34)=アイシン=は、ゲインズ新監督の印象を「コミュニケーション能力がめちゃくちゃ高い。ノリもいいし、壁ができそうにない」と評した。それを聞き、うなずいた。取材対象との壁をなくすことも記者には重要。選手との壁を取り払う指揮官の巧みな人心掌握術に触れ、女子日本代表をもっと追いかけたくなった。

 ◆富張 萌黄(とみはり・もえぎ) 2020年入社。レイアウト、ゴルフ担当を経て今年5月から五輪担当。

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