◆スポーツ報知・記者コラム「両国発」

 大相撲の三役経験者が異色のセカンドキャリアを歩み出した。元小結・阿武咲(おうのしょう)の打越奎也(うてつ・ふみや)さん(29)は、4月から馬油を使った美容商品を扱う会社に勤務する。

元小結が引退後すぐに会社員になることは珍しい。理由は「肌が弱くて悩んでいた時に馬油で治った。恩返しをしたいと思い決めた」と明かす。

 現役時代は新入幕から3場所連続で2ケタ勝利し、21歳で新三役。同い年の貴景勝(元大関、現湊川親方)とともに将来を期待されたが、右膝負傷などで昨年九州場所を最後に引退した。6月1日に断髪式を行い、マゲにも別れを告げた。

 力士は自動車の運転が禁止だが、引退後に免許を取得。自らハンドルを握り、千葉県内の自宅から勤務先の横浜まで約70キロを車で通勤する毎日だ。開発から販売イベントまで「本当に一から覚えている」と新弟子のような生活。戸惑いはあるはずだが「気合です。真っ向勝負」と現役時代の体重165キロから15キロ減り、引き締まった表情だ。

 23年2月、担当になって初めて相撲部屋に行き、取材したのが阿武咲。

同年初場所ではV争い。強烈な突き押しの原点について聞くと「プロに入ってから押し相撲になった。(取り口を)一度ゼロにして一つずつ積み上げていった」と丁寧に答えた。青森・三本木農高(現三本木農恵拓高)を2年で中退して角界入り。高校1年で全国大会を制したプライドを捨てて猛稽古した。「初心が大事」を繰り返してきた熱い男。第二の人生も取り口のように一直線で切り開いてほしい。(相撲担当・山田 豊)

 ◆山田 豊(やまだ・ゆたか) 2009年入社。サッカー担当、静岡支局、販売も経験。

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