◆歌舞伎座「七月大歌舞伎」(26日千秋楽)
松本幸四郎(52)、市川染五郎(20)親子が新作歌舞伎に取り組んでいる。夜の部の「鬼平犯科帳 血闘」。
染五郎は序幕で平蔵の若き日、銕三郎の頃だ。進むべき道に迷い、酒と女とケンカの日々。細身に着流しが素敵に似合う。軍鶏鍋屋・五鉄で手酌酒を飲む芝居には感心した。猪口(ちょこ)の扱い、若侍の雰囲気。ちょっぴり江戸っ子の風を感じた。
助けた夜鷹おもん(市川笑三郎)が殺された復讐(ふくしゅう)に向かう花道を全力疾走。いずれ密偵になる少女時代の幼なじみ、おまさ(市川ぼたん)とのジャレ合い。青春期の若さの勢いっていいなあ。
幸四郎は大詰。その前の序幕で「火付盗賊改、長谷川平蔵であ~る。神妙に縛につけ!」と言い放つ最初の登場は肝心なのだ。“二代目中村吉右衛門に捧(ささ)ぐ”と銘打った演目。吉右衛門は時代劇、歌舞伎で演じていたが歌舞伎座での歌舞伎版は35年ぶりだ。そんな吉右衛門のことを思い出す毅然(きぜん)とした迫力を見せた。その直後に大盗賊・獅子蔵の團十郎と譲らない白熱の立ち回り。歌舞伎の殺陣の醍醐(だいご)味になった。
第6場・化物屋敷、成人したおまさ(坂東新悟)を誘拐した悪党浪人を8人斬り、次々と型を変えた立ち回りは怒り、おまさへの熱い情が出た。
夏から冬、春へ一気に転換する筋運びのテンポが快調で、物売りを数多く歩かせて季節感もある演出・脚本もお手柄。
吉右衛門の平蔵から幸四郎の平蔵へ。“鬼平歌舞伎”をさらに練り上げて将来にも残る作品にしてほしいものだ。