俳優の堤真一(61)と山田裕貴(34)が25日に全国公開となる映画「木の上の軍隊」(平一紘監督)でダブル主演を務める。こまつ座の舞台で度々上演されてきた井上ひさしさん原案による沖縄戦を扱った作品を映画化。

終戦後もガジュマルの木の上で2年間生き続けた兵士を演じた。作中では親子のような関係性で、初共演となる互いの印象についても語った。(瀬戸 花音)

 生きろ。この映画は全身を使って、見た者にそのメッセージを伝えてくる。散る美学が正義とされていた戦時中の沖縄・伊江島で、銃撃から逃れようと葉が生い茂るガジュマルの木に登り、生き抜くことを選んだ陸軍少尉・山下一雄を堤が、島出身の新兵・安慶名セイジュンを山田が演じた。

 山田(以下、山)「死んでいくかっこよさじゃなくて、2人がちゃんと生きようって思って生きるんです。監督はこれをエンターテインメントだって言ってるんですけど、こんな戦争の真っただ中でも2人がエロ本を交換し合うとか、2人の会話が滑稽に見えて面白かったりだとか、そういう要素もある。僕自身、ダイレクトに戦争を描いた作品に出演するのは初めてだと思うのですが、自分が戦争を忘れないためにも『ああ、演じなきゃいけないタイミングなのかもしれない』と思いました」

 全編沖縄でのロケ。実際にガジュマルの木の上に登っての撮影だった。

 堤「60歳になって、木の上で寝っ転がる経験なんてありえない。空はきれいだし、葉っぱは生き生きしているし、生きてるんだなと実感するような感じでした」

 山田には、特に印象に残っているシーンがある。ともに木の上での生活を続ける上官・山下に「なんでここなんですか?」と故郷が戦地となったことへの感情をぶつける場面だ。

 山「もう俺はいないかもしれないってぐらい、なんか全部が出て、なんかこの感覚、久々だなぁと思いました。それこそ、安慶名のモデルになった佐次田(秀順)さんが言ってるのかなっていうぐらい、体が勝手にしゃべっている感覚でした」

 堤と山田はダブル主演で初共演だ。

 堤「山田くんは、真面目というか、まっすぐ。器用に何かこなして、うまく立ち回って生きていけるようなタイプではないと思うんです。そういう部分がすごくいい。安慶名という役はピュアな部分が欠けていると、非常にいやらしい人物になってしまった可能性もあったのですが、山田くんが演じたから、安慶名の戦争中でも『普通に暮らしたい』っていう思いが自然に出ていたと思う」

 山「僕は肩を預けるなのか、胸を借りるなのか、堤さんにとにかくいろんなところを借りながら、自由にやらせてもらった」

 島に上陸した米軍との戦いは激化し、民間人をも巻き込んで多くの人が死ぬ戦禍に。生き残り、戦争終結も知らぬまま、ガジュマルの木の上で暮らす上官と新兵の関係の中にはいつしか、親子のような絆も芽生える。演じる堤と山田にも親子のような絆が芽生えたのだろうか。

 山「堤さんは僕の親父(おやじ)の1歳上なんですよ。堤さんって撮影が終わってご飯行った時とか、ほんとにいろんなことを話してくれる。あ、こんなにしゃべってくれる親父だったらよかったなって思いました」

 一方、堤は「僕はまだ子供が小さいし、女の子だし、山田くんと親子みたいな感覚はあんまりなかった」と振り返る。小学6年生と小学2年生の娘を持つ堤は理想の父親像についても語った。

 堤「戦争もそうですけど、社会の構造とか人間関係とかで自分たちが嫌だなと思ったことは、若い世代にはさせたくないですよね。絶対自分たちより、若い人たちのほうが優れているんですよ。だから、自分も“とと”としてしっかりしなきゃ、病気にならないように、元気で生きなきゃとも思いますし、娘たちには好きなことをやってほしいと思っています。『役者になる』って言ったらちょっと反対するかもしれないですけど(笑)。娘たちの笑い声を聞くのが今、一番、幸せなんだよ」

 これまでも、2人は同作関連の舞台あいさつで「子供たちに見てほしい」と口にしてきた。

 堤「この作品をやれて本当に良かったと、真剣に思えた作品です。ただドンパチし合う戦争映画じゃない。僕も娘たちに見せたいと思っていますし、撮影に関わってくださった沖縄の地元のスタッフの方々とか、そういう人々のためにも頑張って宣伝したいなと思える映画でもあります」

 山「生きるってマジでなんなんだろう?って思うじゃないですか。子供たちと一緒に見て、『こんなことがあったんだよ。でも、2人が生きててよかったね』って言ってほしいなと思います。こんな時代があって、今があるんだって知ってほしい」

 1945年の終戦から、80年を迎える今。ガジュマルの木の上で命をつないだ男たちの、実話をもとにした物語が、公開となる。

 ◆「木の上の軍隊」 1945年の沖縄県伊江島が舞台。日米両軍による激しい攻防戦が展開される中、2人の日本兵が命からがらガジュマルの樹上に身を潜め、敗戦を知らぬまま2年もの間、生き延びた。本土出身のベテラン兵士・山下(堤)と、島出身の新兵・安慶名(山田)。戦地と化す故郷と、死んでいく周囲の人々を見て、安慶名は山下に思いをぶつける。124分。

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