18日の金曜ロードショー(後9時)は、昨年のヒット映画特集の第3弾。「侍タイムスリッパー」が、枠を35分拡大して放送される。
自主映画として製作され、当初の公開館はわずか1館。それがキャスト・スタッフの熱心なPRと見た人の口コミによって評判が広がり、最終的には全国380館にまで拡大。興行収入も10億円を突破した。日本アカデミー賞では最優秀作品賞を獲得。つい先日には、宝塚歌劇団で舞台化され、来年に月組が上演するのが発表されたばかりだ。
長州藩士を討とうとした時に雷に打たれた主人公の会津藩士・高坂新左衛門。目を覚ますと、何やら周囲の様子がおかしい。高坂がいたのは、時代劇撮影所の中。江戸時代から現代にタイプスリップしていたのだった。状況を把握できずにあちこちで騒ぎを起こす中で、高坂は江戸幕府がはるか昔に滅亡していたことを知る。生きることに一度は絶望しながらも、周囲の心優しい人々に助けられ元気を取り戻した高坂が選んだ道は、撮影所の「斬られ役」として生きることだった…。
今も昔も数多くの「タイムリープもの」が作られる中で、この作品”ならでは”は、やはり時代劇への愛と、それに裏打ちされた殺陣だろう。
同時に、心地よさを感じさせるのが、斬られ役たちが持つ自分たちの仕事へのプライドだ。劇中で彼らのうちの一人は、時代劇を捨て”芸能界の中心”である東京へ進出した俳優を「東に下った」と表現する。聞き慣れない言葉だが、これはかつて京都が政治の中心であったと同様に、拠点としている関西の撮影所こそが芸能の世界でも中心であり、「仕出し」と言われようが、そこで数多くの作品を支えている自分たちがいなければ、成り立たないというプライドを表現していると言えるだろう。
「この痛快さ、どこかで見たことあるな…」と考えて、ハッと気付いた。そう、「蒲田行進曲」(1982年)と同じだった。平田満演じるヤスが高坂、”銀ちゃん”こと倉岡銀四郎(風間杜夫)が大スターの風見(冨家ノリマサ)、ちょっと立場は異なるが、小夏(松坂慶子)が助監督の優子(沙倉ゆうの)。そういえば、「蒲田―」で最後にヤスが階段落ちをする作品は「新選組」。幕末の映画を撮っているというところまで同じだった。
「蒲田―」は記者にとっては、邦画の傑作のうちの一本だと思っているが、その作品と「精神」が同じとあれば、ヒットするのも当然?か。そして、40年の時を隔てても、人間が感動するところは同じなのだな…と改めて感じた。