世界的指揮者の佐渡裕さん(64)が12日、音楽監督を務める新日本フィルハーモニー交響楽団とともに東京・墨田区の東京都慰霊堂で「平和の祈りを世界へ」と題した特別演奏会を行った。関東大震災と東京大空襲の犠牲者16万3000柱が供養されている祭壇を前に「フォーレ/レクイエム作品48」を演奏し、鎮魂の祈りを捧げた。

 東京都慰霊堂で特別演奏会が行われるのは極めて異例で、今年は戦後80年であることから佐渡さんの強い希望もあって実現した。音楽監督を務める新日本フィルの本拠である「すみだトリフォニーホール」も毎年、音楽を通じて平和の祈りを発信。歴史的節目の今年は「After80~すみだ発 平和の橋を音楽で繋ぐプロジェクト」として取り組むなか、「すみだ平和祈念音楽祭2025」の最終公演として開催にこぎつけた。午前と午後の各回とも抽選で約200人を無料招待。佐渡さんが指揮を執る楽曲に、参加者全員が1つになって、追悼と平和への思いを乗せる形となった。

 演奏に先立ち、佐渡さんは2022年に「すみだ音楽大使」、23年から新日本フィルの音楽監督に就任後、すみだのまちを最初に案内された場所が「ここ(東京都慰霊堂)だったんです。最初に知って、すごく深く刺さりました」と話し、言葉をつないだ。「今年は戦後80年。阪神淡路大震災から30年の年でもある。世界では戦争が終わらない。世界のどこかで心を痛め、苦しんでいる人がいる」。さらに続けて「戦争が起こらず、もう犠牲者が出ないでほしい。

災害で1人でも助かる人が出てほしい」とスピーチ。全員で黙とうを捧げた上で約1時間にわたってタクトを振り続け、最後は鳴りやまないほどの拍手に包まれた。

 東京都慰霊堂は都立横網公園にある慰霊施設。1923年9月1日に発生した関東大震災による遭難者の遺骨を納める霊堂として30年に震災記念堂として完成。45年の東京大空襲での犠牲者の遺骨も納められ、51年に現在の形に。かつては陸軍被服廠が存在し、関東大震災の時には更地となって罹災者の避難場所になったが、火災に取り囲まれ大きな被害に見舞われた。

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