国立劇場養成所を修了した歌舞伎俳優が多く出演する第31回「稚魚の会・歌舞伎会 合同公演」(17日まで)が14日、東京・浅草公会堂ホールで開幕する。映画「国宝」の大ヒットで歌舞伎に注目が集まっているが、この公演は、学生は1等席が4900円で見られるお得さ。

そんな中、36歳の市川新次(養成所第19期)という市川團十郎一門の役者に話を聞いた。

 公演では「双蝶々曲輪日記 八幡の里引窓の場」「棒しばり」「勢獅子(きおいじし)」を上演。立役(男性の役)の新次は「勢獅子」で「若い者」として出演し、立師(たてし)にも初挑戦する。歌舞伎で戦う場面などの立ちまわりを考える大きな仕事だ。

 「自分自身、体が動くタイプだったのと立師でもある兄弟子の(市川)新十郎さんの姿を見ていて興味を持ち、やってみたいと思うようになりました。今回ほんの少しでも自分らしさが出せれば」。歌舞伎に興味を持った原点は「もともと親が歌舞伎が好きだったので幼少期から親しみがありました」という。

 とんぼ(宙返り)を切ったり、立ちまわりの場面で一番大切なことを、当代の13代目團十郎と舞台に立つ中でも感じるそうだ。「自分たちは、若旦那(團十郎)を始め、芯を張る方がやりやすいように動くのがつとめだと思っています。若旦那を見ていると動きの中での一瞬の間、呼吸、タイミングをとても大事にされているのが分かります。それらにどこまで気づくことができるかが難しくもあり、楽しさでもあります」

 派手な動きに目を奪われやすいアクション的な場面も、実は見えない空気をどこまで読めるかが生命線。数え切れないほど、とんぼを切ってきた。

空中を舞いながら「空気が止まるような瞬間を感じることがあります。それはお客さまが息をのんでいるような状態なのかな、と思ったりします」

 師は12代目團十郎。「憧れの存在です。人間としての大きさやオーラがすごく、この家(成田屋)で勉強したい、と思いました」と振り返る。2010年、入門した年の合同公演。「一條大蔵譚(いちじょうおおくらものがたり)」で八剣勘解由を演じることになった。「旦那(12代目)のなさったことのない役だったのですが『僕が見てあげます』と。舞台に出るときの呼吸、セリフの声の出し方、抑揚…細かく教えてくださいました。いまも、ときどき思い出します」歌舞伎を純粋に愛する気持ち、舞台への志は、約15年前のあのときと変わらぬまま、しっかり持ち続けている。

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