「夏の自由研究」功労馬編は、香港の歴史的名馬ゴールデンシックスティを取り上げる。昨年9月に引退し、現在は北海道苫小牧市のノーザンホースパークで生活。

「かわいさ」と「すごみ」を感じさせながら過ごす様子を、角田晨記者が取材した。YouTubeの馬トクちゃんねるでは近日中に動画を公開予定です。

 香港、いや世界の競馬史を振り返っても“最強”という言葉が最も似合う存在。あのゴールデンシックスティが目と鼻の先にたたずんでいた。ノーザンホースパークのエントランス近くに設置された一番目立つ放牧地。伝説の名馬は暑さ対策の馬服に包まれ、そこでゆったりと過ごしている。牧草をついばみ、時折柵に近づいてくる表情は穏やかそのもの。けい養当初から世話をしている乗馬運営課の田澤直沙美(まさみ)さんも「強い馬ですから気性も荒いのかなと思っていたんですけど、『かわいいな』というのが一番の印象です」と頬を緩ませる。

 G1・10勝、総獲得賞金1億6717万香港ドル(約31億円)という輝かしい経歴を引っさげ同パーク入りしたのは、今年の2月。「オーナー様が日本のことがもともとお好きな方で、ホースパークにいらしたときに他のサラブレッドたちが過ごす様子を見て大変気に入ってくださいました。ぜひシックスティが引退した後はのんびり過ごしてほしいということで、うちにやってきたんです」という願い通りの姿を見せているが、やはり“すごみ”を感じさせる瞬間もあるようだ。「ときどきバーって走るときもあるんですけど、やっぱり他の馬と動きが違ったりします。

『これが世界だ』って思いますね」。昨年9月の引退から11か月、まだまだ黄金の輝きは色あせていない。

 英雄の姿を一目見るべく香港からのファンも多数来場。「入厩したというお知らせの3日後には『シックスティはどこですか』って来場した方もいます」と熱狂は即座に海を越えた。全31戦で手綱を執ったチャクイウ・ホー騎手も月に1回の頻度で訪問。「本当に愛があふれています。けがが原因でお休みされていますが、『彼になら安心して乗れるよ』って信頼度がけた違い。運動だけじゃなくてマッサージしてあげたりお手入れしてあげたりとか、シックスティ自身もうれしそうです」と両者の絆に田澤さんの感動もひとしおだ。

 今後は乗馬への転向も視野に入る。「競走馬と乗用馬では求められるところが非常に違ってきますので、まずは基板になるところをじっくりトレーニングしています。ここからどうしていくかはオーナーさん次第ですね」。“会いに行ける伝説”第二の馬生は始まったばかりだ。

(角田 晨)

 ◆ゴールデンシックスティ 父メダーリアドーロ、母ガウデアームス(父ディストーティドヒューマー)。セン10歳。15年10月14日、オーストラリアで誕生。香港のルイ・キン厩舎所属として19年3月にデビュー。20年の香港ダービーを制すと同年の香港マイルでG1初制覇。チャンピオンズマイル3連覇など、主にマイル路線でG110勝を挙げるなど通算31戦26勝。20~21年シーズンから3季連続で年度代表馬。

セン馬が走る香港のレジェンドだからこそ実現

 記者がゴールデンシックスティを見たのは、現地で取材した23年の香港マイル以来。同馬にとって最後のG1タイトルとなったレースだが、残り400メートルから一気に加速し他馬を引き離す姿は今でも鮮明に脳裏に焼き付いている。しかし、今回の姿はいい意味で親近感の湧くものだった。

 仲良しのクォーターホース(サラブレッドよりやや小さい品種。牧畜や乗馬、競走用に用いられる)ジョンくんの後ろをついて回り、かまってほしいとねだる姿は子供のよう。

放牧地の外に出され多くのファンに囲まれても、全く嫌がるそぶりは見せない。まさか、こんな身近に感じられるとは。通常のG1ウィナーは種牡馬になるため、なかなか触れあうことはできない。セン馬が走る香港のレジェンドだからこそ実現した、世界でも類をみない貴重な経験だった。(角田)

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