俳優の河内大和(46)が、18歳からライフワークとしてきた舞台で培った確かな演技力と唯一無二の存在感を発揮し、映像界から熱視線を浴びている。23年TBS系日曜劇場「VIVANT」ではドラマ初出演ながら、外務大臣・ワニズ役で強烈なインパクトを残し、知名度が急上昇。

29日公開の映画「8番出口」(川村元気監督)では、得体の知れない“おじさん”を怪演する。ブレイクまでの道のりや芝居への情熱を語った。(奥津 友希乃)

 切れ長の目に武士のような長髪、独特のたたずまいは、どこか異質で魅力的だ。モンゴルでロケを行った「VIVANT」で、何度も現地の俳優と間違われたというエピソードもうなずける。「先祖は平家の落武者らしくて。だからか、武士に憧れがありますね」と気さくな笑顔で明かした。

 高校3年の時に友人の影響で映画観賞に没頭し、米俳優ブラッド・ピットのとりこに。山口で生まれ育ち、雪国への憧れから新潟大に進学し、演劇研究部に所属。「あまりに楽しくて全然、授業を受けなくなっちゃった」と中退し、演劇に傾倒した。

 新潟の劇団でシェークスピア作品に数多く出演。バイトを掛け持ちしながら、芝居の鍛錬を積む日々を送ったが「情熱だけじゃどうにもならんなと。27歳のある日、台本開いても声が出なくなっちゃって。

今思い返してもゾッとします。何で演劇やってるんだ、何で生きているんだと変に暗い方にいってしまった」。

 山口に帰郷し、1年半ほど芝居を離れた。それでも演劇の神様は、非凡な芝居人を放っておかなかった。

 「新潟で世話になっていたスタッフから『ルーマニアでの海外公演の主役をやらないか』と誘いがあって。それを最後にしてやめようと思い、新潟に戻りました」

 今も脳裏に焼き付く光景がある。ルーマニア公演を終え、凱旋上演を行った新潟の会場で「よっ、河内! 待ってました」と大歓声がこだました。

 「ずっと闇の中にいた自分にとって、初めて光を浴びたようで。こんなに待っていてくれる人がいるなら、ここで生きようと覚悟が決まったんです」

 周囲から「急いで東京に行っても、あまたいる俳優に埋もれてしまう」との助言もあり、32歳の時、満を持して上京。舞台を主戦場に活動の幅を広げ、俳優・吉田鋼太郎の紹介で演出家・蜷川幸雄氏と出会った。同氏が晩年に演出した、彩の国シェイクスピア・シリーズ第31弾「ヴェローナの二紳士」(15年)に出演した。

 本番直前まで、蜷川作品の洗礼を浴びながらも「蜷川さんから、言葉では言い表せないほど尋常じゃない覇気が出ていて。

ものを作るのに一切の妥協も嘘(うそ)もない。あの空気を身をもって体感したからこそ、今もどんな現場でも役でも『もっと、もっとやらないと』と思う」と指針になっている。

 19年に吉田演出の同シリーズ第34弾「ヘンリー五世」で主要キャスト・騎士フルエリンを好演。舞台で存在感を放つ一方、芸能事務所に所属することなくフリーで活動を続けてきた。「どこかから声が掛からないかなと淡い期待を抱き始めた頃、鋼太郎さんに相談したら『お前に合う事務所はない! お前は今頑張って、映像でいきなりいい役やって、バーンって売れるんだよ』と一蹴されました」

 吉田のその言葉は予言のように現実となった。「VIVANT」の舞台となるバルカ共和国の外務大臣ワニズのオファーが舞い込んできたのだ。20年超のキャリアで、同作がドラマ初出演。「モンゴル語も一から覚えました。声量も舞台とは全然違った」と手探りで映像の世界に飛び込んだ。

 「撮影初日は人生で一番緊張したけど、ジャイさん(=福澤克雄監督)が、グッドサインを向けてくれて。今までの人生でやってきたことが『OKだよ』と言われたみたいで、本当にうれしかったですね。映像で僕は通用するんだろうかと、ずっと思っていましたから」

 演じたワニズは、主演・堺雅人の前に立ちはだかるラスボス的な役柄。

最終回は、堺ら百戦錬磨の俳優らと対峙(たいじ)した。

 「最終回の撮影は尋常じゃない、蜷川さんの現場の時と同じような空気を感じましたね。心から蜷川さんの舞台を経験していて良かったなと。尊敬する役所広司さんともご一緒できて宝物のような体験でした。役者人生の一生の財産です」

 同作放送後、街中で「ワニズのファンです」と声をかけられるなどブレイクを実感。俳優・竹中直人らを擁する大手芸能事務所に所属した。ドラマのオファーも相次ぐ中、映画「8番出口」ではメインキャストに抜てき。主演・二宮和也(42)との共演には特別な思いがある。

 「新潟で新聞配達のバイトをしていた時、雪深い早朝の仕事でくじけそうな時に嵐さんの『Happiness』の前向きな歌詞に何度も救われた。食えない時代には、嵐さんのライブ設営の仕事をしたこともある。今こうして二宮さんと共演できるなんて信じられないし、自然体な人柄や芝居を心から尊敬しています」

 演じるのは主人公が迷い込む、地下通路をループする不気味なおじさんこと「歩く男」。人物像や呼吸すらも感じさせず、ただ歩き続ける。

あまりの精巧な動きの連続に、カンヌ国際映画祭では「CGでは!?」という“疑惑”が浮上するほど。舞台で培ったキャリアの結晶のような役柄だ。

 「同じ芝居を繰り返すのは舞台でずっとやってきたこと。“歩く”表現も、恩人の(演出家)小野寺修二さんの『歩くだけで役の人生を表すことができる』という言葉に感化され、研究を重ねてきた。おじさんは、僕の経験全てが詰め込まれた運命的な役です」

 先月には、自身が主宰する劇団のポーランド公演を成功させ「舞台も映像も偏ることなく挑戦し続けたい」と意欲。「演劇には本当に感謝している。心の底から、魂の底から夢中になれるものに出会えるってラッキーですよね」。幸運をかみ締め、唯一無二の演劇街道を歩き続ける。

 ◆河内 大和(こうち・やまと)1978年12月3日、山口県生まれ。46歳。2000年、舞台「リチャード三世」で俳優デビュー。04年から新潟で「りゅーとぴあ能楽堂シェイクスピアシリーズ」発足から参加し、70作以上のシェークスピア作品に出演。

13年自身主宰の「G.Garage///」を旗揚げ。TBS系「VIVANT」、テレ朝系「今日からヒットマン」など映像作品にも活動の幅を広げている。身長178センチ。

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