今年の日本シリーズで見どころは多々あったが、ハイライトは第5戦、阪神2―0で迎えた8回1死一塁の場面かもしれない。あの時飛び出した、ソフトバンク・柳田悠岐外野手の同点2ランだ。

 マウンドに立っていたのは石井大智。公式戦とポストシーズンを合わせた56試合連続無失点(55投球回)中で、2023年7月13日のDeNA戦で牧秀悟に打たれたのを最後に通算130回2/3、延べ514人で、本塁打を許していなかった。その右腕から打った左翼への一発となった。

 スポーツ報知評論家の安藤統男さんもあの一発にはうなった。「ソフトバンク・柳田の底力を感じた8回の同点弾だった。石井の直球は指のかかりもコースも決して悪くなかったが、スタンドまで持っていかれた。普段、対戦しているセ・リーグの打者なら、球威に押され、左飛かファウルになっているようなボール」と、37歳ベテランの打撃を称えた。

 柳田は今シリーズ5試合すべて「1番」に入り、全試合安打で計10安打。これは5試合シリーズのタイ記録となった。22打数10安打、打率4割5分5厘で優秀選手賞を受賞したが、もう一つ大きな記録を打ち立てた。

 それは「3大舞台」での打率3割だ。昨年まで日本シリーズでの通算打率は2割9分9厘だったが、今年の結果で一気に3割2分1厘となった。

公式戦で3割1分2厘、オールスター戦で3割2厘と、3つの3割台到達を果たした。

 オフィシャルベースボールガイドの記録集にある公式戦通算打率ランキングは、4000打数以上の選手を基準としている。その中で「3割打者」は27人。うち、日本シリーズとオールスター戦でも3割打っていたのは2人だけだった。一人は長嶋茂雄(公式戦で3割5厘、シリーズで3割4分3厘、オールスター戦で3割1分3厘)、そしてもう一人は横浜の強打者として1998年日本シリーズMVPになった鈴木尚典(公式戦で3割3厘、シリーズで4割8分、オールスター戦で4割9厘)だ。

 4000打数未満で公式戦3割5分3厘のイチローは日本シリーズで2割6分3厘に終わった。また公式戦3割3分7厘のバースがオールスター戦で2割4分だった。彼らの数字を見れば、3大舞台で3割という記録が、いかに難しいかがよくわかるだろう。

 鈴木はただ一度の日本シリーズで高打率を残したのに対し、柳田は数を重ねているのも注目だ。2019年までの5度のシリーズは2割7分6厘だったが、2020年代になって3度のシリーズ合計は61打数24安打の3割9分3厘。年齢を重ねるにつれ、大舞台の勝負強さを見せつけてきたのがうかがえる。

 ちなみに往年の選手は機会のなかったクライマックスシリーズ

柳田は得点(33)、安打(57)、本塁打(10)、打点(36)、塁打(95)の最多記録を持っているが、打率は2割8分1厘。こちらの打率3割クリアにも期待したい。(敬称略)

 ※参考資料 オフィシャルベースボールガイド

 蛭間 豊章(ベースボール・アナリスト)

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